森の主-1
俺はいつものように集落の外れでグリフと一緒に居る。近くの地面に魔法陣を描いている俺に、グリフは不思議そうに首を傾げながら言う。
「ミストは何をやるんだ?」
魔法陣を描き終わった俺は、その真ん中に立って答える。
「まあ見てろよ」
そして俺は整形魔法を発動した。俺の執念のキャラクリの成果はプリセットよろしく、魔法陣に埋め込んである。整形魔法は直ぐに完了した。
「ジャーン!どうよ!フレイヤの顔。似てない?」
顔だけがフレイヤに変わった俺を見て、グリフは首をかしげながら答える。
「俺はフレイヤ様の顔、あんまり良く覚えていない」
俺はフレイヤの顔のまま、グリフの顔を見つめてぼやく。
「マジかよ……この鳥頭め!だったらちょっと待ってろよ!」
俺は魔法陣を少し描きなおして、再度整形魔法を発動する。今度はオルドの顔に変形した。そしてグリフの方を見てもう一度聞く。
「よし!今度はオルドだ。どうだ!今度のは流石に分かるだろ!」
グリフは俺と何かを見比べながら答える。
「そう言うの、あんまり良くないな」
グリフの思わぬ反応を意外に思った俺の後ろで、ガサリを言う音がした。そして良く知っている声がする。
「誰が、誰に、似てるって?」
振り向いた俺のオルドの顔に、本物オルドの怒りの蹴りが炸裂した。
顔を押さえている俺を無視して、オルドはグリフに指示をだす。
「グリフ!上空から近くを見張れ!嫌な気配がする」
オルドの指示を受けて、グリフはすぐさま飛び立った。
整形を解除している俺に、オルドが言う。
「テメーも準備をしろ!」
俺は顔を押さえながらオルドに聞く。
「準備って、何の?」
オルドが真剣な顔をしながら大剣を抜いた。
「戦いのだ。森の主が集落に近づいている……」
俺もオルドの見ている方向を見る。ガサガサと音がすると、そこからキマイラが飛び出してきた。
俺は慌てたが、オルドはキマイラなど眼中に無い。キマイラも俺たちなど目にもくれず、その場から逃げるように駆けていく。その時だった。
ドゴォォォォォォ
キマイラの飛び出して来た木々の奥から、物凄い音がする。その音が近づくにつれて、バタバタと木々が倒れていく。
俺は鳥肌を立てながら、呟くように言う。
「え!?ヤバくない?」
オルドが目を逸らさずに言う。
「ヤバいぞ。油断すると、すぐに死ぬぞ……」
突如として、白くて太くて長い何かが、木々の奥にチラついた。それはキマイラが向かって行った方に突っ込んでいった。
ブゴィヤシャァー
突っ込んでいった先で、獅子と山羊と蛇の悲鳴が同時に聞こえる。それはすぐに静かになった。
俺たちの後ろに、飛び立っていたグリフが降り立った。そして震える声で呟くように言う。
「森の主、ワーム、デカい」
その説明に反応するかのように、キマイラに向かって行った白くて太くて長い生き物が、再びこちらに向かってくる。そして、それは俺たちの前に現れた。
森の主
魔の森の食物連鎖の頂点。白くて太くて長い蛇のような、巨大なワーム。その体躯は、数百年を生きる巨木すら上回る。
その顔のある辺りには巨大な口があり、口にはこれまた巨大な乱杭歯が生えている。それに対して、目はとても小さい。
「マジで!デカすぎでしょ!学校のプールよりもデカいじゃん!」
俺は思わず叫んだ。その声に反応して、ワームの顔が俺の方を向く。その拍子に、口から何かが零れ落ちて、俺の目の前に転がった。それは、キマイラの山羊の頭。それを見て、俺の顔が思わず引きつる。
「あとは、頑張れ」
俺たちの後ろに居たグリフはそう言うと、飛び去って行った。
俺はグリフへ抗議するために振り向こうとしたが、オルドがそれを牽制するように言葉を紡ぐ。
「目を逸らすな。アイツ、突っ込んでくるぞ……」
ワームが蛇のようにとぐろを巻き始めた。その全身の無数の関節を曲げ、力を溜め、加速の準備をしていく。
オルドがワームを凝視する。瞬きもしない。その呼吸は狭く、浅い。
ミストは、ワームを見つめる。とりあえず、いつでも逃げられるようにする。
ワームが縮め切ったバネを開放するかのように飛び出す。飛び出した先に居るのは、オルド。オルドはワームが飛び出した瞬間に、一瞬でスライドしてく。
オルドは間一髪で躱した。ワームの突っ込んでいった先には、小さなクレーターのような穴が開いている。
ミストは何も反応できなかった。
(ワームが俺に突っ込んできていたら、死んでたな……)
俺は圧倒的な力と技量の差に、どうすればいいのか分からなかった。




