森の集落-3
「魔法陣には自分の一部を組み込む。爪でも髪でも何でもいい。そして魔法陣を描く紋章を描く墨には自分の血を入れて溶け」
オルドはそう言って、魔法陣を描くための道具一式を俺に渡した。俺はその道具で魔法陣を書く準備を始める。オルドはその様子を見ながら言う。
「基本的に魔法陣は自分用だ。他人の魔法陣も使えなくはないが、そうすると術の精度が落ちる」
俺はそれを聞いて、以前モリガンの魔法陣を使ってモリガンを召喚した時のことを思い出した。俺はオルドに聞く。
「精度って、そんなに重要なの?」
オルドはいつものように馬鹿にしたように俺を見ながら答える。
「あたりめーだろーが!召喚魔法なら召喚対象の操作精度が全然変わってくる。今回の件みたいな用途なら簡単な受け答えだけで済むが、戦闘に使うとかになると話は別だ!」
それを聞いて、俺は納得した。確かにモリガンを召喚した時も、簡単な受け答えにしか使っていない。オルドが続けて言う。
「精度は使ってあげていく。魔法陣も術ごとに調整したりする。その辺は回数を重ねて慣れていくしかない」
俺はそれを聞きながら、墨に自分の血を溶いていく。
(ここでも練習か……まあ、そんなもんだよな)
そんな俺を眺めていたオルドが、考え込むような顔をしながら俺を見つめる。そして呟くように言う。
「オメーは、ランク10か11だよな……」
「10だよ」
俺は一言だけ返す。それを聞いたオルドは、何も言わずに俺を見つめた。
俺は何とかして魔法陣の書き方を覚え、フレイヤの召喚にも無事成功した。
こうして俺の集落での生活が始まった。
オルドがやっていたように、フレイヤを召喚して集落をブラつき、定期的に麻薬集会を開いて住民を集める。
フレイヤに集まってくる住民たちを見ると、元の世界の動画サイトでたまに見ていた、路上で麻薬の依存症になっていた人たちの動画を思い出す。生きているのか、ゾンビなのか良く分からない人達。大体、あんな感じだった。
そんな感じなので、定期的に住民は自然死していく。だが、どこから来るのか新しい住民が増えている。最初は多少まともなのだが、直ぐに集落の住民になじんでゾンビのようになっていく。
死んだ住民をそのままにしておくと誰も片づけないので、俺が焼却場まで運んで行って黒魔法で燃やす。残しておくと魔物が寄ってくるからだ。
俺と住民の関係がこんなだったので、俺には住民と仲良く話すとか、する気にはならなかった。向こうも俺の事はどうでも良い感じだった。居ることにも気がついていないかもしれない。なので俺の会話の相手は、もっぱらグリフォンのグリフだった。
俺とグリフは集落から少しだけ離れた場所に居た。オルドの行動制御魔法の範囲は、集落よりも少し広かったので、多少なら外に出ても大丈夫だったからだ。俺は切り株に腰かけながら、近くで身体を折りたたんで、のんびりと目を瞑っているグリフに話しかける。
「なんでグリフはオルドと一緒に居るの?」
前々から気になっていたことをグリフに聞いてみた。グリフが気持ちよさそうに閉じていた目を開いて言う。
「以前、俺がキマイラに襲われていたところを助けられた。倒れている俺にオルド様とフレイヤ様が近づいて来て、フレイヤ様が怪我を手当てをしてくれた。その後でオルド様が俺に魔法を掛けてくれて、俺はオルド様と話せるようになった」
俺にはオルドがグリフを助ける姿が想像できなかったので、フレイヤが助けたと聞いて納得した。
「グリフは生きている時のフレイヤに会ったことがあるんだ?どんな人だったの?」
俺の問いかけに、グリフは首をかしげながら思い出すように話す。
「俺の怪我が治った直ぐ後に、森の主との戦いで死んだから、あんまりよく知らない」
「森の主?キマイラじゃなくて?」
俺は思わず聞き返した。グリフが答える。
「全然違う。もっとデカい、蛇みたいなヤツだ。キマイラも喰う」
俺は嫌な顔をした。まさかキマイラよりも強い魔物が居るとは思わなかったのだ。
「その時に火事が起きて、フレイヤ様はその時に死んだ」
俺はフレイヤの杖の脊椎が少し焦げていたことを思い出した。そして初めて会った時のオルドが、やたら山火事にうるさかったことも思い出した。
俺は集落のフレイヤの家を拠点にすることとなった。オルドはここには住んでいない。どこに住んでいるのかを尋ねた時の回答はこうだ。
「その辺に居る」
要するに教えてくれなかったのだ。
「アイツは俺には色々と話させるくせに、絶対に自分のことは話さないよな!」
俺は家で魔法陣を描きながら、誰ともなく呟く。一度ぐらい見返してやりたいが、そのためにはまともに黒魔法を使えるようにする必要があった。
そんなわけで、俺は家で黒魔法の練習をしている。今日は整形をやってみるつもりだ。
描き終わった魔法陣の真ん中に俺は立つ。そして手をかざして、整形魔法を使う。変身対象はフレイヤだ。
魔法陣から紫の光の輪が立ち上り、俺の顔をスキャンするように動いていく。そして俺の目の前に、紫の光がワイヤーのように組み合わさった、俺の顔のレイアウトのようなものが出て来た。俺はそのレイアウトを両手で触ってみる。耳をつまんでみると、それに応じてレイアウトの形が変化する。俺の実際の耳も引っ張られるような感覚があった。
「これってもしかして、ゲームのキャラクリみたいに、顔の全パラメータを弄って顔を作るアレか?」
もっとお手軽なものを想像していたのだが、存外大変なようだ。俺はレイアウトを弄りながら、鏡を見つめて練習する。
「俺って、スタート前のキャラクリから先に進めないタチだったんだよな……」
目を引っ張ったり、顎を伸ばしたりしながら、俺はひたすらキャラクリを続ける。
どれだけ時間を掛けても構わなかった。死ねない俺には、寝る必要などない。時間など死ぬほどでもあるのだ。




