森の集落-2
俺は怒った顔をしてオルドを見上げる。そして自分のポンコツさにも心底腹が立ってきた。
(ちっくしょー!!!)
オルドはそんな俺を眺めながら、指示を出す。
「とりあえず今日は俺がフレイヤを操作していく。オメーはそれを見てどう立ち回ればいいのかを見ておけ」
そう言うと、オルドはフレイヤを連れて家から出て行った。
フレイヤを見た集落の住民たちは、喜んだような目をしてフレイヤの周りに集まりだした。
「おお、フレイヤ様!」
「お久しぶりです」
フレイヤは微笑みながらその住民たちの相手をしている。フレイヤはからは殆ど話さない。あまり話すとボロが出るのだろう。住民たちは体の苦痛を訴えたり、何やら過去の話をし始めたりして取り止めがつかない。会話になっていない気がするが、それでも問題ないようだ。
オルドはフレイヤを連れて集落を一通り回ると、元の家に戻って行った。
俺たちはフレイヤの家の最奥の部屋へ戻った。俺がオルドに尋ねる。
「あれだけ?」
オルドが答える。
「数日に1回くらい集落をブラブラして適当に会話をしておけ。見た感じの通り、アイツらが勝手に喋っているだけだから、適当に頷かせればいい」
そして魔法陣のある部屋を見つめて言う。
「そして2~3週間に1回、この部屋で儀式を行う。その時に部屋へ薬草を焚いて、アイツらを閉じ込めておけ。とりあえず次の儀式は俺がやる」
俺は部屋にある祭壇を見ながら、オルドに聞く。
「儀式って、どんなのなの?」
オルドも祭壇を見ながら答える。
「白魔法使いの儀式だ。フレイヤは白魔法使いだった」
数日後、俺は同じ部屋でオルドの操るフレイヤの儀式を後ろから眺めていた。オルドは別の部屋から操作しているようだ。
やっていることと言えば、フレイヤが経典のような本を暗唱して、住民がそれを聞いているだけだ。俺はあんまり聞いていない。
と言うより、部屋に立ち込める香草の匂いが凄まじく、頭がぼんやりしてまともに聞いていられない。俺はこっそりと部屋から出て深呼吸をした。
儀式が終わって住民たちは部屋から出て行った。出て行った後でオルドが部屋にやって来て、部屋のドアと窓を全開にして換気をしている。俺はオルドに聞いてみる。
「なんか凄い匂いだったけど、アレって麻薬みたいなヤツだよね?」
アルガスのところで散々毒薬を飲まされて、毒ソムリエとなった俺には直ぐに分かった。オルドは振り返らずに言う。
「そうだ」
流石に疑問が湧いたので、俺は続けて聞く。
「白魔法の儀式って、あんなことするの?なんか怪しい宗教みたいな感じだったけど?」
俺は白魔法には詳しくない。と言うか知らない。恐らく黒魔法と対を成す魔法なのだろう。それなのにあの儀式はどちらかと言うと、黒魔法とかでやりそうな儀式だったからだ。
オルドが振り返らずに言う。
「やらない。俺も詳しくは知らない。だから麻薬漬けにして、適当に誤魔化している」
「マジで!?」
俺は思わず聞き返した。いくら何でも流石に適当過ぎる。オルドは特に悪びれた風もなく、俺を見ながら続ける。
「どちらにしても、アイツらは元々麻薬漬けだ。こんな森の奥に流れてくるやつは、大体脛に傷のあるやつらばっかりだからだ。帰る場所もなく、やることもなく、みんなああなる」
思った以上に終末的な集落だったらしい。やけに住民が不健康そうだったのは、それが原因だったようだ。唖然としている俺をみて、オルドがフレイヤの召喚を解除しながら言う。
「フレイヤは、そんな救えない連中の面倒を見ていた。アイツは誰にでも慈悲の手を向けるヤツだった。誰にでも公平だった」
それを聞いて、俺は疑問が湧いた。
「え!?フレイヤって凄く良い人だったの?」
俺の問いに、オルドはいつものように答える。
「いや、クソ女だ」
部屋の掃除が終わったところで、オルドが俺を見ながら言う。
「こういう感じだ。オメーは俺の替わりにフレイヤを召喚して、住民の相手をしろ。これがオメーの役目だ」
そう言って、オルドはフレイヤの杖を俺に投げてよこした。俺はその杖を受け取る。受け取った杖に巻き付いている脊柱が、少しだけ焦げているように見えた。
「集会前には部屋の魔法陣は消せ。召喚する時にだけ書くようにしろ」
オルドの指示に、俺は答える。
「俺、魔法陣の書き方を知らない」
それを聞いて、オルドは俺を心底見下して言う。
「オメーは、本当に、ポンコツだな……」




