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森の集落-1

 オルドに拉致された俺は森の更に奥へ連れて行かれる。喚きつかれた俺は、ぼうっとしながら周りの風景を見渡していた。

(こうやって連れて行かれるのは、オズロ兄弟に売られてた時以来だな……)

 碌でもない経験値ばかり獲得していく自分のイベントの引きの悪さを呪いながら、俺は悠々と歩いて行くオルドを見つめる。

(コイツ……いつか絶対にやり返してやる!)

 

 グリフに揺られて小一時間ほど運ばれた俺の鼻に、何か生臭くてツンとした臭いが届き始めた。どこからともなく人の気配がし始める。

 突然グリフが立ち止った。あまりに突然だったので、俺はその弾みでグリフから大剣を抱いたまま転がり落ちた。

「いでっ!」

 マーフィーの法則に従い大剣の下敷きになった俺を、オルドが見下ろしながら言う。

「ここから先にグリフは入れられない。オメーは歩け!」

 そして拘束魔法を解いてから、俺の上に乗っていた大剣を掴んで背中に背負った。

(今のうちに逃げられないか?)

 そう思って周りを見渡していると、俺を凝視するグリフの視線とかち合った。どうも逃げられそうにない。オルドは俺を無視してそのままその先に向かって歩いて行く。

 俺は起き上がると、渋々オルドについて歩いて行った。


 オルドが入っていったのは、村と言うよりは集落と呼んだ方が良さそうなところだった。掘っ立て小屋のような建物が点在して建っている。強烈な生臭い匂いが立ち込めている。どうやらこの臭いの元はこの辺りにあるようだ。

 村人らしき男がヨタヨタとオルドに向かってくる。顔色の悪い、もの凄く不健康そうな男だ。その男はオルドに拝むように言う。

「オルド様……フレイヤ様はまだいらっしゃらないのですか?」

 オルドは蔑むように男を見下ろしながら答える。

「フレイヤは忙しいんだ。もう少し我慢しろ」

 そう言ってその男をどけると、そのまま先に歩いて行った。

「誰なの?フレイヤって?」

 俺はオルドの後ろについて歩きながら、先ほどの男が言った名前をオルドに尋ねた。オルドは一言だけ答える。

「クソ女だ」


 オルドは集落の外れにある、ここいらにしては立派な建物に着いた。建物の入り口に大剣を立て掛けるオルドに、俺はムスっとした顔で言う。

「ここがオルドの家なの?」

 オルドは振り向かずに答える。

「俺のではない。まあ、付いてこい」

 そして玄関のドアを開けると、そのまま家に入っていった。俺もその中に入って行く。

 オルドは入ってそのまま奥へと進んでいく。そして最奥の扉の鍵を開けると、その部屋に入って行く。俺もそれに付いて入っていった。

 その部屋にあったのは、いつか見たような魔法陣。オルドは部屋の壁に立てかけてあった杖を手に取る。それはモリガンが持っていたような、背骨の巻き付いた召喚用の杖。オルドは魔法陣に杖を投げ込むと、召喚魔法を使った。

(何を召喚する気だ?)

 俺は目を細めて、背骨から湧き出る肉体を見つめる。それは人型を取って行く。若い女性のようだ。

 金髪に緑の瞳。鼻筋の通った高い鼻に、切れ目の長い目。そして尖った耳。体系は均等の取れたスレンダー。何となくエルフっぽい感じだ。

「誰?」

 俺は一言だけ尋ねた。

「クソ女だ」

 オルドは一言だけ答えた。


 召喚されたクソ女、もとい元フレイヤは、近くにあった服を着ている。俺はオルドに尋ねた。

「さっき入り口で、村の人がこのフレイヤを探していた気がするけど。あの人達って、フレイヤが召喚されたってことを知ってるの?」

 オルドは答える。

「アイツら知らない。アイツらはフレイヤが死んだことに気がついていない。俺が召喚魔法で使役して、生きているように見せかけている」

 俺はフレイヤを見つめる。服を着終わったフレイヤは、感情の無い目でオルドを見つめていた。オルドは舌打ちをして、話を続ける。

「フレイヤは、この集落のリーダー、と言うか巫女とか神官みたいなヤツだった。この集落の連中は、フレイヤを崇拝している。居なくなると俺が困るから、こうして生きているように見せかけている」

 神官と聞いて、俺は部屋の中を眺めた。確かによく見ると、祭壇みたいなものがあるように見える。

 オルドが俺を見て言う。

「俺はオメーにやらせたいのはこれだ。フレイヤを召喚して、生きているように見せかけろ」

 俺は嫌そうな目でオルドを見つめる。

(なんで俺がそんなことをしなけりゃいけないんだ)

 内心で呟いたつもりだが、どうやら以心伝心したようだ。オルドが俺を睨んで言う。

「なんだ?文句でもあんのか?」

(ある。なんなら文句しかない)

 俺は内心で反論して、目で訴える。オルドがため息を付いて言った。

「まあ、嫌ならいい。だったら別の頼みがある。ちょっと魔法陣の中心で、フレイヤと向かい合ってくれ」

 それぐらいなら、と思って俺は魔法陣に向かった。そしてフレイヤと向かい合う。俺とフレイヤの身長は同じくらいだったので、同じ高さで目線があった。

(こうしてみると、美人だな。モリガンとはタイプが違うけど……)

 そんなことを考えていたら、オルドが俺に手をかざして、魔法を使い始めた。

 嫌な予感がしてオルドの方を振り向いた時には遅かった。魔法陣が光り始めて、外周部から黒い光の線が立ち上る。それは檻のように俺を囲うと、収束して俺を縛るような形になった。それはそのまま収束を続けて、俺の身体の中心に至った辺りで消えた。

「おい!ちょっと!何をしたんだよ!」

 喚き散らす俺を、オルドが馬鹿にしたように見下ろしながら言う。

「ランク9の行動制御魔法だ。この魔法陣の中心から、俺の決めた範囲以外にには出られない。出ようとすると、頭に激痛が走って動けなくなる」

 俺はオルドを見上げる。アルガスの時と同じだ。監獄の範囲が広がったけど、俺は集落に閉じ込められたのだ。

「つーか、ここに連れてくる時と同じパターンじゃねーか。黒魔法使いの言うことをホイホイ聞いてるんじゃねーよ。本当にポンコツだな、オメーは!」

 オルドは心底馬鹿にしたような顔で、俺を見下ろしていた。

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