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魔剣士オルド-1

 俺は尻もちをついて、キマイラから後ずさる。キマイラの三頭が俺を見据える。焚き木に覆いかぶさったキマイラの腕が撥ねるように動き、薪を吹き飛ばした。周りを暗闇が覆う。

(ヤバい!何も見えない!)

 俺は手元に炎撃で明かりを作り出す。その瞬間、目の前にキマイラの獅子の顔が現れた。

 何度も、何度も見た、俺のトラウマ。終わりのない保存食生活の象徴。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 俺は叫びながら無我夢中で、獅子の顔面に炎撃の炎を叩き込む。キマイラは嫌がる素振りを見せると、飛びのいて距離を取った。

 俺は立とうとしたけど、腰が抜けて立ち上がれない。這いずるように俺も下がると、炎で周りを照らしながらグリフを探す。が、居ない。

「あの野郎……逃げやがった……」

 俺は悲哀に満ちた声で叫んだ。どうも俺は逃げるための囮にされたようだ。俺はもう一度キマイラを恐怖しながら見つめる。炎に驚いたキマイラは、様子を見ているようだ。

(何か……何か、他の魔法は……)

 俺は必至で頭の中の魔法を探す。今まで不意打ちでしか戦ったことが無かったので、いざ自分が不意打ちをされると、何をしていいのかが分からない。

 俺は思い出した、新しく覚えた魔法をキマイラに使う。


 獄炎!

 

 キマイラの周りに巨大な炎が立ち上る。キマイラは驚いて更に距離を取った。が、対してダメージが入っていないようだ。獄炎の炎は近くの枯れ木に燃え移り、辺りを明るく照らし出した。

 俺は這いずりながら他の魔法を探す。

(他の魔法、何があったっけ?)

 恐怖とパニックで頭がまともに動かない。驚き終わったキマイラが少しずつ距離を詰め始めた。俺が手をかざして、炎撃を使おうとした瞬間だった。

「オイオイ、山火事にでもするつもりか?考えなしに火をつけてんじゃねーよ」

 デカい声が辺りに響いた。俺はその声の主を見上げるように見る。そこに居たのは、声よりもデカい男だった。ダズよりも更に頭一つ分はデカい。その背中にこれまたデカい両刃の剣を背負っている。古そうな黒のコートを着て、頭には形の崩れたハットが乗っている。その顔は、狼のように鋭い。

(怖い……)

 街で見かけたら横道に入ってでも避けたくなるタイプの人だ。狼男とかだろうか?俺はそれとなく目を逸らして、キマイラに目を戻した。

 

 大男は俺に目をくれず、キマイラを見据える。そして背中に背負われた、そのデカい両刃の剣を抜いた。キマイラの山羊が何かを呟くと、獅子と蛇の目線が俺から大男に変わった。

 炎が照らし出す、大男とキマイラの対峙。パチパチという、木のはぜる音が辺りに響く。


 ドサッ


 炭化した木が重さに耐えきれず、崩れた。その音を合図とするようにキマイラが駆ける。その前腕が男の到達する瞬間だった。その男はその体勢のままに半歩ほど後方へスライドするように動いた。キマイラの前腕が空を切った直後、男が再びスライドするように前進し、その剣を横に一閃する。その横なぎは、正確に獅子の両目を切り裂いた。

 獅子が絶叫を上げて腕を振り回す。山羊が何かを呟いているが、獅子はそれにも構わずに暴れ回っている。獅子には最早何も通じない。

 男の両足から何かが飛び出した。それは山羊の角のあたりに飛んでいく。それは空中を飛ぶ手のように見えた。獅子に構っていた山羊は、その手に気がつかない。その手は山羊の角を手で掴んだ。手は角を掴んだままその親指を山羊の目に押し当てると、そのまま親指を突っ込んで目を抉って行く。

 今度は山羊もパニックになった。蛇は状況が分かっていないまま、舌を出しながら周囲を見渡す。一体三頭のキマイラは、既に連携が取れず、全員がバラバラだ。

 男は大剣を掴むと、キマイラに向かってぶん投げた。その剣は黒魔法で加速され、回転しながら蛇の首に向かって行く。蛇は剣に気がついたが、どうすることも出来ない。その剣は回転のままに、蛇を丸太のように切断した。


 キマイラの、獅子と山羊の絶叫が夜の森に響き渡る。俺はその光景に見入っていた。

「凄い……」

 あれほど俺を弄び、冒険者ギルドの強者たちすら避けるキマイラを、この男は容易く倒した。所々で黒魔法を使っていたことから、黒魔法使いであることは分かる。

(そうなるとこの男は……)

 俺の内心の疑問に答えるかのように、後ろから逃げていたはずのグリフの声が聞こえて来た。

「流石はオルド様です」

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