魔の森-2
俺は森の中を歩いて行く。今は冬が明けて来たくらいの季節なので、森の木々は枯れており、比較的見通しは良かった。
「とりあえずこのまま真っすぐにいけば森を抜けられるはずだ」
そんなことを呟きながら俺はひたすら歩いて行く。
地図もなく、磁石もない。見知らぬ森を、地元民も避けるような森を、山勘で歩く。こんなことをすれば、どうなるかは明らかだ。
「あれ?この場所ってさっき来たような気がするけど、気のせいか?」
俺は周りの風景を見渡す。同じような風景なので、良く分からない。俺は後ろを振り返った。そこにも、同じような風景が広がっている。
既に日が暮れ始めている。俺は少し開けた場所に腰を下ろした。そして呟く。
「迷った」
俺は適当な焚き木を集めて、火を起こした。まだまだ寒い季節なので、この時間帯になると凍えるような気温になる。
見知らぬ森で、道に迷い、寒さに襲われる。
よく考えたらかなり不味い状況のはずなのだが、俺は特に焦っていなかった。呪いのせいで、腹も減らないし、眠くもならない。この呪いはサバイバルにはうってつけだったからだ。
「まあ、キマイラとかが出てこなければ大丈夫だろう」
俺は一人で呟く。なんかフラグっぽいことを言った気がするが、そんなことは無いだろう。
ガサリ
後ろで何かの足音がした。あまりに早いフラグ回収にドキドキしつつ、俺は後ろを振り向く。そこに居たのは……
獅子の足に鷹の頭、大きな鷹の翼を持つ化け物が居た。
「ギャー、化け物!」
俺は大声で叫んだ。その俺の剣幕にびっくりした化け物も叫んだ。
「ギャー!オルド様じゃない!」
その言葉に、俺は更にびっくりした。
「え!?なんで化け物が喋るの?」
それを聞いて、化け物が更にびっくりした。
「え!?なんでオルド様じゃないのに喋れるの?」
俺は化け物と顔を見合わせる。種族もサイズも違う俺たちの目つきはどこか似ていた。俺たちは多分同じことを考えている。
(何なんだ?コイツは?)
俺たちは焚火を囲いながら、喋っていった。化け物はグリフォンという種類の魔物らしい。
「オルド様にはグリフと呼ばれている」
グリフはそう言った。安直なネーミングだなとか思いつつ、俺も名前を返そうとして、ふと気がついた。
(ドナルドは不味いな……手配されている)
別にグリフに言っても捕まらないとは思うが、万が一がある。別の名前が良いだろう。俺は色々と考えて、思いついた名前を言う。
「俺の名前はミスト」
この世界へ来る前に観た、映画の名前を拝借することにした。怖くて最後まで観られなかったが、確か森の中が舞台だった映画だ。俺に他人のネーミングセンスを突っ込む資格はない。
名前を聞いたグリフが俺に言う。
「で、なんでミストは俺と話せるんだ?」
俺も分からない。思いつくのはアルガスに掛けられた意思疎通の魔法だが、アレは化け物にも通じるのだろうか?
「もしかしたら魔法の影響かもしれないな。そのオルドってのも魔法使いなのか?」
グリフが答える。
「そうだと思う」
微妙に頼りない返事だ。仮に魔法使いなら意思疎通魔法が使える魔法使いという事になる。この魔法はランク8なので、俺みたいにたまたま覚えたとかでなければ、オルドはランク8以上の魔法使いだ。モリガンがランク9だったので、それよりも上という事になる。
俺はグリフに聞く。
「そのオルドってのが、グリフの主人なのか。どこに居るの?」
グリフが答える。
「オルド様は時々ふらっと森へ散歩に出かける。どこに居るのか俺も知らん。火があったからここに居ると思って来たが、お前しかいなかった」
どうやら行方不明らしい。俺は焚火を見ながら考え始める。
(もしも黒魔法使いなら、黒魔法を教えてもらえないだろうか……)
大変自分に都合のいいことを考えているのは分かっている。とは言え、このままずっと森でさまよい続けても、死ぬ方法が見つかるとは思えない。どこかで街に出る必要もあるだろう。そうなると、黒魔法は使えた方が良い。
(オルド……か、どんな魔法使いだろう?)
今まで会ったことのある黒魔法使いは、俺を散々いたぶったアルガスと、闇ギルドのリーダーだったモリガンだ。思えば碌なヤツが居ない。
そもそも冒険者ギルドでは黒魔法使いは出禁だ。オルドにもあんまり良心的なものは期待しない方が良いだろう。
(とりあえず会ってから考えるか……)
俺は焚火を見つめて内心で独り言ちる。その焚火に獅子の手が覆いかぶさった。俺はグリフに言う。
「おいグリフ、何してるんだよ。寒いんだから、焚火を消すなよ!」
そう言ってその手の主を見る。そこに居たのは、獅子と山羊と蛇がくっ付いたような、巨大な生き物。
「ギャー、キマイラ!」
「ギャー!」
俺の叫びとグリフの叫びが、夜の森に響き渡った。




