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魔の森-1

 隣の国への街道を歩きながら、俺は悩んでいた。ランク10の契約をしたことで多くの魔法を使えるようになった。その中でも顔を変化させる整形や、声を変える整声は逃亡生活に役に立つだろう。

 だが、それらを使うには魔法陣が必要なのだ。俺は、未だに魔法陣の作り方が分からない。アルガスの家で少し調べた程度では、良く分からなかったからだ。モリガンから学ぶことが出来れば良かったのだが、その前に殺してしまったので、学ぶ機会が無かった。

(どこかで覚える機会はないだろうか?)

 とは言え絶賛逃亡生活中である。闇ギルドを敵に回してしまったので、裏社会の者から学ぶルートが無くなってしまった。冒険者ギルドで出入り禁止なくらいだから、表ルートなどあるのかどうかすら分からない。

「俺って、本当に計画性が無いな……」

 俺は思わず呟いた。夏休みの宿題は、途中まで進めて放置して、最終日に全部やろうとしても終わらずに、終わってからダラダラやるタイプだった。

 そんなことを考えながら、俺は街道を歩き続ける。その街道の先に、何か建物が見え始めた。どうやら関所のようだ。


 関所の門の近くには人だかりが出来ていた。人だかりの中の一人が大声で叫ぶ。

「おい!いつになったら、先に進めるんだ!」

 関所の門番も大声で返す。

「帝都で起きた要人暗殺の手配が回っている。これから一人一人確認していくから、身に覚えが無いのであれば大人しく待て!」

 (要人暗殺……)

 俺は嫌な予感がした。俺は人だかりに紛れ込んで、隣のおじさんに聞いてみる。

「あの……要人暗殺って、どういうことが起きたのか、ご存じですか?」

 人の良さそうなおじさんは、俺に答えてくれる。

「なんでも帝都に住んでいた有名な貴族が暗殺されたらしい。エメリアという美女だとかなんとか。それも死体がズタズタに切り裂かれた、酷い有様だったとか。恐ろしいこともあるもんだな……」

 俺は神妙なフリをしてその話を聞きながら、内心で独り言ちる。

(エメリアはモリガンの表の名前だったはずだ。つまり、手配されているのは俺だ!)

 身に覚えしかない俺は、それとなくその場を離れて行く。


 俺は少し離れた場所のベンチに座って、人だかりを眺めながら、どうするかを考えていた。

(このまま関所を抜けるのは危険だ。年齢だけで誤魔化せるか分からない。それにもしかしたらパスポートみたいなものが必要なのかもしれない)

 映画なんかでは、この後で裏組織から裏口ルートを紹介してもらって、そこから逃げるパターンだ。だが俺は、その裏組織からも絶賛逃亡中なのだ。

(やべえよ……やべえよ……)

 独り言ちながら、ぼっとした目で人だかりを眺めていると、どこかで見たような男が見えた。周りの人達よりも頭一つは背が高い、ガチムチな大男。俺は立ち上がって後ろを向いた。

(ダズじゃねーか!ここまで追って来たんだ!)

 俺はダズの方を見ないようにしながら、その場を立ち去った。


 関所から離れて街道に戻った俺は、惜しむように関所を見つめた。

(正面も裏口も無理だ。こうなったら……)

 俺は、関所の右側から始まる森林に目を向ける。確か以前確認した地図では、この森を迂回すれば隣の国に出られるはずだった。

 森にはキマイラのような化け物が居るかもしれない。でも、このままではジリ貧なのは明らかだった。

(使える黒魔法が増えた今なら、何となるかもしれない……)

 俺は、意を決して森に向かう。冬空けの季節の森では、木々は葉が枯れ落ちいて、思いのほか見通しが良い。

(アレ?これなら行けそうだな)

 そして俺は、その森に足を踏み入れた。


 少し離れた場所から、街道を歩く旅人の集団が、森に向かって行く若い男を見て口々にまくし立てる。

「オイオイ、アイツ、森に向かって行くぞ!」

「なんでまた森なんかに……逃亡者とか脱走奴隷かな?」

「かもしれんな。まだ若そうなのに……」

 彼らが見つめているうちに、森に向かって行った男の姿は見えなくなった。

 この森から隣国に密入国しようと考える連中は多い。だが、帝国も隣国も、特にそのための対処はしていない。する必要が無いからだ。この森を抜けて行き来できる者など、居ない。企んだものは、皆、森の肥やしとなっていく。

 この一帯に住む者も、この森には足を踏み入れない。入ったら帰って来られないからだ。

 この森をことを、皆こう呼んで恐れる。

「魔の森」

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