選択-2
俺はモリガンとキマイラを見つめる。そして気絶しているミリアを見つめる。そして、魔法陣の上に戻った悪魔を見つめる。
ミリアを生贄にすれば、俺の黒魔法使いのランクは上がる。
断ったら、俺は殺される。そして、死なないことに気づかれるだろう。それに、きっとミリアはその後で殺される。
俺は悩んだ。そして気がついた。
(なんで俺は、ミリアを生贄にすることを悩んでいるんだろう?)
アルガスを生贄にするときは、まるで躊躇しなかった。オズロ兄弟を殺すときも躊躇しなかった。ガロを拘束した時も、直ぐに殺す気だった。
でも、ミリアに関してはそうで無い。なぜだろう……。
馬車にのってミリアと話していた時のことを思い出した。そして、エミリと話していた時のことを思い出した。この二人は、この世界に来て、初めて一緒にどうでもいい話をしてくれた人達だった。俺を人として扱ってくれた人達だったのだ。
そして、オズロ兄弟のことを思い出す。彼らは、俺が死なないと分かる前は優しかった。きっと最初は俺を人だと思っていたのだ。もしも優しかった時のまま、殺すかどうかを迫られたら、今回のようにとても悩んだのだろう。
俺は再びモリガンを見つめる。彼女は笑顔のままだ。彼女は、黒魔法の師として、俺に試練を課しているのだ。お前にとっての人を殺せ、と。
俺は、再びミリアを見つめる。そして悪魔を見つめる。そして、何をすべきかを考える。今まで何をして来たのかを考える。そして、何をすべきかを決めた。
俺は、悪魔に近寄る。そして、振り返って、モリガンに拘束魔法を放った。
その瞬間、キマイラが前腕でドナルドを叩きつけた。モリガンは当然のように拘束魔法を躱す。不意打ちでもなければ、拘束魔法など当たらない。ドナルドはうつ伏せになってモリガンの前にひれ伏している。モリガンがドナルドの頭を踏みつけながら言う。
「あーあ、残念。ここまでお膳立てさせて、それは無いでしょ?ちょっと甘すぎないかな?やることも考え無しだし。貴方、零点よ!」
モリガンが手を、キマイラに踏みつけられているドナルドに向けてかざした。そして、その手から魔法が放たれた。その魔法によってドナルドは寿命を奪いつくされ、その場で皺くちゃになって果てた。
モリガンはキマイラの召喚を解除する。杖は地面にコトリと音を立てて落ちた。そして魔法陣に戻った悪魔の元に向かって行く。魔法陣の近くで気絶しているミリアを見て、ボヤくように言う。
「あーあ、どうしようかな。この子の残留品を餌にして、冒険者ギルドの連中を集めて、私とドナルドの二人のキマイラで強襲。散らばったところを40人の手下て囲んで殲滅する予定だったのに、全部パーじゃん!ふざけんな、クソドナルド!せめてこの子を使って、私の契約でも更新しとくかなー」
モリガンが悪魔に向かって言う。
「と、言うわけで、契約更新してくれない?」
悪魔は目線を動かさない。そのまま喋り始めた。
「私は、常日頃から、誰にでも公平であろうとしています。私にとっては、全ての人に価値があり、全ての人に価値が無い。そして、機会と言うのは公平に与えられるべきではないか?と、思うのですよ」
ポカンとしているモリガンに構わず、目線をそのままに、悪魔は語り続ける。
「それは貴方にもそうだし、彼にもそうです。そうは、思いませんか?」
悪魔は公平だった。なので目線は誰にも合わせていない。モリガンにも、ドナルドにも。
果てたドナルドが立ち上がった。モリガンが振り返った。モリガンの目に映ったのは、見たことない若い男。
(誰?え?ドナルド?なんで若返っている?なんで生き返っている?え、なんで?)
モリガンの頭が、突然の事態に思考が埋め尽くされた。先ほどは、完全にドナルドの行動を制御した上でのやり取りだったので、余裕があった。だが完全に臨戦態勢を解き、油断してしまっていた。
いや、別に油断していたわけでは無かった。
モリガンは、何も間違っていない。キマイラを解除したのも、その後の展開に思いを馳せたのも、間違ってはいない。決着はついていたからだ。
ドナルドは、間違いまくっていた。一度死んだからと言ってモリガンが召喚を解く保証もないし、ドナルドに背を向けるとも限らない。だが、1つだけ間違えていなかった。
彼を殺した者は、彼が生き返るのを見た時に、最初は必ず驚いて隙が出来るという事を知っていた。キマイラも、オズロ兄弟もそうだったからだ。そして、モリガンもそうなった。
死んだ者が、勝手に生き返るはずなど、絶対にないのだから……。
不意打ちでなければ当たらない拘束魔法が、モリガンを捉えた。
俺の使う拘束魔法は、拘束した者の強さに応じて寿命を消費する。格上のオズロ兄弟を拘束した時もそうだったし、ましてや今回はモリガンだ。若返った俺の寿命をガンガン消費してく。
拘束されているモリガンが、俺を睨みつけて叫ぶ。
「おい!ドナルド!お前、なんで死んでいないんだ!私は全部吸い付くした筈だ!」
俺は一言だけ返す。
「体質なんですよ」
俺は悪魔の方を向いて言う。拘束魔法はそれほど維持できないので、素早く済ませる必要があった。
「ランク10の契約には、俺の関係者を生贄にする必要があるんだよな?モリガンは俺の師だ!つまり関係者だ!違うか?」
俺の秘密を知ったモリガンを生かしておくわけにはいかない。彼女はアルガスと同類だ。ここで死んで貰う必要がある。
俺の提案を聞いた悪魔が、考えるような素振りを見せる。モリガンが必死に抗議する。
「ふざけるな!そんなの認められない。こんなのって無いでしょう!こんな奴、私には関係ない!」
考え終わった悪魔が、モリガンを見つめて、窘めるように言う。
「とはいえ、黒魔法使いの師が、弟子の契約のために、自分の契約している悪魔を紹介するのは慣習ですからな。この状況は師弟関係にあると言っても、それほど間違いではないと判断できますね」
モリガンがキレ散らかしている。最早罵倒が凄すぎて、何を言っているのか分からない。悪魔が止めを刺すように言う。
「まあ、師が弟子を犠牲にすることも、弟子が師を犠牲にすることも、良くあることです。良くある話ですよ!」
契約が成り立った。対価の回収が行われる。モリガンは、突如として皺だらけになって、果てた。
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