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加害者ファーストのこの国で ~復讐代行人~  作者: 月夢雫


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栄光の影 2

 「貴方も奥さんも警察官だから、子供を病院に連れて行きたくなくて放置していたわけではないですか?」


元刑事の息子が裁かれたのは、一件目は乳幼児に対する性的暴行。被害者は後に死亡。

二件目は小学生に対する性的暴行。

三件目は再び乳幼児に対する性的暴行。被害者は後に死亡。


しかし、逮捕に至らなかっただけで暴行など問題行動はそれ以前から起こしていた。

「逮捕、起訴された案件以外に何一つ事件と呼べるものはありませんでしたか?息子の不祥事を謝罪に言った事はありませんでしたか?」


病院での適切な治療やカウンセリング、行為に相応しい刑事罰。

それがあったのならば、あんな悲惨な事件は起きなかったのではないか。

それがどうしても頭から離れてくれない。


「一件目の時は防犯カメラ映像に犯人らしき人が映されてました。当時の画質はあまり良いものではなかったけど、特徴的な歩き方は分かりました」


何も話さない元刑事の胸ぐらを聡子は力いっぱい持ち上げた。

「当時、ニュースでも放送されてたのに、ずっと刑事課にいた貴方はその映像を見ていなかったんですか?見ていたら、歩き方で息子と分かってたんじゃないんですか…」


三件目の事件が起きる少し前に元刑事は退職の年を迎え表彰され、長い警察人生を終えた。

「一件目の事件が起きたけど、刑事としての勘は家族に発揮されなかったという事ですか?」


無言を貫く元刑事に聡子はナイフを再び突きつけた。

「事件が明るみになれば、自分も奥さんも警察にはいられない。それで、放置して二件目と三件目の事件が起きたんじゃないんですか!?答えて!」


警察官として、親として、見てみぬフリをする事ではなくて、自首を進めることが大切だったのではないか。

それで、父と母のキャリアは不本意な形で終わる事になったとしても。


「まだ生まれたばかりの子供に興奮するような癖が自然と治ると思ってたんですか?二件目では小学生だったけど、三件目は結局赤ちゃんにに対象が戻ってる。そういう趣向なんですよね、貴方の息子は。そんな性癖のせいで、二人は生まれてきてすぐに殺された。私の娘は命だけは助かったけど、身体にも深い傷を負って、今も恐怖に囚われる日々です」


許せないのは、自分達の安定を求めて何もせずに放置してきたこの両親。

「そんな犠牲を強いた先に、定年を迎えて、表彰までされて、奥さんも定年を迎えて、それで満足ですか?」


犯人は三件目でようやく捕まり、一件目と二件目とDNA鑑定も一致した事から三人への罪で裁かれて死刑が下された。法律ではこれ以上のない判決だ。

あの男が出てくる可能性がない事にだけは安堵している。


「貴方達二人が栄光ある警察官人生を送れたのは、息子が定年後に捕まったおかげ。貴方達の栄光の影で二人もの小さな命が奪われた事、命は奪われなかったけど、全てを奪われた小学生がいる事。それだけは貴方達が死ぬまで忘れないでください」

この元刑事は何も話す気がないらしい。


自分達の栄光を優先したのか、命を奪うという残虐な結果が伴っても子供が捕まる事から守りたかったのか。


同じ親として後者の気持ちが微塵も理解出来ないとは言わない。

しかし、他人の子供を奪っておいて、そのまま生きていくことなど出来るわけがない。


親だからこそ、良い時だけでなく悪い時も寄り添い、庇うだけではなく厳しい判断をする勇気を持って欲しかった。

被害者の為に犯人の逃げ得を許さない。なんて鼻高々に言っていた刑事ならば尚更。


「私の事は、拉致監禁、脅迫、お好きに訴えてください」

復讐しても何も分からなかった。

ずっと苦しみ続けているあの子にもう寄り添えなくなる可能性があるのに。


「申し訳ありませんでした…。息子がとんでもない事を………。両親共に警察官であったのにこの様な結果となり本当に申し訳ありません」


元刑事は手足を拘束されながら土下座するような体勢をとり、頭を垂れて、謝罪を口にした。

しかし、聡子が聞きたいのは謝罪ではなかった。


謝罪は加害者がするものであり、二件目以降の事件を生んだのはお前たちのせいだ。と言ってやりたかった。


栄光にはいつだって影がある。

誰かが栄光という名のスポットライトを浴びてる時に、その下で誰かが影となっているのだ。


今日も明日も娘は悪夢の中にいる。聡子はそんな娘にただただ寄り添い続ける。

自身が逮捕されるその日まで。


聡子は、元刑事のいる場所からは離れた部屋で待機している名雪の元へ行った。

「覚悟は出来ています。後はよろしくお願いします。有難うございました」


小声で名雪にそう告げると聡子は深々と礼をしてから、祖母に預けている娘の元へと帰っていった。


名雪は姿を見られないように再び麻酔銃で元刑事を眠らせて、防犯カメラのない道を通り、元刑事の家の近くへ拘束を解いて放置した。


「遅いから心配してた」

寝る前の散歩がいつもより長くて心配していた妻の元へ、麻酔から覚めた元刑事は帰る事が出来た。


「………最初の事件の時にな、カメラの映像が似ていると思っていたんだ」

ニュースより先に犯人の可能性がある人物として署内で共有されていた画質の荒い映像は歩き方が息子に似ていると思ってはいた。


「…私も、ニュースで見た時に歩き方が似ていると思ってました」

それを夫婦間で共有する事も、どちらかが息子に確認する事もなかった。


ただ歩き方が似ているだけでありますように。と祈る事しか出来なかった。

そんな弱さがさらに事件を生んで、息子は死刑囚となった。


「出来る事なら、あの子を看取ってやりたい」

自分達の犯してしまった過ちはあまりにも大きすぎる。


けれど、いつか死刑を執行された後に息子を引き取る事だけは許してほしい。

そんな事は唯一生き延びた生存者の方にも、関係者の方にも言う事は出来ない。


しかし白石が言っていたように一抹の不安を抱えながらも、順調な警察人生が夫婦共に終える事が出来たが、妻が定年して少し経った頃、防犯カメラ映像などから息子が捜査線上にあがり、DNAの提出を求められ、結果まさかの三件もの事件を起こしていた事が判明した。


定年を迎えていた事で職を失うという事はなかったが、当然生活は一変した。

証言台に立った時も、映像を見た事などには何も触れなかった。


妻は面会に行っているが、元刑事は面会には行けなかった。

間違った道を歩く息子を見ないふりで、そのまま間違った道を歩き続かせた罪が重すぎると思ったからだ。


息子にも被害者の方達にも申し訳ない。

その気持ちを抱えて、息子の死刑執行と、遺体の引き取りまでは親としての責任として成し遂げたい。


それまでは贖罪していく事と、唯一生き延びた子の闇がほんの少しでも晴れるように祈る事しか出来ない。


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