正義 3
脅しは嘘ではないのだろう。この男は迷いなくスイッチを押せる。
「もう自分が誰が検討ついているんでしょ?自分が目撃者を性的暴行した奴を数日間暴行した末に殺しました。あの件でも貴方は捜索届け出したりしないように手を回したでしょ?お世話になりました」
一人殺してるから、二人殺すのも同じだと言いたいのだろう。
「貴方のこれからの物語は何ですか?妻と息子を一度に失った哀れな法務大臣ですか?言っておきますが、息子を殺しても、奥様を殺しても貴方が何も認めないなら、貴方も殺しますよ」
そもそも大学時代の同級生の事も、自殺としてしか処理されていない。
陰湿な暴行があったのに誰もが口を閉ざして、大学側も隠ぺいに協力したから、調査さえされずに将来に対する不安だとか適当な理由だけで片付けられた。
そんな事をせずに、その時にきちんと裁かれるべきだった。
そうすれば、調査さえされずに葬り去られる事に納得がいかずに、孫の死を憐れんだ祖父が馬鹿息子を訪ねる必要もなかった。死ぬ必要なんてなかった。
そうすれば、他の誰も死ぬ必要なんてなかった。
「あんたは、自分が法務大臣だからって国民が何人死んでも、家族が全員死んでも良いって言うのか!?」
証拠がないから、自白さえしなければ今の地位を守れると思ってる奴にはもう何を言っても響かないのだろう。
「お前の罪をしっかり見つめろ」
スイッチを見せつけ、映像が見えるように頭を掴んだ。
「止せ!」
静止するだけで何も話す気はないようだったのでスイッチを押した。
息子は豚が待つ下の階へ落とされ、豚達がいるのを見ると悲鳴を上げて逃げ惑ったが、その部屋は逃げ惑うには狭すぎる部屋だった。
「これで分かっていただけました?」
数匹の豚に少しずつ食い破られていく様を、法務大臣は茫然と見届けるしかなかった。
「死に方は同じではないにせよ、あんたの息子が暴行した同級生も、突き飛ばされた祖父も、あんたの安寧の為に犠牲になった目撃者も、その姉も、皆が苦しんで恐怖して死んでいった!」
全ては人の命の重みを考えられない、身勝手な親子がいた事が生んだ悲劇だった。
「そんな痛みを奥様にも与えるおつもりで?」
例え馬鹿息子であろうとも自分が産んだ子供を亡くして、これからは辛い日々が待っているだろうが、それでも積極的に手をかけたいとは思わない。
「何が望みだ?」
目の前で息子が無残な死を迎えて、少しは心境の変化があったのだろうか。
「貴方が隠ぺいした様々な事の公表です。もちろん、息子の罪もね。それが公表されるのなら、自分はどうなってもかまわない」
こいつが全てを白日の下にさらしても、一時期の騒ぎになるだけで他の権力者が同じように誰かを権力で圧をかける。
そういう構図がこの一件が明るみになっただけで、なくなるとは思わない。
それでも、罪を重ねても逮捕されない馬鹿息子と、その罪を隠す為なら殺人をも良しとするクソな大臣の二人をどうにか出来る。
凡人な俺からしたら大きすぎる成果だと思う。
「決心はつきましたか?」
名雪の決心は此処にくる前から決まっている。
法務大臣が全てを認めて公表するのなら殺さずに裁かれて、辛い日々を生きていくのが償いと思う。
法務大臣が何も認めないのなら、この親子を自分と道ずれに連れて行く。
という事だ。
「全てをさらけ出すというのは?」
名雪は報道機関等の生中継で広く日本国民に知らせる事、裁かれる事を法務大臣に求めた。
「それが確認出来たら、奥様はお返しします。自分としても、出来れば手をかけたくないので。24時間以内にそれが確認出来ないのならば、お二人の命は自分の全てを賭けて奪います」
名雪は法務大臣の妻を連れて、家を後にした。
この後、本当に世の中に公表するかは分からないが、あと24時間それまでが勝負だ。
息子を殺して妻を誘拐していると俺を警察に訴えでれば、当然警察はすぐにも俺を探すだろう。
息子を確認しに行くと、目に見える範囲で残っている部分があまりなかった。
なので脅迫もあわせて、眠らせた豚達と共に翌日配送業者のふりをして、届けに行った。
「豚は不要でしたら、このまま回収しますけど」
意外な事に、家には警察が出入りしてる様子も監視されている様子もなかった。
「よく此処に再び来れたな」
法務大臣は、翌日に自ら来た名雪の神経を疑っているようだった。
「息子さんをお返しに来ただけですよ。奥様はまだ眠ってますのでご安心を」
昨日は暗くて見えなかった名雪の顔を、法務大臣は肉眼では初めて認識した。
この男が目撃者の恋人でなかったのなら、自分はこれからも大臣でいられて、いずれは総理大臣になれたのだろうか。そんな愚かな夢をまだ少しだけ胸に抱いていた。
お昼のトップニュースは法務大臣から大事なお知らせがあるという情報からだった。
春が掴んた事件の詳細が本人の口から語られ、法務大臣を辞任する事が告げられた。
優しい春は、どんなに憎くても相手を傷つけたり強引な事は出来なかっただろうから、それが命取りとなった。
でも、春にとってはこれが正義で、したい事だったんではないだろうか。
「元気でな」
後輩の坂崎が親子で散歩している姿を遠くから眺めた。
何回も子供を見に遊びに来て欲しいと言われていたが、こんな事をしていればまだ生まれたばかりの命に会いに行く事なんて出来なかった。
雪子と春の両親の元へはもう行く事は出来ない。
伝えられるのなら、今日こんな風に明らかにされた巨悪を倒したのは春さんです。
と伝えたかったが、相次いで娘を失った二人をこれ以上かき乱したくない。
それに法務大臣が警察に出頭して全てを明らかにすれば、その際に春の事も明らかになる。
「マスコミが凄いので、ここからお願いします」
名雪は目を覚ました法務大臣の妻に深くお辞儀をしながらそう伝えた。
テレビも携帯もない状況で、妻はまだ法務大臣の事も息子の事も知らない。
家に戻り全てを知れば、自分が復讐したい相手になるだろう。
それまでこの命があったのならば、それは甘んじて受けるつもりだ。
最愛の息子を理由はどうであれ奪ったのだから、恨まれても当然だ。
もうすぐ俺は指名手配犯になるだろう。
捕まるまでの僅かな間でも、復讐代行人として手伝いが出来ればと思う。
二人の命を奪って、さらには代行人として事実上命を奪うような行為も代行してきた。
全てがバレれば死刑になるのは覚悟している。
雪子にも会わす顔がない。
きっと、雪子は復讐した事を喜んではくれないから。
だから全て俺の独りよがりで始まったこの復讐劇は今日で一旦終了だ。
でも、この世には毎日のように加害者と被害者が生まれて、被害者が一方的に傷つき、加害者側には被害者の傷に見合う罰が科せられていないのが現状だ。
加害者ファーストではなく被害者ファーストの国と、この国が呼ばれるまで、少しでもその理不尽に寄り添う人間が一人位はいても良いはずだ。
それ位しか今の自分には正義がない。
それでも、それが唯一自分に残された生きる道。
これまで読んで頂き有難うございました。
暗い内容でどれだけの方が読んでくれるかと思っていたので、沢山の方が読んでくれて嬉しかったです。
最後の話は二人の刑事のそれぞれの正義の話でした。
そして、自分が書きたかったものというか伝えたかった部分でもありました。
最後まで読んでくれた方に少しでも何か届けば、こんなに嬉しい事はないです。
これまで有難うございました。




