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プロローグ6

 健司は家に着くと玄関からすぐに階段を上がって自分の部屋に入った。特に用事でもないかぎり、帰宅したからといってわざわざ母のいる居間を覗いたりはしない。どうせ宿題しろとか部屋を片付けろとか、つまらない小言を言われるだけだ。学校の制服から部屋着に着替えて床に寝転ぶ。鞄から文庫本を取り出し、しおりの挟まったページを開くと読み始めた。


 健司の予想に反してKはお嬢さんに恋心を抱いているようだ。

 Kはそういうキャラクターではないと思ったのだが。ああ、そういうことを否定してきたKだからこその悩みがあるということか。お嬢さんがどう思っているのかはよく分からない。もし、お嬢さんの気持ちがKにあるのだとしたら……有栖はなんで急に声なんてかけてきたんだろう。帰り際の挨拶は単なる隣人の挨拶だとしても、そもそも有栖が僕に『Kが告白したらお嬢さんはどうすると思う?』なんて言ってこなければ、有栖は僕が有栖を嫌ってると思ったままだったわけだし。僕に気があるなんてことは……さすがに無いよな。話しかけられたくらいで僕は何を考えているのだろう。

 健司は文庫本を床に放り出して目を閉じた。


 薄汚れたコンクリートの岸壁。水面まで一メートルほどの壁面にはいくつも古タイヤがぶら下がり、足元には等間隔に鉄の輪が打ち込まれている。見上げると暗闇の中で街灯が光っている。健司は鉄の輪に結び付けられているロープを解こうと屈みこんだ。ヨットでは祖父が待っている。小さな女の子が、屈み込んでいる健司の耳元に顔を寄せて「ずっと待ってる」とささやいた。健司は女の子の顔を見た。それは有栖陽菜だった。


「健司、健司、起きなさい」

 健司は母の声で目覚めた。床で眠ってしまっていたのだ。さっそく有栖を夢に見るなんて僕も単純だな、健司はそう思った。


 母が寝転がった健司を見下ろしている。

「おじいちゃんが亡くなったって。お父さんが病院に行ってる。あんた、明日は学校休みなさいね」

 母は普段と変わらない様子だった。もともと祖父に思い入れはないし、医者からそろそろだと言われていたので、心の準備も出来ていたのだろう。母は必要なことだけ言うと、部屋を出ていった。


 健司も予想していたことなので、特段の驚きはない。それでも祖父の夢を見たばかりで祖父の死を聞くことになるとは。祖父が最後に会いに来たのか、などとオカルティックなことを考えたくもなる。だとすると陽菜が夢に出てきたことも何か意味があるのか? などと考えてしまうが、たかが話しかけられたくらいでそんな舞い上がっているとは思いたくない。健司は床に放り出した文庫本を拾い上げて続きを読み始めた。

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