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ずっと一緒に

 ソフィアは震える手でルイスの頬に触れ、彼の涙を拭った。その瞬間、彼女の瞳にも涙が浮かび、胸の奥に温かい何かが広がった。


「私は……たくさん守ってもらいます。ずっと、私のために戦い続けてくださっていたのですね、周囲とも、ご自分とも。そんな人を、信じないはずがありません」

「……ソフィア」


 ルイスはたまらず彼女を抱きしめた。

 すうっと彼女の髪に顔を埋める。ずっと、こうして一緒にいたかった。

 幼いころ、とても短い時間だけれど、笑い合った日々を、ルイスは忘れたことがない。

 ソフィアに相応しい人間になるために。そのためならどれだけでも努力ができた。

 でも、ソフィアがいなければ、それはなんの意味がない。


「ソフィア……愛してる。初めて会ったときからずっと、君だけが僕の光だった」


 ルイスの声に、ソフィアは大粒の涙を流しながら彼の大きな背中に手を回した。


「私もです……私も、ルイス様を愛しています」


 とても苦しく、とても愛おしい、そんな幸せな空間に、いつまで続いてほしいと願う。

 ルイスはより一層、ソフィアを強く抱きしめた。

 もう、離さない。何があっても。



 ソフィアは人生で初めて困っていた。

 これまでどんなに辛いことがあっても、耐えることでなんとかその場を乗り越えてきたのだ。しかし、このような状況は一体どうすることが正しいのかソソフィアはわからないでいた。


「ソフィア……」


 眠っているルイスにこうして名を呼ばれるのはもう何度目だろう。朝日が差し込む部屋で、ソフィアにルイスの逞しい腕に抱きしめられ身動きが取れないでいた。

 ルイスとこうして眠るのは初めてではない。以前も一度、多忙だったルイスが帰ってきて、そのまま朝まで共に過ごしたことはある。

 だが、今回は何かが違っていた。

 ソフィアは優しくルイスの顔を見つめた。彼の寝顔は穏やかで、まるで全ての重荷を忘れているかのようだった。ソフィアはその姿を見て、胸の中に温かい気持ちが広がるのを感じた。


「ルイス様……」


 ソフィアはそっと囁いたが、ルイスは目を覚まさず、さらに彼女を抱き寄せた。彼の腕の中で感じる安心感と幸福感は、ソフィアにとってかけがえのないものだった。


 ソフィアは再び目を閉じた。彼の胸の鼓動を聞きながら、おそるおそる、ソフィアは自身の手を動かした。

 ルイスの背に、手を回していいだろうか。できれば、ぎゅうっと抱きしめてしまいたい。そんな衝動と戦うのも、ルイスがソフィアの名前を呼ぶのと同じく、もう何度目だろう。

 一度だけなら……そう思い、ソフィアはやっと決心してルイスの背に手を回す。

 彼の温かい体温が心地よく、ソフィアの胸に広がる安らぎは何物にも代えがたいものだった。彼女はルイスの背中に手を添え、その温もりを感じることで、彼が本当に自分のそばにいることを実感した。


「朝からそんなに可愛いと、襲ってしまいそうだ」


 その瞬間、ルイスがわずかに動き、目を覚ました。ソフィアの手を感じた彼は、穏やかな笑みを浮かべながら彼女の方を見つめた。


「おはよう、ソフィア」

「お、おはようございます」


 ルイスの言葉に、ソフィアの顔が赤くなった。彼の胸の中で心臓が高鳴るのを感じながら、すぐに手を引っ込めようとする。


「どうして? 僕はそのままがいいのに」

「身の程をわきまえておらず……も、申し訳ありません」

「そんなことはない。僕はうれしいし、ソフィアがキスをくれたとしても同じように思うけど?」


 ルイスはソフィアの頬に優しく手を添え、そのまま彼女の額に軽くキスをした。


「でも今は、僕からのキスで」


 その言葉に、ソフィアは胸がいっぱいになった。彼の優しさと愛情が、言葉一つ一つから感じられる。彼女は勇気を出して、もう一度ぎゅっと抱きしめた。


「私も、ルイス様のそばにいられて幸せです」

「幸せか……それは僕のセリフなのに」


 ルイスはさらに彼女を強く抱きしめ、二人の心は一つになった。朝の光が部屋を満たし始める中、ふたりはいつまでもベッドから出られないまま。


「はあ、ずっと、こうしていたい」

「ずっとですか?」

「このまま夜まで、いや、しばらくずっと、このままでいい」

「そ、それだと、お仕事が……」

「仕事などなくなってしまえばいいさ」


 王子としてあるまじき発言ではないか。こうなってしまったのも自分が原因かと思うと、こうしてぬくぬくシーツにくるまっていることが悪いことをしているように思う。

 そこで、ふとソフィアは、あれと気づく。

 ルイスは王子だ。第二王子として、次期国王としても有力とされている。そんな人から求められていることが突然怖いような、不安になるような気持ちに襲われる。


「私がルイス様と一緒にいてもいいのかと……」

「……ソフィア、それは」

「と、今しがた思っていたのですが、そう思うことはやめました」

「え?」


 ルイスは何度も時間をかけて、ソフィアと一緒にいたいのは自分なんだと伝えるつもりでいた。不安に思う必要はないと。けれどそれは、ソフィア自身が吹き飛ばしてしまったらしい。


「私はルイス様と一緒にいたいので……相応しい人になれるよう努力したいです」


 どうしようと怖がることはない。

 ソフィアがルイスから離れることが考えられないのであれば、それなりに頑張るしかない。ルイスと共に過ごしていきたいのなら、自分にできることを行動していくまでだ。

 それはルイスのためでもあり、自分のためでもある。


 ソフィアはこれまで、自分の意見などを尊重することはなかった。いつだって人のために動かしてきた身体と心は、もうとっくに壊れようとしていた。そのことに目をつぶって、無理にでも一日を終わらせてはまた次の日を繰り返してきた。

 けれど今は、大切な人のために、自分を大切にすることもまた大事なことだとソフィアは知った。

 ただでさえ、ルイスは追われている仕事量が尋常ではない。この時間さえ惜しいと思われているのではないかとソフィアは心配になるが、ルイスの顔を見れば吹き飛んでしまう。


「あ、でも……ルイス様にお許しいただいてからで……」


 すると、ルイスが堪えきれないとばかりにソフィアを思いっきり抱きしめた。


「うれしいよ」


 その声にたくさんの幸せが詰まっていた。


「僕の許しなんているはずかないじゃないか」

「本当ですか……?」

「ああ、僕はずっとソフィアと一緒にいたいんだから」


 なんて贅沢な時間なのだろう。ソフィアは必死に泣くのを我慢していた。油断してしまえば、すぐにポロリと涙が出てしまうだろう。

 頑張らなければいけない。ルイスと一緒にいたいのなら、努力をしていこう。


「コホン、そろそろよろしいですか」


 そんな二人の幸福に、冷淡な声を出して中断させた存在にソフィアは驚いた。ルイスはすでにその存在に気付いていたかのように、からりと笑う。


「マージ、ずいぶんとタイミングが悪いね」

「これでも待っていたほうなんですけどね」

「面白いことを言うね、それよりマージ。今日はパーティーを開こう」


 ルイスは楽しそうにソフィアを見る。


「今日は正式に君を紹介したいんだ。僕の妻になる人として」

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