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目覚めると……

フェリシーが目を覚ますと、青白い顔をしたクロードと涙目の護衛騎士ドニが寝台の端から自分を覗きこんでいた。


「お嬢さまっ! 良かった、目を覚まされた……。肝心な時にお嬢さまをお守りできず、大変申し訳ありませんでしたっ」


悲壮な顔つきのドニが平伏せんばかりに頭を下げる。しかし、フェリシーはいまだに状況がつかめていない。


「えっと……私は? ここは?」

「こちらはバリエ侯爵の城です。先ほどは侯爵閣下より控えていろと命じられ、お嬢さまがあのようなお姿でいらしたのにすぐにお助けすることができず、誠に申し訳ありませんでした!」


泣きそうなドニを安心させるようにフェリシーは手を伸ばして彼の肩に手を置いた。


「私は大丈夫。ありがとう」


それまで必死に我慢していた涙がついに決壊したのだろう。ドニの両目に涙が溢れた。


「お嬢さまっ……酷い目に遭われて……俺がもっと早く戻っていたら……」

「いや、ドニ、君は悪くない。俺のせいだ」


クロードとドニの間で『どっちが悪い』論争が始まりかけたので、フェリシーは慌てて止めた。


「二人ともやめて。どちらも悪くない。それよりクロード、私を庇ってあんなふうに蹴られるなんて……。もう止めてちょうだい」

「俺はお嬢さまを守るために存在しているので」

「……ありがとう。でも、もっと自分を大切にして。あなたは私の大切な人なんだから」

「はい。分かりました」


彼のはにかむような笑顔にフェリシーは安堵の息を吐いた。思っていたより元気そうだ。


「ドニもありがとう。どうか気にしないでね。……ところでジローさんのお母さまと弟のトビーくんは?」


 気になることが次々に脳裏に浮かぶ。


「彼らは無事です。バール男爵領の領地管理人の方が保護してくださいました。お嬢さまの書いた手紙を読んですぐに対応してくれて……」

「良かったわ」


フェリシーは自分の両頬にひんやりとした軟膏とガーゼが当てられているのに気がついた。平手打ちされたところを手当してくれたのだろう。


「クロードの怪我の治療は……?」

「はい。きちんと手当てしてもらいました!」


彼の首元に包帯が巻かれているのを見て安心した。ふぅっと息を吐いて質問を始める。何があったのかを把握したい。


「ドニ、一体何があったの?」

「俺はトビーたちをバール男爵領に降ろした後、すぐにアルローに戻ってきたんです。でも、お嬢さまもクロードも宿にいない。来てもいないと聞いて焦りました」

「ああ、すまない。宿屋で待ち合わせすることにしていたんだったな。トビーの家の前で攫われたんだ」

「エンゾの息のかかった奴が密告したんでしょう。本当に心臓が止まるかと思いました。必死に捜して走り回りましたよ」


その時のことを思い出したようにドニの瞳が不安に揺れる。


「心配かけてごめんなさいね」

「お嬢さまが謝ることありません!」

「俺が油断していたんだ。すまない……」

「いや、クロードのせいじゃない」


ドニは肩を落とすクロードを励ますように背中を叩いた。


「……そういうわけでグレゴワール伯爵家の馬車でアルローの街を走り回っていた時に、突然声をかけられたんです」

「声を? 誰に?」

「バリエ侯爵閣下です。ちょうどアルローに到着されたところで……。王都にいた閣下は国王陛下からすぐに領地に戻るよう命じられたそうでした。なんでもグレゴワール伯爵家の令嬢の助言があったから、と」

「ああ、国王陛下に手紙が届いたんだわ。すぐに動いてくださったのね。さすが行動が早い」

「お嬢さまが行方不明だと知って侯爵もお嬢さまを探すのを手伝ってくださったんです。でも見つからなくて……。まさか領主館に監禁されていらしたとは思いもよりませんでした」


当然だが、領地には領主の城がある。バリエ侯爵領では、城とは別に領主館が別館というか離れのような造りになっているらしい。セバスチャンが無断でそこにエンゾを住まわせていた。エンゾはそこを根城にして悪事を働いていたという。


「よく見つけてくれたわ。ありがとうね」

「いや、違うんです。教えてくれたのは……」


ドニの肩にひょいと現れたのはハムスターのハムくんだった!


「ハムくんが⁉」

「マジですごいなハムくん! 縄を切ってくれただけでなく!?」


フェリシーとクロードが感嘆の声をあげると、ハムくんは照れたように小さな手を目いっぱい伸ばして自分の後頭部を掻いた。


「ハムスターの小さな足でよくドニを見つけられたわね……偉いわ」

「ハムくんは犬に乗ってやってきたんですよ」

「「犬⁉」」


そういえばハムくんは他の動物とも意思疎通ができるのだった。犬に助けてもらえば捜索はしやすかっただろう。


「はい。犬がしきりに俺をどこかに連れていこうとしていてハムくんもその方向を指差していたので、もしかしたらそこにお嬢さまがいるんじゃないかと……。アリーヌお嬢さまから『何かあったらハムくんの言うことを聞きなさい』と言われていたので。まさにハムくんのお手柄です」

「ハムくんにご褒美をあげないと……。あと助けてくれたワンちゃんにも。ドニ、お願いできる?」


フェリシーの言葉にハムくんが嬉しそうに頷き、祈るように両手を合わせた。


「はい、分かりました! 何か喜びそうな食べものを用意します!」


「ハムくんはひまわりの種は好きかい?」と話しかけながらドニは張り切って部屋を出ていった。


クロードと二人きりになるとフェリシーは「ごめんなさい」と彼に詫びた。


「え⁉ どうしてですか? お嬢さまが謝る必要はなにも……」

「いいえ、私のわがままにあなたを付き合わせて、こんなことに巻き込んでしまった。本当にごめんなさい」

「いいえ、いいんですよ。むしろ俺がお嬢さまを守れなかったせいで……」

「違うわ! クロードは優しいからいつもそう言うけど……。今回は一歩間違えたら命だって危なかったかもしれない」

「俺はお嬢さまと一緒にいられたら他に何もいらないんで。どこまでも付き合いますよ」

「ほら! そうやって甘やかす!」

「甘やかしじゃないです。いや、お嬢さまのことは甘やかしたいですけどね。でも、本当に俺がそうしたいからしてるんですよ」

「……複雑な心境だわ」

「お嬢さまの傍にずっとおいてくださいね。俺が望むのはそれだけですから」


妙に嬉しそうなクロードに手を握られてフェリシーは躊躇しながらも「いつもありがとう」と小声で呟いた。


***


しばらくすると侍女がやってきて、バリエ侯爵が面会したいと伝えられた。


フェリシーはクロードと一緒にバリエ侯爵の待つ部屋に案内される。部屋の扉を開けるとバリエ侯爵の隣にいる人物に二人は驚いた。


「「ベルナデットさん⁉」」


ふっくらと大きなお腹をしたベルナデットが懐かしそうに微笑みかける。


「先ほど到着しましたの。フェリシー様がアルローにいらしていると聞いて、どうしてもお会いしたくて。主人は仕事があり、こちらに伺えなくて残念がっていましたわ」

「バール男爵領の領地管理人オレール・ダビ殿は大変優秀だと聞いている。まったく羨ましい限りだ」


バリエ侯爵が大きく息を吐いた。

*お待たせしてすみませんでした<(_ _)> 大分書きためたので、あとは完結まで行けると思います! 明日から一日二回更新予定です(#^^#) 読んでいただけたら嬉しいです~

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