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グレゴワール家の異能四姉妹

グレゴワール伯爵家の四姉妹はそれぞれ違った異能を持つと有名だ。


四女のフェリシーは一応『料理の腕』ということになっている。


フェリシーには生まれた時から前世の記憶があった。日本という国で管理栄養士として学校や病院で働いていた彼女は調理師の資格も持っており、料理は得意中の得意。この世界では考えられない画期的な料理を次々と創作し、王宮で表彰されたこともある。王族専属の宮廷料理人にならないかと国王自らが勧誘するほどの評価を得た。


しかし、フェリシーはもっと広い世界が見たかった。いずれ宮廷料理人になりたいが、その前に修業が必要だという名目で自分の店を出すことを国王に願い出たのである。


それが認められ前世の自分の名前から『ゆかり』という料理屋を開き、珍しく美味しい料理を出すと評判の人気店となった。料理だけでなくお見合い紹介もする変わった店であるのは前述の通り。


本日のお見合い。ベルナデットとシャリエの二人は見事に縁が結ばれた。


フェリシーはビーフストロガノフにサラダとスープをつけたセットを用意し、クロードが運んでいく。


「いや、もう見ていられないくらい熱々でしたよ~」


手で顔を扇ぎながらクロードが戻ってくるとフェリシーの頬が紅潮した。


「お嬢~、顔が赤いですよ~」

「黙りなさい。ちょっと失礼するわ」


フェリシーは顔を隠すようにして厨房に入り扉を閉める。


そして、ふぅっと大きく息を吐くと拳を握りしめて「きゃあぁぁぁぁぁあぁぁ」と声を殺して呻いた。


「ああもう何なの、かわいいぃ! あの二人お似合いすぎてて途中で悲鳴をあげそうになってしまったわ! あんなに愛らしい女性が『どうしても振り向いてほしくて……』なんて、なんて健気なのぉぉぉぉ! そして『後悔するなよ? 私は手に入れた宝物は絶対に手放さない』なんてもうこれは萌えよ、まさに萌え! きゅんが止まらないぃぃぃ!」


声色まで変えて台詞を再現しつつ、一応外に聞こえないように小さな声で悶えまくる。普段の無表情からは想像もつかない顔になるフェリシー。


そう。フェリシーは心の中でだけ『超恋愛応援し隊』隊長なのである。


自分自身は恋愛にまったく興味なかったが、相席をきっかけに結婚したカップルの幸せそうな姿を見て脳内のアドレナリンが急上昇する興奮と喜びを覚えて以来、客の見合いが成功するよう全力を尽くすと決めている。


「お嬢さま……。あ、っと。いつものやつですね。でも、そろそろ個室のお客様のデザートを用意しようと思うんですが、他のお客さんと同じデザートでいいですか?」


扉を開けてクロードが顔を出すと、身をよじりながら高速で独り言を呟いていたフェリシーはハッと表情を引き締め、背筋を伸ばした。


「クロード。何度も言っているでしょう? いきなり扉を開けるのは止めてちょうだい。ベルナデット様とシャリエ様へのデザートはお二人に相応しい特別なものを用意します」


さっきまでの悶えっぷりがウソのような凛々しい顔つきに戻る。


「はいはい。お嬢さまのソレはもう見慣れてるんで、別に隠れて悶える必要ないですからね」

「クロード、そんな台詞を他所で漏らしたら……多少の脳みそがあれば分かるわね」

「もちろんですよ。俺はお嬢さまの秘密を知る唯一の男ですからね。お嬢の秘密は俺が守りますよ。きりっ」

「もういいから。デザートの用意をします。手伝いなさい」

「はいはーい」

「『はい』は短く一度で十分です」

「はいはーい」

「うっ……まぁ、いいわ」


頭痛がするかのようにフェリシーは額を押さえた。


***


グレゴワール伯爵家の異能四姉妹。その中でも三女アリーヌは情報通として知られている。


「アリーヌ姉さま、ベルナデット・バール男爵令嬢について何かご存じ?」

「あら? 当たり前じゃない。うふふ」


驚くべきことにアリーヌは、ベルナデットと婚約者が幼馴染で仲は良いが互いに恋愛対象として見ておらず、彼女が血のつながらない叔父に長年片思いしていることを知っていた。


「なるほど。お見合い相手の条件について理由が分かった気がしますわ……。アリーヌ姉さま、協力してくださる?」

「もちろんよ!」


フェリシーとアリーヌはベルナデットの叔父オレール・ダビが通うカフェを突き止め、彼がお茶を飲んでいる背後でベルナデット・バール男爵令嬢が縁結びの料理店『ゆかり』で四十代男性の見合い相手を募集しているという噂話を繰り広げた。


握りしめた彼の拳が震えていることを確認したフェリシーは心の中でガッツポーズを決めた。


その日のうちに彼は『ゆかり』に現れ、掲示板に貼られた『四十代男性』という条件のお見合いに申し込んだのである。


「彼が登場するタイミングも最高だったわね。用事で遅れてくれて良かったのかもしれないわ」


デザートの桃のトライフルを準備しながらフェリシーが呟いた。


「ああ。それは俺がちょっと遅れてくるようにアドバイスしたんですよ~」

「え?」

「最初にお嬢さまとゆっくり話し合ったほうが変に意地を張ったりせずに素直になれるかなぁって。ね、俺って慧眼でしょ? もうクロード無しでは生きていけなーいって思いません?」

「ごめんなさい。意味が分からないわ。でも……そうね。あなたのおかげね。いつもありがとう」


真面目な顔で頭を下げられて想定外の反撃をくらったクロードは照れ笑いしながら形の良い鼻の頭を掻いた。


美しい透明な容器にサボイアルディというビスケットを敷き、カスタードクリーム、桃、生クリームを層にして重ねていくデザートがトライフルである。仕上げに生クリームの上に削ったチョコレートを飾る。桃のトライフルは初々しいカップルの二人にぴったりだ。


デザートを持っていったクロードが戻ってきて「お嬢さまと話がしたいそうですよ」と告げる。


エプロンを外して鏡の前で簡単に身なりを整えるとフェリシーは個室に向かった。


「「本当にありがとうございました」」


二人が揃って頭を下げた。互いの手をしっかりと握ったまま。


「いえ、私どもは何もしておりませんので」

「ベルナデットから話を聞きました。全て、こちらのお店のおかげです。食事も今まで食べたことのない料理で大変美味しかった。デザートも楽しみです。ベルが好きそうだ」

「ええ、叔父様」

「こら、名前で呼んでほしいと言ったじゃないか」

「だって、まだちょっと恥ずかしくて……」


光の速さで二人だけの世界に突入したので「どうぞごゆっくり」と会釈をしてフェリシーは退出した。


*****


数か月後、幼馴染との婚約を解消したベルナデット・バール男爵令嬢が親族の男性と結婚し、領地に旅立ったという噂を聞いてフェリシーは密かにほくそ笑んだのであった。

*これでベルナデット嬢の話はお終いです(#^^#)

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それにしても料理で1級のシェフ そしてそれが定食屋 として味わうことができるということ それはちょっとした貴族のご飯みたいな感じかな 普通の人からしたら 三ツ星の料理人の人の料理が 比較的手頃に味わ…
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