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取引

「さて、やっと二人になれたな」


国王は満足げに口角を上げる。整った顔立ちだが基本が悪人顔なので、それだけで何か裏があるように見えてしまう。


「私に何か御用でしょうか?」

「用があるのはお前のほうだろう? コレットからお前を助けてやってほしいと頼まれたんだぞ」

「コレット…殿下に?」

「コレットのままでいい。あれは王女として育ってはいないからな。大きくなったら自由にさせてやるつもりだ」

「随分王子たちとは扱いが違いますね」


クロードが虐待されていた時はあんなに冷たかったのに、と不満の気持ちも多少は湧いてくる。


国王はふっと笑った。


「このアキテーヌ王国ではまだ女王は誕生していない」

「はい」


話がどこに行くのか見えずフェリシーは眉をひそめた。


「隣国のオールブライト王国では女王が国を統治していた時代もあったというが、ここでは未知の領域だ。特に王子が三人もいるのにそれを差し置いて末子の王女が王位につくことはあり得ない」

「王座につく可能性がない子供は普通の親のように可愛がる……ということでしょうか?」

「そうだ。国王の責任は簡単に背負えるものではない。強く鍛えなければならないだろう」


彼の理屈は理解した。納得できるかと言われればそうでもないが、彼なりにクロードに強くなってほしいと思っていたのかもしれない。


「コレットによると、秘密だと約束したから事情は話せないけどフェリシーが困っているので助けてやってほしいと。一体なんのことだか分からない。ちゃんと説明しろ」


コレットに秘密にしてほしいと頼んだのは『記憶持ち』についてだ。彼女の意図は恐らく……。


「……陛下も人の魂の色がご覧になれるのですよね? コレットと同じように?」

「ああ、そうだ。息子たちには受け継がれなかったが……コレットだけは人の魂が見えるらしい。それが何か役に立つのか?」


国王の顔が真剣さを帯びた。少なくとも遊び半分でないのが分かって内心ホッとする。


「実は……」


国王に前世について説明し、自分と同じような魂を持つ人を見かけたら教えてほしいと頼んだ。


毎日多くの人間と謁見する国王のほうが見つけやすいだろうとコレットが配慮してくれたに違いない。


彼は顎を撫でながら頷いた。


「なるほど……。これまでお前と同じような魂の人間には会ったことがないが、見かけたら知らせよう。マルゴワール公爵の一件では世話になったことだしな」

「誠にありがとうございます。よろしくお願いいたします」


フェリシーは素直に頭を下げた。国王なら外国からの客人にも面会する機会が多い。捜索の幅が広がるというものだ。さすがコレットは目の付け所が違うというか、そもそも国王にそんな私的な頼みごとをするという発想自体がなかった。


「ところで協力する代わりと言ってはなんだが……」


(やっぱり来た。国王陛下が見返り無しにお願いを聞いてくれるとは思っていなかったけど……)


拳にぎゅっと力を入れて彼の顔をまっすぐに見つめる。


「おいおい、そんな怖い顔をするな。グレゴワール家の三女アリーヌについて質問したいだけだ」

「アリーヌ姉さまの? ……はっ、姉さまの私生活を暴くようなことはできませんがっ」

「おいおい。国王を何だと思っている?」


国王は楽しそうにくすくす笑っている。


「お前は……素はそういう感じだったのだな。王宮で会った時は終始つまらなそうな顔ばかりしていたが」

「そ、それは国王陛下も同じです。いつもむすっと厳めしい顔をしておいででしたわ」

「まぁ、王宮とはそういう場所だからな」


(まぁ、国王陛下の苦笑いなんて初めて拝見するわ。渋い……イケオジってこういうのかしら?)


そんなフェリシーの感想はさておき、国王はアリーヌについて尋ねた


「アリーヌには好いた男はいるか? 未婚で婚約者もいないと聞いているが」

「それは……私が知る限りはいない、と思います」

「そうか。カミーユかシャルルのどちらかと結婚する可能性はあると思うか?」

「はぁあ⁉ アリーヌ姉さまがですか?」


信じられない、と口をぽかんと開けるフェリシーに国王は再びくすくす笑う。


「俺はグレゴワール四姉妹を信用している。理由の一つは、お前たちが精霊族の血を引いているからだ。嘘がつけない。そうだろう?」

「……はい」


***


グレゴワール伯爵、つまりフェリシーたちの父親は隣国の精霊族の女性と恋に落ちた。しかし、人間の国に来ることを拒まれたため父は通い婚という形を取った。


家族という繋がりを重視しない精霊族の女性は長女オルガが産まれたときも特に執着しなかったという。結果、子供はアキテーヌ王国で育てることになり、現在もグレゴワール伯爵は恋する女性と逢瀬を重ねるために精霊国と国境を接する領地から出てこようとはしない。


「まぁ、お前たちの父親にも困ったものだが、領地経営だけはきちんとやっているようなので大目にみている。」

「ありがとうございます。国王陛下が催される舞踏会にも出席せず、大変申し訳ありません」

「あの男には何も期待していないから構わん。ただ、四姉妹は別だ。国の役に立つ人材を活用するのが俺の仕事だからな」

「それでアリーヌ姉さまをどうなさるおつもりですか?」

「お前の店は縁結びが得意なのだろう? 無理強いをするつもりはないが、カミーユとシャルルと見合いさせてもらえないか? どちらか気に入ったほうをアリーヌにやろう」

「王子殿下を物みたいにおっしゃらないでください! それに後継ぎになったらアリーヌ姉さまが王妃ということにも……はっ、まさか⁉」


国王はにやりと笑った。


「察しがいいな。そうだ。アリーヌに王妃になってもらえたらと思ったんだがな」

「姉さまが毒殺されたらどうしますか⁉ 王宮は危険だとご自分でもおっしゃっていたではないですか⁉」

「まぁまぁ、元凶のマルゴワールは失脚した。王宮も随分平和な場所になったのではないか?」


なだめるように国王が言う。


「…………」

「アリーヌは言語の天才だ。王妃として外交面でも活躍できるだろう? それに本人がどちらも気に入らないといえば無理強いはしない」

「本当に無理強いはしませんね? 見合いも姉さまが嫌がったらしませんよ」

「ああ、分かった。アリーヌが同意したらゆかりで見合いを設定してくれ。頼んだぞ」

「……はい」


なんだかんだで言いくるめられた気がしてしまうフェリシーであった。

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