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コレットの家

「クロード。本当に信用できるのか?」


カミーユは心配そうに尋ねた。


「はい。コレットのご両親が俺たちに会いたいから屋敷に来てほしいと。お嬢さま、コレットは嘘をついていないですよね?」

「ええ。危険なこともないと思いますわ」

「母上の手がかりに繋がれば良いが……屋敷の場所は誰にも漏らしてはいけない、なんてかなり仰々しいな」

「しかも、護衛も帯同禁止……よく父上が外出許可を出してくれたもんだ」


普段は大胆なシャルルもさすがに護衛無しで王都の街に出るのは初めてだそうで、やはり緊張している様子。


カミーユとシャルルも今日は平民の服装だが、黒髪に赤い目の長身美青年が三人も歩いているといやでも注目を浴びる。特に多くの女性陣がチラチラと彼らに熱い視線を送っていた。


「兄上、堂々としていてください」


クロードにそう言われても、普段暮らしている王宮とはまったく違う好奇の目や不躾な視線に戸惑うのは仕方がないだろう。


「あまりきょろきょろされないほうがよろしいと思いますわ。どうか前だけを見て歩いてください」

「確かにそうだな」

「分かったよ、フェリシー」


カミーユとシャルルは腹を決めたように前だけを見て歩き出した。普段から街歩きに慣れているクロードとフェリシーも後を追う。


コレットから知らされた屋敷の場所は本当に隠れ家のようだった。高い塀が続き、内側の様子は何も見えない。入口の扉も普通に歩いているだけだと絶対に見落としてしまうだろう。それくらい目立たない場所にその扉はあった。


「えーっと、コレットの指示だと……」


ただの塀の一部にしか見えない扉に向かって三回ノックをした後、数秒休みもう一度今度は五回ノックをする。


そのまましばらく待つと塀が割れて扉が内側から開いた。


「コレットお嬢さまのお客様ですね。お待ち申し上げておりました」


立派な装備の騎士風の男性が顔を出す。


そこはかとなく圧倒されて中に入ると屋敷ではなく再び高い塀が目に入った。


「塀の中に塀……?」

「牢獄か?」


クロードとシャルルがこそこそ耳打ちしている。この二人は気が合うようだ。


案内の男性の後についていくと内側の塀のところに門兵が二名立っていた。


「コレットお嬢さまの……」

「「かしこまりました!」」


男性が説明すると門兵は直立不動で通してくれた。


「おい……マジでここは普通じゃないぞ……やばいんじゃないか?」


シャルルが小声で囁くが、カミーユとフェリシーは黙ったまま歩を進める。


「こんなに訓練された警備兵がいる民間人なんて……何者なんだ?」

「分かりませんが……コレットは上流階級の生まれのようでした。どこかの大富豪の娘だったのかも……」


カミーユとフェリシーに無視されるシャルルが気の毒で仕方なくクロードが答えた。


「魔族の国の大富豪じゃないのか?」

「さぁ……?」


二人がひそひそ声で話していると今度こそ立派な豪邸の前に着いた。


「どうかこちらからお入りください」


案内役の男性に言われるがまま通用門のような場所から屋敷の中に入ると、今度は執事の格好をした姿勢の良い老紳士が立っている。


「いらっしゃいませ。当家の家令でございます。ようこそお越しくださいました。ご案内させていただきます」


内部もシンプルだが洗練されていて上品さが際立つ。コレットの両親はどんな人たちなのだろうとフェリシーも考えた。


「どうぞ、こちらでございます」


家令に案内されたのはこじんまりとした応接室であった。


「お座りになってお待ちください」


正方形のセンターテーブルを二人掛けのソファが四つ囲んでいる。


カミーユとシャルルが同じソファに、フェリシーはクロードの隣に腰かけた。


「随分座り心地がいいな」


クロードが呟く。


「そうか? 王宮と変わらないぞ」

「シャルル、王宮と同じということは最高級品ということだ」


カミーユが呆れたように言うとシャルルは「へへ、そうっすね」と頭を掻いた。


「いずれにしても大富豪には間違いないですね」


クロードは周囲を見回している。フェリシーも同意して頷いた。


「本当ね。高位貴族の屋敷といってもおかしくないくらいだけど……。貴族のタウンハウスではないのよね?」

「私たちは王都にあるタウンハウスを把握している。ここは違うし、そもそも二重の塀なんて許可されないはずだ。一体何者なんだ……?」


とんとん


その時、ノックの音がした。全員の表情に緊張が走る。


「どうぞ!」


フェリシーが答えると扉が開いて先ほどの家令がティーワゴンを押して入ってきた。全員、がっかりなのか安堵なのか分からない息を吐いた。


「お茶をお持ちしました」


家令は美しく盛りつけられた菓子の皿を中央に置いた後、優雅にティーカップにお茶を注ぎ、各人の前に置いていく。


紅茶の香りも素晴らしい。茶菓子も高級だ。この屋敷の主人は裕福であると同時に一流とは何かを理解しているに違いない。


「大変申し訳ありません。もう少々お待ちください」


家令が去った後、さらに三十分ほど待たされた。


「随分もったいぶるじゃないか?」

「まるで父上みたいだな」


カミーユとシャルルが冗談で笑いあっているところに扉がノックされた。


「どうぞ!」


もう一度フェリシーが返事をする。


(今度こそ……)


応接室の中の緊張が高まった。空気が張りつめているのが分かる。


ゆっくりと扉が開き、背の高い男性が現れた。黒髪に赤い瞳である。そして衝撃のあまり思わず立ち上がってしまったフェリシーたちに向かって彼はこう言った。


「無礼講だ。堅苦しい挨拶は抜きにしろ」


「国王陛下⁉」

「「「父上⁉」」」

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