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晩餐会

今宵はグレゴワール伯爵家の料理長が存分に腕を振るった晩餐会だ。


「相変わらず美味しかったわね」


満足そうに真っ白なナプキンで口を拭うベアトリスにオルガは「そうだな」と同意した。


「フェリシーのおかげで我が家のメニューは大きく進化したからな」


オルガに笑いかけられて、フェリシーは「ありがとうございます」と会釈した。


「それでまた国王陛下から無理難題を押しつけられたんだって?」


オルガが心配そうに尋ねた。国王はこれまで何度も四姉妹に面倒くさい仕事を振っている。


「マルゴワール公爵と交渉してこいって命じられました」

「え⁉ よりにもよってマルゴワール公爵⁉」


簡単に事情を説明するとベアトリスの顔が曇った。


「大丈夫? 公爵は百戦錬磨の手練れよ? 交渉は手ごわいと思うわ。欲深だし絶対に金は返さないって言うんじゃないかしら?」

「はい。普通に考えたらこんな小娘が交渉しても鼻で笑い飛ばされるだけでしょう」

「策はあるの?」


フェリシーは「一応は……」と呟いた。


「ベアトリス姉さま、マルゴワール公爵に後ろ暗い会計処理はありませんか?」

「以前は王宮への提出書類に誤った会計処理が多くて大変だったけど、ディディエと私が監査するようになってからは改善されたわ」

「最近は……不透明な会計処理はない感じですかね?」


フェリシーの質問にベアトリスは腕を組んで考え込んだ。


「少なくとも王宮に提出される書類ではなかったけど、私たちが全ての書類を精査できるわけじゃないから……。例えば、王宮が外部に発注した事業に絡んでいた場合なんかは把握するのが難しいわよね」

「ビンゴ!!」

「びんご……? なに?」

「あ、いいえ、すみません。なんでもありませんわ」

「ああ、いつものね」


フェリシーはたまにわけの分からない言葉を使うが、家族はそれに慣れている。フェリシーには前世の記憶があることも四姉妹は知っているからだ。


「ベアトリス姉さま、リールと王都をつなぐ汽車の計画があるのはご存じでしょう?」

「もちろんよ! 一大事業だもの」

「独立した民間事業者が落札して、どの貴族も絡んでいないはず…なんです。表向きは」


ベアトリスの眼光が鋭くなる。


「どういうこと? 表向きって?」

「リールと王都を結ぶ機関車の新燃料の開発で研究が行われているらしいのですけど……」

「ええ、話は聞いているわ。ディディエは工学にも詳しいから彼が許可を出したはずよ」

「研究段階なのでいろいろな鉱石を集めて試験をしています」

「まぁ、それは当然のことよね」

「集めた鉱石の中に硝石が含まれているんです」

「硝石?」

「硝石、硫黄、木炭があれば火薬が作れますわ」

「かやく……ってなに?」


三女アリーヌが首を傾げた。


「あっ! オールブライト王国で最近開発されたっていう鉄筒てっとうの原料のことか?」


さすが現役近衛騎士団長は外国の最新鋭の武器のことも把握している。


「私の前世では鉄砲とか銃って呼ばれていました。人を殺すための武器です。とても強力な飛び道具なんです」

「弓矢よりもか?」


オルガが眉を顰めた。


「殺傷力では比べ物になりません。それに火薬を使えば大砲だって作れます。この世界で今まで存在しなかったのが不思議なくらい」

「ちょっと待って。硝石は新しい動力源の材料になり得るから集めているんじゃないの?」


動揺したベアトリスが慌てて立ち上がる。


「発破とか役に立つ場面もありますが、燃料としては難しいと思います。爆発してしまうので。その研究をしている技術者も、硝石はすぐに候補から外れたのに何故こんなに運びこまれるのだろうって疑問に思っているそうですわ」


ベアトリスの眉間に皺が寄り、目が据わった。


「運びこまれる……。どこに?」

「リールの街です。新しい機関車はリールと王都をつなぐものですから、理にはかなっているのですが……」

「なるほど。リールね……。国王陛下が気にされていた街だ。新しい鉄道のことで懸念されているのかと思っていたがそれ以上の何かがあるのかもしれないな?」


オルガが不敵な笑みを浮かべると、ベアトリスは真面目な顔でフェリシーに尋ねた。


「ねぇ、フェリシー。その硝石ってどこから購入しているか分かる?」

「はい、ベアトリス姉さま。私が調べたところマルゴワール公爵領にある鉱山です」


四姉妹の顔が瞬時に引き締まった。部屋の隅に控えながら、クロードはフェリシーの慧眼に感服していた。


友達ゼロ人エマニュエルから新燃料の話を聞いた後、フェリシーは各所に手紙を出して調査を依頼していた。単に勘が良いからなのか、あるいはそれも異能なのだろうか?とクロードは首をひねる。


「……貴重な情報をありがとう。フェリシー」


(ベアトリス様の笑顔が怖い……)


クロードが背筋を凍らせている間に四姉妹は話し合いを終えた。


「いや、今夜も有意義だった。食事も素晴らしかったよ。料理長に礼を伝えてくれ」

「ご馳走様でした。美味しかったわ~。早速ディディエに報告しなくちゃ。楽しかった~」


オルガとベアトリスが満足そうに帰っていくのをアリーヌとフェリシーが手を振って見送った。


***


「お嬢さま、あまりご無理なさらないでくださいね」


クロードは遅くまで仕事をしているフェリシーの肩に心配そうにショールをかけた。


「ありがとう。あともう少しだけ……」

「いよいよ明日ですね」

「ええ」


国王が手配した交渉人、つまりフェリシーとクロードがマルゴワール公爵邸を訪問するのは明日。さすがに仕事が早い国王があっという間に全てを手配してくれた。


いよいよ決戦の時である。


「お嬢さまでも緊張しますか?」

「するわよ。当たり前じゃない。人を何だと思っているの?」

「お嬢さまは心臓に毛が生えているのかと……」

「まったく失礼ね」

「そういうところも大好きです」

「はいはい。あなたはもう寝なさい」

「お嬢さまが寝るまで控えているのが従者の務めですから」


フェリシーは無表情のままはぁっとため息をついた。


「じゃあ、ホットチョコレートを作ってきてくれる? ちょっと甘いものが欲しいの」

「もちろんです! かしこまりました」


フェリシーに頼まれるのが嬉しくて堪らないクロードは足取りも軽く厨房へと向かっていった。

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― 新着の感想 ―
火薬か これはダメだ これの発明は 産業革命をしたが だが それと同時に人殺しの道具まで作ってしまった まるでそれまでの戦争と呼ばれるものが子供のお遊戯のように感じるものが これはだめだ 確かに便利だ…
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