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スロープネイト王国への帰還と、異変

 ボートで待っていたピエール様に連絡を取り、南端レイン領の残ったホテルで一泊した翌朝。

 早朝から運転を始めたボートの上で、セシル様は私に問いかけました。


「結局、本当に何も言わずに帰ってきたんだね。本当によかったの?」


「はい、全く。これっぽっちも未練などありませんので。それより皆様も、ゆっくり観光もできたでしょうに、一緒にすぐ帰る方針で良かったでしょうか?」


「長居しても、あまりいいことがなさそうだったからね。下手に僕達があの国の魔物討伐を手伝って、それが当たり前になったら困る」


 当たり前になる。

 それは、ある意味では私そのもののような気もしました。


「あの国……ウィートランド王国を守るのは、ウィートランド王国民だ。僕達がそれに足を踏み入れると、彼等の日常を奪ってしまいかねない」


 セシル様の言葉に、もしかしたら私はラインハルト王子の日常を奪ってしまったのかもしれないとも思いました。

 何でも言われた通りやっていましたが、任せることも大事だったのかもしれません。

 今となっては、もう何もわかりませんが……。


「それに、僕としてもスロープネイト王国の無事を早めに確認したい気持ちもあったからね。とはいっても、ラナが負ける魔物がいないからあんまり意味のない心配なんだけど」


 そんな様子で、のんびりとボート船内にいたのですが、近衛兵の方がすぐに不穏な空気を気にしてやってきました。


「セシル様、島が見えてきましたが……どうやら、火の手が上がっているようです」


「火の手?」


「はい。もう日が昇ってきたので薄らとしか見えませんが、あまり見ないものです」


「気になるな」


 セシル様は、上に上がって様子を確認しに行きました。

 私も後をすぐ追います。


「どうですか?」


「……確かに、何か様子がおかしい。ピエール、急いでくれ」


「分かった!」


 ピエール様は、セシル様の声を受けてハンドルを少し右に寄せます。

 急ぐ……といっても、どうやら自分の領に一旦戻るようです。


「北側の海岸に向かって下さい」


「アンバー?」


「私はそちらから来ました。大体どんな敵が分布しているかも分かっていますし、私とセシル様なら何が出てきても切り抜けられます」


「なるほどね。アンバーがそう言うのなら、北側から向かおう。ピエール、構わないか?」


「……船は無事でしょうね?」


「私が防御魔法を張っているので、恐らく一切ダメージを受けることはないと思います。部隊を分けて、近衛の方から海が得意だった方に残ってもらうのはどうでしょうか?」


 セシル様が頷き、近衛の一人と話をします。

 ずっと外でいた方は頷き、方針が決まりました。

 柔軟に対応して下さるようで、良かったです。


 そのことを聞いてみたのですが、明確な答えが返ってきました。


「本来我々はアーヴァイン陛下の剣であり盾。その陛下に危機が及びそうな確率を下げられるのなら、そちらを選ぶまでです」


 なるほど、そういうことなら確かに理に適っています。


「ピエール様も、ホリー様のご親族。決して適当な仕事はいたしません」


「はい、よろしくお願いします」


 近衛兵の方々は、王直属になるだけあって相当な実力者の方々です。

 少なくとも、海の魔物に後れを取ることはないでしょう。


「そろそろ、スロープネイトに近づいてきた! 各自準備!」


 ピエール様の声が聞こえてきたところで、ボートの正面に三度目の巨大タコさん改めクラーケンがいました。

 私は船の先頭に立ち、思いっきり光線を浴びせて貫通させます。

 黒い鮮血……のような墨を派手に撒き散らして、クラーケンは海に沈んでいきました。


「まず全員に強化魔法と防御魔法をかけます。海岸のワニは同じように一掃しますから、グスタフ様に先行をお願いできますか?」


「おうよ、任せな!」


 一通りの連絡がすみ、最初の指示通り海岸の魔物を一掃して全員で上陸しました。

 ピエール様と近衛の方に手を振り、王城への扉を目指します。


 ここで既に、嫌な予感はしました。


「バリアがないですね」


 事前に張っていたスロープネイト城のバリアが、消えています。

 自分で張っていたものなので、なくなっていたためすぐに分かりました


 ということは、そのバリアを破るだけの魔物がいることになります。


「何が出るでしょうか。……さすがに丸一日出ていたのは、失敗だったかもしれません」


 私はポケットから最後のクッキーを取り出して、口に入れました。

 一人だけこうして優雅に食事を摂っているのは、少し申し訳なくなります。


 それにしても、今ここでクッキーがなくなるのはまずいです。

 魔力がなければ、私は本来の能力が発揮出来なくなりますから。

 それは、花がなくなって城を去ったティタニア様と同じようなものです。


「そろそろ見えてきました」


「うん、覚悟しよう」


 グスタフ様が先行して、盾を構えながら扉を開けます。

 こちらから入った様子はないと判断したグスタフ様は、すぐに走り出しました。

 我々も後を追います。


 お城の階段を上がった直後——。


「——下がって!」


 セバスが真っ先に叫び、グスタフ様が急停止して盾を構えました。

 直後、その巨体が数度衝撃に揺れます。


「一体、何が……」


 私がグスタフ様の後ろから正面を見ると、そいつはそこにいました。


「ハァッ! っと、早かったわね、みんな!」


 ラナ様が、一瞬こちらを確認した後に正面の敵を見据えました。

 そこにいたのは……人型のような姿になった、ブラックスライムでした。

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