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聖女の交流

「外から聞いてたけど、いやー気分爽快だねえ!」


「ハハ、まさかアンバーがあんなに言うとは思わなかったよ」


 城から出てしばらくして、フレイヤ様とシルフィ様が楽しそうにこちらに話しかけました。

 お二方は外から聞いていたみたいですね。


「柄にもなく、いろいろと嫌だったものが出てしまいました。……彼が立ち直るかどうかすら、私にはもう分かりません、正直今はもう、あまり考えたくないというか」


「いや、十分頑張っていた。後はもうゆっくり休むべきだね」


「そう言っていただけると、気が楽になります」


 シルフィ様の気遣いが有り難いです。

 思えば聖女同士はここまで頻繁に話をする事がありませんでした。


「話には聞いていたけど、アンバーは海の向こうに行ってしまうんだね。ふふ、寂しくなるなあ」


「そんな顔には見えませんけど」


「ハハ、時々言われる。私はね、いつも飄々としすぎて達観しているから、本心で話していると思われていない節もあるのさ。だから表情がないと言われたアンバーの気持ちも分かるんだよ」


 なんと……そういうこともあるのですか。

 私は表情がどうあっても変わらず、それ故に何を考えているか分からない、喜怒哀楽が見えなくて気持ち悪い子供として扱われて来ました。

 シルフィ様は、どんな時でも表情が変わらず笑顔で、それ故に何を考えているか分からないと思われていたのですね。


 何だか、不思議な気持ちです。


「フフ、今日はアンバーの内面を知れてよかったよ。君は表情が変わらないけど、真面目に仕事をこなして不平不満を漏らさなかった。だから内面も平坦なのかと思っていたけど……君には強い『自分の意思』があった」


「楽しかったねえ! アンバーの怒りは、青い炎だねえ。外見からはとても冷たく静かな色なんだけどさあ、青い炎は赤い炎より熱いんだよお。——うん、アンバーは、そんな感じ」


 フレイヤ様が、私の瞳を覗き込みながらニヤリと笑いました。


 二人から、そう評価いただけると……何でしょうか、とても胸が温かくなります。

 不思議ですね、これもフレイヤ様の火の魔法なのでしょうか。


 私の中には、激情があった。

 それを知っただけでも、ここに来た甲斐があったように思います。


 さようなら、ラインハルト王子。

 さようなら、空白だった私の十代前半の全て。




 折角だからと、夕食をご一緒させていただけることとなりました。

 城下町の人気店です。

 お酒も飲める場所とのことで、賑やかに店の一角を四人編成の楽団が小規模な演奏をしていました。


「……おや、あれは」


 そこには、珍しい人物がいました。


「ティタニア様と……マリア様」


 名前を呼ばれたお二方は、こちらに気付くとぎょっとした顔をしていました。


「アンバー様……生きて、いらっしゃったの」


「何だかもうその反応が少し新鮮に感じられてきました」


 さすがにそろそろ省略いただいてもと思うのですが、彼女にとってはこれは初めてですからね。


 何度か言葉を交わしてお互いの詳しい話を通しました。


「そうですか、アンバー様は魔王島の裏側に移り住むことに」


「ええ。それで、お二人は何故こちらに?」


 互いの顔を見合わせて、マリア様がお答えになりました。

 黒髪でツリ目の、グラマラスな美女の方です。


「私の事情を聞いているとのことで、お恥ずかしい限りなのだけど。音楽ゼロで魔力が出る筈もなく、一番楽団の多いここにずっといたわ」


「それで大丈夫だったのですか?」


「どちらにせよ、音楽を聴く必要があったもの。『音の聖女』というものは気に入っているけど、ある意味呪いよね」


「呪い?」


「そうよ。だって私達って、この名前を冠した手段でなければ魔力が溜まらないようになっているのだもの」


 確かに……そう考えると、決して神の祝福と言い切ることも出来ませんね。

 普通の方は、寝ていたら回復しますから。

 聖女の場合は、通常の睡眠で魔力が回復することはありません。


「本当に……魔力を溜める手段がないと能力を発揮出来ないのは困ったわよね」


 ティタニア様が、テーブルを見つめながら呟きました。


「アンバー様、あなたには謝りたいことがあります。まずあなたを侮ったこともそうですが、魔力が足りない状態というのがどれ程辛いものか分からなかったのです」


 それは、間違いなく冬の庭園に花がなかった話でしょう。


「ただ欲しているだけじゃない。それがなければ自分の存在理由を失ってしまう。そんな中であのラインハルト王子から蜂蜜を制限されていたあなたが、どれだけ長い間苦しんでいたか、分かったわ」


 ティタニア様は……そうですか、私と同じ立場になって、私と同じ気持ちを味わったのですね。

 あの日々は……本当に苦しいものでした。


「それを共有できただけでも嬉しく思います。それに、私でも遠征中に蜂蜜を一切いただかなかったという日はさすがにありませんでしたから。花が全て枯れた後のティタニア様の気持ちは察するに余りあります」


「アンバー様……感謝します」


 ある意味では、何よりも私に近い存在となったように思います。

 私は容姿で離され、彼女は容姿で迎え入れられた人ですが、その事情は誰よりも近しいものであると思うのです。


「私はもうこの島を離れますが、折角ですし、ティタニア様。あのラインハルト王子の婚約者を経験した者同士として、友人になりましょう」


「……本当ですか? 婚約者を奪った私を恨んでいたりしませんか?」


「それ、ラインハルト王子の婚約者であることに利点を見出していないと無理ですよ。私とティタニア様に限っては、誰よりもそんなもの要らないと思いますけど」


「っふ、ッフフっおっもろ……確かにせやね、アンバー様、おもろい人やったんやな」


「……変わった喋りをするんですね」


「あっ」


 そんなわけで、花の聖女ティタニア様と最後の最後に友人となりました。

 ちなみに独特の地方語を話すティタニア様に興味を示したフレイヤ様達とも友人となっていました。

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