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聖女と領主の関係

 ウィートランド王国、城下町。

 ここに来るのも半年ぶりです。


「久々だから懐かしいんじゃないかい?」


「ところが、全くなのです」


 セシル様の問いに、私は首を横に振ります。

 本来ならばかなり長い間お世話になっている場所のはずなのですが、地元以上に全く馴染みがありません。


「私、この街を全く知らないのです。だってお城から出たことがありませんから。馴染みがあるものといえば、窓から見える庭園ぐらいですね」


「ごめん、失礼な話題だった」


「いえ全く。普通はこんな質問、失礼な話題になるはずないんですよね? ならば悪いのはセシル様ではありません」


 私にとって、それだけは絶対です。

 これでセシル様が悪ければ、私とセシル様がウィートランド王国の話題をするのはほぼ不可能です。


「思った以上に、アンバーは囚われお姫様だねえ。私はあの王子に見初められなくてよかったよお。そういう意味じゃ、嫁ぎ先はまだ全然楽な方だったなあ」


「仲はよろしいのですか?」


「いいよお。侯爵といっても貴族らしからぬ自由人だし、街に愛着を持つよう頻繁に連れ出してくれたし。何より私の魔法を最大限高めることに全力を出してくれてるし」


 火の聖女として、フレイヤ様の領内では火という火が積極的に増えたと聞きます。

 それだけ領内が全力でフレイヤ様のことを盛り立ててくれているということですね。


「それもこれも、私が強ければ強いほど自分が楽になるから、って認識なんだよねえ。普通はそうなるってことよ」


「そうですよね。普通は聖女が強くなれば楽になると考えるはずですよね」


 彼女の言葉を聞くと、当たり前のことを理解させられます。

 私達は、本来協力した人を楽にさせるためにいるのですから。


「ありがとうございました、フレイヤ様。やはり同業の方に聞くのが、悩みに対して一番回答が出やすいと思います」


「そりゃよかった。なんか酷な回答でごめんねえ」


「そんなに悪いと思ってらっしゃらないでしょうし、もっと堂々としていていいですよ」


「ありゃま、シルフィの言った通り、アンバーは本当にいい雰囲気になったねえ」


 そう遠慮なく笑うフレイヤ様を見て、自信が付きました。

 疑問に思ったことを、遠慮なく相手にぶつけていくことに出来そうです。




 城下町を歩き、城門の前に立ちます。


 真っ先に前に立つのは、シルフィ様です。


「やあ、お疲れ様。『風の聖女』が緊急の用件で来たよ。予約はないけど、入らせてもらっていいかな?」


「聖女様、お疲れ様です。予約なしとのことですので、只今確認を取らせていただきます。今しばらくお待ちを……」


「——緊急事態、という言葉の意味を分かっているのかな。今出ている討伐隊の生死にも関わる問題なんだけど」


 シルフィ様が、ぼそりと小さく呟いた声に、門番の人達は大きく反応します。

 具体的に言うと、少し可哀想になるぐらいに青い顔で怯えてらっしゃいますね。


「わ、わかりました……! 事後となりますが、私の判断で入れたことにします。急ぎ伝達しに向かいますので、城内へご自由にお入り下さいませ」


 青い顔で走っていった右の門番を見て、左の門番は背を伸ばして敬礼しました。

 こういう時の機転の速さと押しの強さはさすがシルフィ様です。

 女性人気があるというのも頷けるというものです。


「それじゃ、行こうか。アンバーだけじゃなく、私達も聞いておかなければならないことが沢山あるからね」


「はい」


 私が頷き、セシル様達と頷き合い、城の中へと入りました。

 途中、門番さんが私の顔に気づいて目が飛び出そうなぐらい驚いていらっしゃいましたね。




「金額! 速く算出して! 遠征隊が帰る前にッ!」


「いい加減にしろ! 怒鳴ってすぐ終わるわけじゃないだろうが!」


 城内に入ると、いきなり大声での言い合いが始まっていました。

 お城に入って早々にトラブルのようです。


「ちょっと! そろそろ資材管理分の表を何とかして! ティタニア様に任せていたけど、途中のままなのよ! あなたが引き継ぐんでしょ、これじゃ現場が動かないわ!」


「そんなものもう中止でいいだろ……」


「なんですって!? あれには私の昇進が——」


 他の方向でも、言い合いが始まっています。

 その中で、ふと気になる言葉が聞こえてきました。


「ティタニア様?」


 私のつぶやきに、フレイヤ様が振り向きました。


「ティタニアちゃんおらんかったねえ。あれでけっこー真面目な子だと思ってたし、なかなか野心家だったし気に入ってたんだけどお」


「お城にいらっしゃらないのは、ちょうど出撃しているからでしょうか」


 私の言葉に、フレイヤ様とシルフィ様は目を合わせると……何故か二人で笑い始めました。

 ……何か変なことを言ったでしょうか。


「やっぱ最初にそう思う辺りが真面目ちゃんだねえ。実力があってもなおこの性格なんだから、やっぱりアンバーが一番だと思うなあ」


「そうだね。自分を追い落として美味しいところだけ奪っていったティタニアに対して、アンバーは彼女が仕事をこなしている前提で話をしているんだから」


「……? どういうことですか」


 私がそう問いかけた、その時。


「——緊急で聖女が来ていると聞いたが」


 向こうから、威厳のある声が聞こえてきました。


 この国でこれだけのカリスマ性を持つ人物は一人しかいません。

 アレクサンダー国王陛下が、自らこちらに足を運んでいました。

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