聖女二人はアンバーを探る
屋敷を出ると、すぐ近くにフレイヤ様とシルフィ様がいらっしゃいました。
「おっしゃ、殴ったか!?」
「殴りませんよ」
「なんだあ、おもしろないなあ」
「でも思わず攻撃魔法が出て危うく消しかけました、髪を焼くだけで済みましたね」
「めちゃおもしれえ!」
この辺り、火の聖女ならではのセンスなのかは分かりませんが、フレイヤの考えることは分かりません。
「というより、二人は何故こちらにいらっしゃるのですか?」
「フフッ、何でと言われると、面白そうだから見に来たんだよ」
シルフィ様もシルフィ様で、ちょっと癖が強い方なのですよね。
飄々としている自由人で、見た目は綺麗な女性なのですが中性的な雰囲気があります。
噂によると、一部の女性にとても人気な方なのだとか。
「で、そろそろ二人の用事を聞こうかと思いまして」
「そうそう。アンバーはこの後、王城に行くよね?」
「はい」
「私達も行きたいから、相乗りさせてもらおうかなって思って。馬も持ってきたよ」
聖女の二人も王城へ向かいたいとのことです。
そういえば馬車は置いてきていたので、連れてきていただけたのは助かります。
しかし一緒にとなると、さすがに私の一存で決めるわけにもいきません。
「セシル様、他の皆様も、どうでしょうか。二人は決して問題を起こすような人物ではありませんが」
「アンバーが言うのなら、そうなのだろうね。僕は構わないけど、皆は?」
「もちろんねェぜ」
皆様の同意も得られたので、お二人のことを皆様に紹介します。
「皆様、こちら『火の聖女』フレイヤ様と、『風の聖女』シルフィ様です」
「よろしくねえ」
「ふふっ、楽しい旅になりそうだ。よろしく」
お二人がご挨拶をして、カーテシーを取ります。
「本当に聖女が沢山いる国なんだ……」
「さっきの攻撃魔法もマジで強かったンだよな、すげェよ、どんな国だよ」
「素晴らしい……女神の神秘です。これだけでも来た価値があったというもの」
皆様、他にも聖女がいたことが新鮮なようです。
当たり前のように聖女がいる環境で生きてきたので、これがとても珍しいことという感覚がありませんでした。
ここで聖女のお二方が、私とセシル様を見ます。
何やら目を合わせて、シルフィ様がセシル様に話しかけました。
「これから王城に向かう前に、一つだけ確認しておきたいんだけどいいかな?」
「構わないよ」
「アンバーの性格でも能力でもいいけど、どれぐらい評価しているかい?」
シルフィ様が聞きたがったことは、私の前で聞いてもいいものなのでしょうか。
それとも、わざわざ私の前で質問することに意味があったのでしょうか。
聖女シルフィ様は、少し達観した目を持っていらっしゃいますから、どこまで考えているか分かりません。
とはいえ、セシル様が表裏を考えて発言するとは思わないので、その部分は信頼しています。
「アンバーは、優秀だし、それに性格も真面目で気に入っているよ。欠点らしい欠点が見当たらないと思ってる」
……。ふわふわします。
何でしょう、そわそわしますね。クッキーでも食べましょうか。
(サクサクサクサク……)
「へえ……」
何故かクッキーを食べる私のことを、シルフィ様が見てらっしゃいます。
私を見たところで、面白いことはないと思うのですが。
「これは面白いものが見られたね。よし、君達に協力しよう」
よく分からないのですが、シルフィ様は王城において私達の味方となってくれるようです。
フレイヤ様は、「どっちにしろ面白そうだからアンバーの味方になるよお」と言って下さいました。
「ところでそろそろ、素敵な王子様の紹介をしてもらってもいいかな?」
そういえば、お二人には皆様のことを紹介していませんでした。
「こちらは魔王島の裏側にある『スロープネイト王国』の第一王子セシル様です」
「つまりアンバーの王子様ってわけだね」
「私のものではありませんが、信頼しています。特別な気持ちも恐らくあります」
私の答えに、二人はびっくりしていました。
あっ、グスタフ様達も驚いています。そういえば、あまり公言したことはありませんでしたね。
「……アンバーから、そんな言葉が聞けるなんてね。ふーむ、私としても嬉しい限りだよ。同業者として、君達の行く末を応援しようじゃないか」
そう芝居がかったポーズで言われました。
本当に、面白いぐらい様になる方ですね。
「いやあ、楽しくなってきたねえ。まあ私は、自由人なので勝てそうな方につくよお。領主におこられちゃったら、私もスロープネイト王国に行っちゃおうかなあ」
フレイヤ様、さすがに自由人すぎて少し心配になってきますね。
ですが、火さえあれば魔力無尽蔵な上、魔物の火炎攻撃も全部魔力になるので強い方です。
問題はファイアドラゴン相手だとフレイヤ様の攻撃も効かず千日手になりそうな事ぐらいですかね。
「それじゃ、王城に文句言いに行こうね。聖女が出て来ない件についても連絡しておかないとね。一応こちらにも言い分があるんだ」
そういえば……私の代わりにラインハルト王子の婚約者となった、『花の聖女』ティタニア様はどちらにいらっしゃるのでしょうか。




