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久しぶりのソノックス公爵領

 サンダードラゴンの襲来を、直前で防ぎました。

 確かにそのはずです。


 街の中に入ってみて驚きました。

 人の数が明らかに少ないのです。

 少なくとも、私が去る半年前はここまでではありませんでした。


「あまりこういうことを言っても悪いけど、普段からこのぐらいの人数しかいないのかい?」


「それはもうどんどん言っていただいて問題ないです。私も全く同じことを思っていましたので」


 やはりセシル様から見ても、不自然に感じるようですね。

 今の時刻は、一応昼と晩の間ぐらいなのです。スロープネイト王国を朝に出ましたが、思いの外船が優秀だったので昼には到着したのですよね。

 元々望遠鏡で確認出来るだけあって、魔物のことを考えなければ近いのです。


 つまり、今は食事のために各家庭が料理の食材を買い出したりしていてもおかしくない時間です。


「公爵領で、これは明らかに少なすぎると思います。どこに行ったのでしょうね」


 とはいうものの、なんとなく先程の会話で少し察せられる部分がありました。


 フレイヤ様との会話で、音の聖女をコンサートに連れて行かなかった、という話題が出てきました。

 どう考えてもそこはカットしてはいけない部分なのに、カットしてしまったということは、それだけ資金繰りが危ないのです。

 だってコンサートです。金のアクセサリーを二つ三つ毎週のように買う、というわけではないのです。

 いくら一日中でも音楽を聴ける人とはいえ、その程度の額を削るにしてはデメリットが大きすぎます。

 そのせいで、実力を測るほどの実力すら持たないトビーは死にかけてしまったわけですから。

 もしも音の聖女なら、対峙しただけで勝てないことぐらい分かるでしょう。


「一体、私が稼いだお金はどこに消えたのでしょうか」


「そういえばアンバーが稼いだんだっけ」


「お給金を全額この領地に入れていて、私には一切ありませんでしたから。数年間、各地の下級貴族の領地を含めた数々の農村部に魔除けを行いました。報酬は、かなりの額になっているはずだと思います」


「……聞けば聞くほど、滅茶苦茶な家だね」


「ひでェもんだぜ、アンバーじゃなけりゃあ普通に反乱軍行きだな」


 やはり、私の待遇はかなり極端に悪いのでしょう。自分で話していても、よくこれを許してきたなと思ってしまいますし。


「そろそろ、家に到着します。色々と聞かなければなりませんね」


 私は自分に言い聞かせるようにそう呟くと、見慣れた通りを抜けます。

 ……通りはよく見ていますが実際にお店に入ったことは僅かです。

 宝飾品店が多いですね。よく買われているのでしょう。

 まだ店に人はいますが、一部の店は既に品物をたたみ始めていました。




「ここかい?」


「はい」


 ようやく屋敷まで戻って来ました。懐かしいという感覚が……いえ、半年ぐらいならそこまで思いませんね。

 違和感があることといえば、一目で見た瞬間に草木が妙に伸びていると感じたことでしょうか。

 毎日手入れをしているので、いつも綺麗な球体のような形のガーデニングになっているのですよね。

 たったこれだけのことなのに、急に廃墟のような印象を受けます。


 それに何より、門番がいません。

 屋敷の門自体にはかんぬきのみで複雑な鍵が掛かっているわけではありません。

 普段門番が守っているため、不審者対策に派手なものをつける必要がないのです。

 その彼等がいないのなら、ここはあまりに無防備です。


 檻のような鉄の門に、ゆっくり手をかけます。

 ただ、少し嫌な予感を覚えて腕が止まってしまいました。


 ふと、手の甲に熱が籠もります。

 セシル様が、上から握ってくださったのです。

 隣でセシル様が、何も言わずに微笑んでくださいました。


 後ろを見ると、セバスに近衛兵の三名が、私を見ています。

 そうですね、今はこれだけの仲間がいます。


 私は覚悟を決め、家の門を開きました。




 屋敷の中に入ると、まずは誰もいないことが分かります。

 普通、玄関近くには誰かしらの人物が待っているものなのですが。


「おかしいですね……」


 中を歩いていると、遠くから足音が聞こえてきました。

 地面を揺らすような、重い人物の派手な動き。

 これは……。


「トビー、帰ったか!」


「やはり貴方ですか」


「——ま、まさか……ありえない……」


 屋敷の中で最初に出会ったのは、領主であるソノックス公爵。

 つまり、私の父です。


 娘の無事を見た父上の顔は、先程までの喜色から一転、真っ白になってしまいました。

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