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トビーのやり方

 サンダードラゴンは、セシル様達のお陰で随分と弱りました。

 特に、遠方の地から港町を守る為に移動してきた火の聖女フレイヤ様と風の聖女シルフィ様には、感謝してもし足りません。


 一方、この公爵領はどうでしょうか。

 公爵家を守る『音の聖女』はドレスのお金に…………。


 …………ドレス?


 ちょっと待ってください、待って。

 状況が状況だけに、聞き流してしまっていましたが。


 私、もしかして妾の妹がいたんですか?

 通りでお金が足りないわけです。

 トビーと両親だけでお金を使い果たすには、さすがに額が大きいですから。

 いえ、娘がいたとしても額が大きすぎますけど……。


 とにかく。

 

 そんな、余所の領地の方々が遠方からここまで来て頑張ってくれているというのに、公爵家はここまで魔道士の部隊を全く出していません。

 ちゃんとした部隊がいるはずです。


 それを、ここまでサンダードラゴンが弱ってから、ようやく出てくるとは……。

 間違いなく先程までは、出てくるのを待っていたのでしょう。


 昔からこういう所は変わりません。

 それが領主にとって必要な能力かどうかは、この際置いておきます。


 ——いえ、置いておきません。

 もし領主として必要だというのなら、それは『タイミングを見誤ってないか』ですから。


「遠方の聖女達よ! 感謝しようじゃないかーっ! この僕が、魔物に止めをさ〜す!」


 実に景気のいい声とともに、妙なポーズを取って杖を構えた。


「次期領主の、ドラゴンスレイヤーの伝説の証人になりたまえ〜! 《ファイアボール》!」


 両方の羽をもがれたドラゴンの顔に、トビーの魔法が当たります。

 公爵家の血を曲がりなりにも引いているので、魔力自体はちゃんとあります。

 命中した火の魔法は、派手にサンダードラゴンの顔を燃やしました。


「僕の! 魔法が止めを刺したぞ! 見たか皆の衆〜!」


『————グオォォッ!!』


「ひえっ」


 その茶番に、サンダードラゴンが首を振って唸り声を上げました。

 ……避けるまでもなかった、というわけですね。

 そりゃそうです、先程まで火の聖女様の上位魔法フレアスターを何度も体で受け止めていましたからね。

 トビーの魔法でダメージを受けると考える方がおかしいですね。


「あれで私の代わりのつもりかあ? なんか、前よりぽんこつになってないかあ?」


「ぶ、無礼な! どこの聖女だ!? ママは僕を天才って呼ぶんだぞ〜! あの愚か者で、生きるのが下手な姉上とは違うんだ!」


「その結果が、これではねえ」


 サンダードラゴン、もうかなりイライラって感じです。

 そりゃそうです、大怪我していて動けなくても、怪我しない攻撃を延々やられたら誰だって腹が立ちます。

 急いで対応するに値しない攻撃だけれど、非常に腹の立つ攻撃。


 つまり、サンダードラゴンにとってトビーの魔法はその程度ということです。

 むしろどうして聖女よりも優秀なつもりでいたのか、その考え方の方が甚だ疑問ですね。


「……アンバー」


 セシル様が、まだトビーが気付いていない様子なので私に小声で話しかけます。


「大丈夫かい?」


「特には問題ありませんが、さすがに『痛い目に遭う』が即死だと困りますね」


「……だよね」


 セシル様が溜息を吐いて、トビーの方へと歩いて行きます。

 盾の近衛さんは、後ろについていってますが、セシル様は「ある程度は問題ないから」と伝えていました。


「な……何だ君は? まさか僕の功績を取ろうだなんてこと——」


「功績と言うのなら、せめて僕達より前に交戦しているべきだと思うんだけど? それに」


 歩いている途中で、サンダードラゴンが近くに来たセシル様に対して腕を振り下ろします。

 それをセシル様は、剣で一閃。腕の関節からも鮮血が溢れ出し、サンダードラゴンが苦痛に大声を上げます。


「うわあああ!」


 トビーは耳を塞いで丸まり、もう襲われたら即死だろうなという姿にまでなって目を逸らしています。

 シルフィ様が「随分と可愛くない子猫だね」なんて冗談を仰るものだから、近くにいたグスタフ様や近衛さんが笑ってしまいました。


「これが次期領主とはね」


「……! な、何だと〜……!」


 恐怖心を反抗心が上回ったところでトビーは顔を上げるも、それでも座り込んだままでした。


「君は自分の姉のことを愚かと言うが、実直で仕事をこなせる人は、必ず誰かが見ている。一方、利益だけ得ようとしても、必ずどこかで見つかる。もしかすると、もう皆気付いているのに、君一人だけ裸の王様なだけかもね」


「な、な、なにを〜っ! 言ったな〜〜!」


 トビーに指導をしたことはあっても、煽ったことはありませんでした。

 激昂したトビーは——あろうことか、セシル様に対して攻撃魔法を放ちました。

 まだサンダードラゴンを倒していないのに、です。思いっきり、部下がいる目の前でやりました。


「うわ、ねえわあ!」


「見ていられないね」


 フレイヤ様とシルフィ様は、一気にトビーの評価を落としました。

 もしかすると、既にかなり低いところにあったかもしれませんが。


 ちなみにセシル様ですが、トビーの炎を片手で払いました。

 もう、バシッと。

 フレイヤ様がその瞬間、それはもう思いっきり『ブフーッ!』と笑いました。

 隣でシルフィ様が顔を伏せて方を震わせ「やめてくれ、面白すぎる」と言っています。


「何もかもが愚かだ」


 セシル様は剣を抜き、トビーに向かって真っ直ぐ向けます。

 もう既にトビーは「ひいい!」と再び蹲る姿になりました。


 ここで、再びサンダードラゴンが唸り声を上げます。

 次に狙ったのは、トビーでした。


「全く、変に目立とうとするから」


 その攻撃は、私が相殺しました。

 もういいでしょう。というか、ここまで気付かれないと逆に面白くなってきました。

 グスタフ様の肩を叩き、近衛兵さんの間から前に出ます。


「相も変わらず、魔法の勉強はしていないようね」


「そ、その声は…………あ、姉上……!」


「久しぶりね、トビー」


 私はトビーの前に姿を現しました。

 セシル様が私の為に問題を解決しようとしてくれましたが、気が変わりました。


 先程セシル様を攻撃した時に、何か私の中でも意識が切り替わった気がします。

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