ウィートランド王国行きの許可を取る
さて、いざウィートランドに行くといっても、簡単ではありません。
当然のことながら海に出なければなりませんし、ここ魔王島改めスロープネイトは、魔物が強いです。
……改めて思うのですが、このレベルの魔物に囲まれながら国が維持できているスロープネイト王国はレベルが高いです。
聖女なしでこれですから、仮に戦争にでもなろうものならウィートランド王国に勝ち目は万に一つもないでしょう。
その上、今のスロープネイト王国には聖女がいますからね。
とはいえ、魔物だけが問題ではありません。
いくらセシル様自身が了承を出したからといって、アーヴァイン様やホリー様が了承をするとは限りません。
そう思っていたのですが。
「そのサンダードラゴンを退治する旅に、セシルを連れていきたいと」
「はい。セシル様も了承いただいているとはいえ、陛下にお伺いを立てなければなりませんから」
「いや、要らん」
私の懸念は、まさかの一言で終わりました。
「セシル、お前はアンバーに付き添うと決めたんだな」
「はい、何があっても」
アーヴァイン陛下は腕を組み、ホリー様の方を見て眉毛と両肩を上げて『やれやれ』とでも言いたげな雰囲気を出しました。
ホリー様は、扇子を出してくすくすと笑っていらっしゃいます。
「菓子作りの時もそうだったが、こいつは一度決めたらテコでも動かん。特にアンバーの用事ともなれば勝手に出て行くだろうな」
既に似たようなことを経験した後だったようです。
とはいえ、第一王子を連れ出すのです。アーヴァイン陛下は私に対し、いくつかの確認をしました。
「時に、アンバー。お前はもしも海の真ん中で船が破壊されたとして、この国に戻る手段はあるか?」
「バリアを張って空を飛ぶことですね。恐らくセシル様のクッキーがあれば可能です。以前も飛びました」
「マジかよ。じゃあ北の大陸からこっちまで飛んでくることは」
「魔物と争うよりは簡単だと思います。クッキーの枚数次第ですが、人数制限もありません」
「マジかよ……」
アーヴァイン陛下は呆れ気味に頭を掻き、「うっし」と小さく声を出して手を叩きました。
「問題ない、行ってくるといい」
「ありがとうございます」
「ただし、護衛は何人か連れて行け。俺のとこで暇してる近衛三名に、グスタフと……あと、セバスも」
「分かりました」
「あと」
アーヴァイン陛下はセシル様の隣に視線を向けました。
「ラナは残ってくれ。さすがに城の守りを開けすぎるわけにはいかん」
「えー? 私も観光したかったなー。といっても、そりゃそーよね。元々セシルもアンバーもいなかった状態に戻るだけだし、帰って来るまでは頑張ってあげる」
「うむ、頼んだぞ」
ラナ様は留守に残ることになったようです。
残念そうにしてはいましたが、さすがに国王陛下の願いを反故にすることはないようです。
……でも、話を聞いて少しだけ安心しました。
ラナ様、以前に私の両親やラインハルト王子の話を聞いた時、『アンバーの代わりに殴る』とまで仰ってくださいましたからね。
そこまで私の気持ちに同調してくださるラナ様には本当に申し訳ないのですが、さすがに殺されると国際問題です。
特にラナ様の場合、その気がなくても一発殴っただけで相手が生きているか怪しいです。
「さて、そうと決まれば早い内に出よう。サンダードラゴンは夜のうちに『竜の平原』に現れ、朝にはもう山から裸眼で見える範囲にいなかった」
「それは大変です。ウィートランド王国からこの島は望遠鏡でギリギリ見えるぐらいなので、裸眼で見えないということは」
「かなり向こうの方まで行っている可能性が高い。というわけで、父上」
「おう、行ってこい」
「ついでに一発かましてやれー!」
「言われなくとも」
あっ、ラナ様がセシル様を思いっきり煽りました
セシル様も殴る気満々ですね。……まあ、セシル様は手加減の出来る方だと思いますから、死ぬことはないでしょう。多分。
何かあったら回復させます。
「改めてアンバーに確認しておくが、サンダードラゴンを倒す算段はあるんだな?」
「分かりませんが、以前戦ったブラックスライムと大差ないのなら余裕だと思います。以前も棒立ちで無傷でしたし」
「……ホントにお前が敵対的なウィートランド王国の尖兵じゃなくて良かったと思っているよ、全く」
アーヴァイン陛下は、それだけ言うと足を組んで姿勢を崩しました。
お話は終わりのようです、早速向かいましょう。
謁見の間から出て、すぐ外に待機していたグスタフ様とセバスが合流します。
最初の関門である、国王陛下から第一王子と行動を共にする許可をいただけました。
ここまでは順調です。
「問題は、船をどうするか……ですか」
来た時に使った小型のボートは間違いなく衝突の瞬間に大破したので、同じ手段は使えません。
それにあのボート、あまり大人数が乗れる仕様ではありませんでしたから。
「空を飛ぶという案もあると思うけど」
「近衛兵の皆様も連れて空を飛ぶと、どれ程の消費になるか分かりません。着いた後が戦いの本番となると、出来れば魔力を温存しておきたいです。近衛兵の皆様がホールケーキを抱えて、飛んでいる間も食べさせてくれるのでしたら余裕ですが」
「……近衛達に悪いからやめておこう」
「私もそう思います」
自分で想像してみましたが、鎧姿のエリートがケーキを抱える姿はちょっとメルヘンで面白いです。
ですが、さすがにアーヴァイン様も怒るでしょうね。
「とはいえ、実は案内人がいる。船は手配できると思うよ」
そうセシル様が仰ると同時に、先程の扉から表れたのはホリー様でした。




