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正式にスロープネイトの住人に

 セシル様へのお話だけで十分ではありますが、自分の立場を明確にしておきたいので、正式にスロープネイト王国入りの手続きを行いました。

 まずは何よりアーヴァイン様とホリー様にこの国の人となる旨を話し、いつも一緒にお仕事している顔馴染みの政務官の方にも繋げました。


「ってことは、アンバーちゃんは正式にこの国の人になるってことでいいのね?」


「はい」


「やっったー! 大歓迎!」


 ラナ様は大変喜んでくださり、私を両腕で捕まえてぐるぐる……ちょっと面白いです。ぐるぐる。


「まーセシルと一緒にいるところを見てると、万に一つも出て行く事はないと思っていたけど……それはそれ、これはこれ。公言してくれた事が嬉しい」


 ぐるぐるが終わり、ラナ様はニーッと笑って私のスロープネイト入りを歓迎してくださいました。

 最近、以前に比べてラナ様が年相応というか、明るくなったような気がいたします。

 以前はもっと、大人びて見えるように気を張っていたように思います。


 どちらがいいかと言えば、どちらも良いと思います。

 選べというのなら、今の方が話しやすいですね。


「それにしても、心を決めた理由ってあったの?」


「いろいろ理由はあります。狼男さんにご相談いただいたりとか」


「……狼男? アンバーって時々変な事言うよね。いや時々じゃなかったわね」


 そうなのでしょうか?

 今回は言った通りの内容なのですが。


「最大の理由は、ここにいると甘い物に困らないからではあるのですが」


「そういうところ、アンバーらしくていいと思うわよ!」


「ありがとうございます」


 褒められたのだと思いますので、堂々と御言葉を受け取ります。


「アンバー!」


 ラナ様に続いて、今度はグスタフ様がいらっしゃいました。

 今日はローホイッスルを持っていらっしゃいます。


「珍しいですね、あまり外で持ち出しているのを見ないもので」


「気にしない事にしたんだよ。お前サンの影響かもしれねえ」


「まあ。まるで思い当たりません」


「だろうな!」


 ハハハと笑い、グスタフ様は筋骨隆々としたお姿のまま脇を締め、長い金属の棒に指を当てました。


 ……! 今日の演奏は、かなり軽快で楽しげな曲です。

 以前のようなしっとりした曲もいいですが、今回も素敵です。


「ハハハ、見ないうちにグスタフも大分キャラ変わったんじゃないの?」


「いやあんたほどじゃないよ、普段からそんなに大声出すキャラじゃなかったろ」


「アンバーの影響でね」


「ま、そうだよな」


 初日にお城で私を迎えてくれた二人は、互いに目を合わせて笑い、こちらへと同時に視線を向けます。

 ……ん? 私ですか?


「アンバー以外に誰がいるのよ、これだけ愉快な人なんて」


「そうだぜ、アンバーほど影響の大きいヤツはいねェんだからな?」


 なんと、私は愉快なのですか。

 こちらもまず貰わない評価の筈なので、二人がその認識で合意しているのは驚きです。


「おや、皆様こちらに」


 今度は狼……じゃなかった、セバスがやってきました。

 また珍しいです、セシル様と別行動でお会いする事自体が少ないですから。


「そういえばセバスは執事だから、敬称を付けませんでしたね」


「付けられても却って困りますし、何より私がセシル様に睨まれますよ。……いや、むしろつけていない今の方が睨まれている可能性がある……?」


「つけてもつけなくても睨まれるとは、不思議な悩みですね。セバスは夜も寒くありませんか?」


「ご存じの通り、全く寒くないですよ。……相談があれば乗りますが、暫くは私の相談など不要でしょう」


「相談事は終わりましたが、不要とは独断ですね。私がまだそう思ってないかもしれないと言ったらどうしますか?」


 そう宣言すると、目を丸くしたセバスが一瞬驚きに止まり、次に肩を揺らして笑い出した。


「ククク……それではまるで脅迫ではないですか」


「脅迫ではないです。お願いに圧を乗せているだけです」


「ハハハ! 相も変わらず面白い人だ。分かりました、私はいつでも変わりません。冬はもちろん、夏もね」


 夏場も、あの屋上に……と思いましたが、むしろ屋上の方が涼しい夏の方が良さそうですね。


「そうなのですか。水分補給は大切になさってください。服を脱ぐのにも限界がありますから」


「フフ、心配しなくても、夏の私は普通の人です」


「あら……そういえば普通はそうでしたね。でもそれはそれとして、水分補給は大切にしてくださいね」


「ハハハ……! 確かに仰るとおりだ。もちろん干からびないよう大切にしますよ。それでは、そろそろ行かないと」


「セシル様のお手伝いでしたか。お菓子作りのものを持って行くつもりなら、悪い事をしました。いえ、別にお菓子作りは急がなくていいと言っているわけではないですが……。あ、でも優先順位は下でもいいですね」


「ハハッ、全くその通りです! 今のセシル様にはお菓子作りより重要な業務はありませんからね!」


 この数日で一気に仲良くなった(と私視点では思っている)セバスが、片目を閉じて指を立てます。そうですね、やはりお菓子作りこそがセシル様の最も大切な業務……。

 私と頷き合ったセバスは、グスタフ様とラナ様に「それではこれにて」と告げて去って行きました。


その様子を見ていた二人が、目を合わせています。


「どうかしましたか?」


「いやー、変われば変わるものだなーって……」


「マジでどんな魔法使ったンだ? セバスの大笑いってマジで初めて見たぞ」


 そうなのですか。お話すると大変に話しやすい方だと思ったのですが。

 とはいえ、どんな方でも話してみるまで分からないというものですね。


「あっ、私はこれからセシル様に再び報告に行くところだったのです」


「おう! ならば行ってきな! あんたのお陰で、一番変わったヤツのところによ!」


「スロープネイト民になった記念に、またお出かけしましょ!」


「はい、是非」


 私は二人に礼をし、いつもの部屋へと向かいます。

 二人は『私が変えた』と言いますが……きっと、一番変化しているのは私だと思います。

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