表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/82

森を抜けた先、平原の名前は

ちょっと疲れが出て、二回更新がストップしてしまいました……。

 木々の間を抜けるように、私達は森の中へと入っていきます。

 ふわりと降り立つと、そこには土が思いっきり掘り起こされたクレーターがありました。


「これは凄いですね」


「全くだ」


 私はその地面を眺めながら、周囲を警戒します。

 ふと、魔法で水を生成して、大穴の中央へと少し流し込んでみます。


「……何をしているんだい?」


「穴がどこまで続いているのかとおもっていたのですが、どうやら見えている範囲の浅い部分だけです」


「そうか、ブラックスライムが逃げていたら穴が深くまで続くのか」


 セシル様の返答に頷きます。

 水に感覚を連動させて探ってみましたが、下は穴ではなくて土というしみ込み方でした。

 三連続ブラックスライムということはなさそうです。


「どの辺りに皆さんがいらっしゃるでしょうか」


「分からないけど、決して楽観できる様子ではないね」


 森の穴から、足跡らしきものが更に北へと続いています。

 その先にあるのは。


「嫌な予感がする」


「防御魔法を使います」


 私はポケットから一枚クッキーを取り出すと、セシル様の手を握りバリアを補強しました。

 元々の壁が更に厚くなったため、余程の相手でもない限りは危険がくることはありません。


「ところでセシル様は、こちらには頻繁に来られるのですか?」


「半年ぐらい前以降は来ていない。こちらを専門とするのはラナだから」


「なるほど、そうだったのですね」


 私は後ろから襲ってくる魔物をいくつか撃ち落としながら歩きます。

 聞いておいて私も以前歩いた時以来なのですが、本当に魔物だらけの森です。


「そろそろ、足跡らしきものが浜辺に出ます」


「ということは、考えたくはないけどこの足跡は」


「答えが見えてきましたね」


 森の木々の間から光が増え始めて、やがて森が終わった時。

 冷たい風とともに、平原が私の視界に現れました。

 目の前に現れた光景を見て、ぼんやりと思います。


 ——それにしても『死の森』の次にあるのが『竜の平原』とはどういう冗談なのでしょうね。


 視界の先にいたのは、目的の魔物だけではありませんでした。


「混戦状態だ……!」


 地を這うタイプの、羽のない竜。

 頭に角があり、体長は象二頭分ほどでしょうか。

 とてもこれをトカゲに分類する気は起きません。


 そんな魔物が十体程いて、約三十人の隊をバックステップしながら囲むように動いています。


「全員、囲まれないように! 危なくなったら森を背に——って、セシル!?」


「私もいます」


「アンバー!」


 ラナ様が話をしている最中に、こちらに気付きました。

 セシル様の影に隠れていたので、後ろから主張します。


「アンバー、僕は加勢に」


「待ってください」


 私はセシル様の肩を掴みます。そのまま片方の手でクッキーを一つ食べて、魔力に変換し——それをそのまま一気にセシル様の中へ。


「これは……!」


「強化魔法です。言ったではないですか、優勝者の力は『二人で一つ』と」


「……! そう、そうだね! ありがとう、行ってくる!」


「お気を付けて」


 セシル様が私に微笑むと、キリッとした表情になって視界から消えました。

 ああいう鋭い表情も、魅力的です。


 先程からドラゴンの背を次々と乗り換えながら切りつけていた、曲芸師が如く見事な戦い方をしていたラナ様は、セシル様と交代でこちらにやって来ました。


「アンバー、助かるけど一体どうして?」


「実は、誰にも見つからない二人きりになれるお出かけ先を私が考えた結果、その岩壁の頂上にしたのです。それで土が派手に森から吹き上がったのが見えまして」


「うわああデート中じゃないのほんっとーにごめん! 私達で処理しないといけなかったところなのに」


「デート……本当だ、デートですね」


「今なの!?」


 ラナ様の言葉で、私がかなり大胆なデートの仕方をしていたことにも気付きました。

 あまりにセシル様がお優しく気易い方だから気付きませんでしたが、他国の第一王子に対する振り回し方じゃないような……?


「いや、あの奥手兄ならどんどん振り回しちゃってくれていいわよ!」


「ご家族のお墨付きをいただけました。と、それよりも怪我人などはいらっしゃいませんか」


「っ、それなのよ……! こっち!」


 ラナ様が指し示した方に一緒に向かうと、木の後ろ側、草が伸びている場所で横たわっている方がいました。


「森まで入り込んでいた小型のランドドラゴンが、隊員の腕咥えて北まで走ったから追うのに必死で」


「分かりました。回復処置は」


「さすがにこれじゃ……」


 隊員の方は、腕から先がありませんでした。

 簡易な回復魔法では治らないものです。


「いえ、よく生きていて下さいました。この程度なら余裕です」


「え」


 私はポケットからクッキーを取り出すと、口に入れます。

 一つ食べれば、十分なだけの力が湧き出ます。

 すぐに隊員の方——グスタフ様と打ち合いをなさっていた若い方——の体が、大きく光ります。


 思えばラインハルト王子は、怪我人が多くても私に蜂蜜を出し渋ることがありました。

 満足に回復できたのは最初の一回だけ。

 幾度か、骨折以上のことは回復できずに私が気を失ったこともあります。

 その時は、聖女の私を気遣って兵士の方が自ら回復魔法を辞退なさいました……あの時の名も知らぬ兵士には、本当に悪いことをしました。


 罪滅ぼしになるかは分かりませんが、甘いものに制限のない今は、遠慮なく回復魔法を使います。

 今度は誰も見捨てないように。


「……俺……これ、指も……」


 兵士の方の、鎧がなくなった部分の白い腕が動き、続いて指が一つ一つ動きます。


「奇跡……聖女の奇跡だわ!」


「ありがとうございます……!」


「元々、聖女はこれだけの力を発揮できるのです。お礼はむしろ、一度たりともお菓子作りに手を抜かなかったセシル様へ。……それに」


 私はクッキーをもう一つ食べて……平原の方に目を向けます。

 回復魔法が派手に光りすぎたのでしょう。ドラゴンが一体、こちらに向かって突進してきました。


 それを——勢い良く魔法で吹き飛ばします。


 私の魔法を喰らったドラゴンは、見上げるほど空高く吹き飛び、たっぷり十秒後に地面に叩き付けられました。


「あ、アンバー?」


「ラナ様。私は感情が薄いのを自覚しているのです。ですがそれでも、今思うことはあります」


 ゆっくりと、倒れ伏したドラゴンに歩いていきます。

 他のドラゴンもこちらを振り向きましたが、関係ありません。


「私は、折角セシル様のお時間をいただいて、今日こそはと思って心の準備をしていたのに邪魔されたのです。つまり——」


 ——私は多分、怒っているのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ