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陛下と王妃の話、アンバーになかったもの

 街でスライムの襲撃があった翌日。

 私は改めて、国王陛下にお会いさせていただきました。


 以前と同じ、威厳たっぷりのお姿で謁見の部屋に呼ばれました。

 ホリー様が手を振っていらっしゃいますので、軽く礼をしてご挨拶します。

 セシル様とラナ様も一段下の席でいらっしゃいますね。

 謁見というには小さなお部屋ですので、こう言っては何ですが、思ったよりアットホームな雰囲気です。


「先日の報告を聞かせてもらった。良い活躍をしたとのことで、国王として感謝を示したい」


「いえ、私としては住ませてもらっているだけで十分な報酬だと思っていますから」


 再びドレスを摘まみ、カーテシーを取ります。

 ドレスも久しぶりですね。たまに着るといいものです。


「謙虚だな。聖女というのも、その性格から来ているのか?」


「別に、遠慮してはいないのです。本当に簡単だっただけで」


「成る程な、こいつは頼もしい」


 金髪の国王陛下は、口角を上げて足を組んだ。

 ここからは、気易い話ということでしょうか。


「聞けばホリーとは随分と仲良くしたそうじゃないか。楽しめたか?」


「はい、それはもう。ラナ様が街のお店に大変お詳しいので、私も色んな物が見られて新鮮でした。ホリー様もお選びになるものが素晴らしくて」


「そうか、そりゃ良かった」


 陛下は腕を組んで、貫禄のある姿で頷きます。

 こうして見ると、セシル様とラナ様は両方ともホリー様似ですね。

 国王陛下はどちらかというと雰囲気だけならグスタフ様に似ていらっしゃいます。


「とはいえ、何の礼もないというのは気が引ける。何でも褒美を言ってみな」


 褒美、褒美ですか。


 うーん、何というか……お金がなければ手に入らない、みたいなものが特別あるわけではないのですよね。

 給金が良いというのもありますし、そもそも欲しい便利道具も、欲しいタイプの服も、思ったより安いのです。

 むしろお金が余って困るので、ナタリーに管理を任せてしまいました。ちなみに何か必要になった場合は、報告さえしてくれれば自由に使っていいと伝えています。


 セシル様の方に目を向けます。

 目が合って、にっこり微笑まれました。

 ……ふわふわ。


 一番欲しいものは、それこそお菓子という人間なので。

 つまりそれは、現在何一つ不自由していないのです。

 セシル様のお菓子のバリエーション自体が多いですし、更に別のタイプとなると城内一詳しいセシル様が外のスイーツを紹介して下さいます。


 欲しい物、欲しい物……物?


「物じゃなくてもいいですか?」


「ああ、構わんぞ」


「国王陛下のお話を聞いてみたいです」


 私の回答が意外だったのか、国王陛下が目を丸く開きました。

 ホリー様が、おかしそうにくすくす笑ってらっしゃいます。あ、ラナ様と、次いでセシル様も笑い出しました。

 笑い方そっくりです、セシル様と。ラナ様は次第に、豪快に笑い出しました。


「お、お前らなあ……」


「いいじゃないですか、聖女アンバーの願いですよ? 自分で仰ったんですから、聞き届ける義務がありますよね」


「やれやれ、参ったな」


 国王陛下は、王冠を脱ぐと椅子の背もたれ突起部に引っ掛けて、マントも外してしまいました。

 肘をかけて頭を乗せ、足を組みます。かなりリラックスした雰囲気になりました。


「何から話す? 言えることは何でも話すぜ」


「ホリー様のこと、馴れ初めなどお聞きしても?」


「……やっぱりお前、謙虚ってのナシな。豪胆すぎてわかんねえ」


 豪胆そうな陛下にそう言われてしまいました。

 今のは珍しい質問だったのでしょうか。

 でも、聞いてみたいのです。なかなか王族の結婚というのは聞いたことありませんから。


「まあいいけどよ。……ホリーはセントスパンっつー南西の海の領地のお嬢様でな。勤め先が王国の北部討伐隊の魔道士で、若くして副隊長になったヤツなんだ」


 やはり、ホリー様は相当な手練れだったのですね。

 話を聞き、ブラックスライムの反応を察するに、魔法だけならラナ様以上なのかもしれません。


「それで、部隊再編の際に、副隊長に就任したホリーを見てな」


「はい」


「一目惚れだ」


「はい。……はい?」


 思わず聞き返してしまいました。


「だから一目惚れだよ。若い頃のホリーは、今と同じ雰囲気でほわほわしてるんだが、それで他の兵士を四人ぐらい同時に杖で転がしてた。多分当時の隊長より強かったな」


 あっ、思った以上にホリー様お強かったです。

 隣で話を聞きながら、「あらあら〜」と仰っています。


「ホリー様がそんなにお強いなんて、人は見かけによらな——」


「いやお前が言うなよ」


 途中で思いっきり言い返されてしまいました。

 そうですかね? そうかもしれません。


「ま、そんなホリーがよ。北部に行ってモンスターの間引きと魔石の回収をしに行っていたわけだ。ところがその日は、夜になっても全然帰らねえ。さすがに不安にもなるってもんだ」


「……」


「それで、明け方に帰ってきたら……ホリーが随分と服が破れた状態で帰ってきた。『痛み分け』っつってたけど、その死者ナシの討伐で随分と周りの兵士を庇って戦ったと言っててな」


 なんと……そんなことがあったのですね。

 ホリー様も、危機に陥るとは。


「この女はこのままだと味方を庇って死ぬ。そう思ったら、何が何でも出したくなくなった。で、その日のうちに見合いとか政略とか全部ブン投げて呼び出したってわけだ」


「呼び出して、何をなさったのですか?」


「その先はさすがに言えないな」


「『もし相手がいないのなら、今すぐ俺を選んでくれ。俺はお前以外を選ぶつもりはない』って言われたわ〜! 情熱的だったわね!」


「おまっ、言うなよ!」


「私も婚約ゼロ日で即オッケーしちゃった! 実は私も王子狙いだったから、すぐに私から押し倒したの!」


「言うなよー! 何なんだよもう!」


 ホリー様、お茶目に話を差し込んでバラします。

 こういう所、可愛らしいですね。

 あとこのやり取りだけでも、二人の仲の良さが分かります。


 一目惚れ。

 愛の言葉。

 婚約なし。

 相思相愛。


 ——何より、全ての切っ掛けである笑顔。


 どれも、私にないものです。


 無理もありません。話を聞くだけで、ホリー様がどれだけ可愛らしい方だったのかというのは分かります。

 今でも魅力的なのですから、若い頃を想像したら当然のことですね。


 自分が一目惚れというものを受けるような人間ではないことぐらい、私自身が分かっています。 

 これは、お二方のお話。

 今はただ二人の内面を覗き見させていただき、幸せそうな雰囲気を引き出せたことを、今回の報酬といたしましょう。


「……もうこの辺でいいだろ? つか別に報酬じゃなくても話してやるっつうの」


「お話をお聞かせいただき、ありがとうございました。あっ、最後にもう一つ」


「何だ?」


「国王陛下のお名前を伺っていませんでした」


「順序ォ! アーヴァイン・スロープネイトだ! もういいな!? 打ち切りだ!」


 そう勢い良くお話しになる陛下に、周りの人は終始笑いっぱなしでした。

 あっ、ホリー様の笑い方の勢いが上がっています。

 さすが親子ですね、ラナ様とそっくりになりました。

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