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アンバーとブラックスライムの戦い

 そう言った瞬間――ブラックスライムが一回り膨らんだような気がしました。

 表面がイボ状になったと思いきや、その全てが鋭くなり……針が一斉に飛び出してきました!


 ――ギギギガキィン!


「この攻撃が基本のようですね。お強いです」


 以前も感じましたが、魔力の減りが早いです。

 防御魔法を維持している以上、減る度に体内の魔力から補充しているのですが、それこそ巨人に殴られたかのような衝撃があります。


 次に黒い針がぶつかった瞬間、バチッ! と音を立てて電流が走りました。

 自らの体に魔法を付与して攻撃しています。当たったらひとたまりもないでしょう。

 服は焼け焦げ、木は燃え上がり、人によっては即死でしょうね。


 本当に、強い。驚異的なスライムです。

 でもですね。

 以前の時点で倒せていたのです。


「正直、あなたを哀れに思う気持ちもあります。以前の私なら、まだ勝算もあったでしょうに」


 以前は、ラインハルト王子から最後に渡された、市販品の蜂蜜の残りでした。

 しかもクラーケン討伐後だったため、魔力量も少なかったです。


 でも、今の私には。


「これがあります」


 剣技大会では、セシル様は自分一人で戦っていらしたのに、わざわざ私の名前を連名で書いてくださいました。

 私がいたから勝てたのだと。


 ならば、今回もそうです。

 私のコートのポケットから出てきたのは、小さく可愛らしい袋。

 セシル様が、今朝笑いながら渡してくれた新作です。


 攻撃を連射するブラックスライム。普通の人なら一撃で全部持って行かれそうな防御魔力。

 私は、相手をじっと見ながら、全く対応する気がないようにクッキーを一枚食べます。


 サクサクサクサク……。


 ……これは、なんと、柔らかくも濃いチーズが挟んであります。

 そのチーズを挟むクッキーは、間違えようはずもない、蜂蜜の味です。

 蜂蜜青チーズクッキーです。今日も目新しく新鮮で、心が躍るような美味しさです。


「今の私はですね、セシル様と一緒なんです」


 セシル様が、自分の剣技を二人で一つの力と仰るのなら。

 私の魔法も、二人で一つの力です。


 食べている間も相手は攻撃してきていますが、無視無視。

 私は今、美味しいクッキーを食べるという一番重要な作業に忙しいのです。

 構って差し上げる暇はありません。


 食べ終わって、相手に見せつけるように両腕を軽く広げました。


「はい、今の一枚で完全回復しました」


 私の言葉に、ブラックスライムは衝撃を受けたように攻撃の手を止めました。

 本当に言っていることが分かっているみたいですね。


「セシル様は私に、このクッキーを十枚ほどポケットに入れて下さいました。もう一つのポケットには、紅茶クッキー。下のポケットにはシュガービスケットがあります」


 私は、今度は一歩ずつブラックスライムに近づいていきます。

 ブラックスライム、攻撃再開。ですが今更ですね。


「お城には、更に十倍の量を用意してくれているのです。あなたの魔力は、どれぐらい持つのでしょうか? とても興味があります」


 そこで一歩、ブラックスライムが下がりました。

 ……少し脅しすぎた気がします。


 私が左手を挙げると同時に、ブラックスライムの針攻撃が街全体に……飛ぶ前に、内側の球体にぶつかって消滅しました。

 間違いない。他の対象を守らせて私の集中力を削ぐ作戦でしょう。

 なかなか嫌らしいことをします。本当に無駄に賢い魔物ですね……。


「ラナ様。ご覧の通り、これが私の『相手を囲むバリア』です。通常のバリアと違い、敵側を囲むように生成します」


「……ほんとに言った通りなんだ」


「なにぶん嘘が苦手ですので」


 というわけで、次はその範囲を少しずつ狭めていきます。

 ブラックスライムも、自分がこれからどうなるかが分かるようになったようです。理解が早い。

 急に今までの動きは何だったのかというほど、自らの体を高速で変形させて壁に体当たりします。


「以前の個体より、強いようです。あの体当たりは城の壁でもヒビが入るかも知れません」


「そんなに……何度か挑んで逃げられたけど、まだブラックスライムの強さの半分ほどしか知ることが出来ていなかったみたい」


 ラナ様はそう仰いますが、正直この魔物にそこまで踏み込めた時点で相当だと思います。

 確かに強い。強いですが、対策方法は既にあるのです。


「寒い冬なら、この魔法はもっと使いやすくなります」


 私が宣言して魔法を使うと、なんとバリアの中にいるスライムは火の魔法を使い始めました。

 個体差が大きいですね、まさかここまで対策手段を変えてくるとは。


「となると、私とあなたで魔法の威力を比べることになりますか。いいでしょう」


 それから十度ほど、スライムが炎を出し、それを私が一瞬で消すという攻防がありました。

 時間にしてものの数秒ですが、これでは埒があきませんね。


「でも、問題ありません。私は一人ではありませんから」


 隣のポケットから、紅茶のクッキーを出します。


 サクサクサクサク……。


 食べた瞬間、体に再び力が満ちます。

 お菓子の種類が豊富であることも、力に影響する気がします。


「では、駄目押しに」


 ポケットからビスケットを取り出し、口に入れます。

 折角です、もう全部食べてしまいましょう。


 食べながらスライムを見ると、スライムの表面に一気に霜が降りました。

 火も、既に吹雪の山に投げ込まれたろうそくのように、一瞬で消えます。

 それを最後に、暴れ回っていた核は完全に止まりました。


「私とセシル様が組み合わさると、相手が火を使えてもこれぐらいの力の差になるのですね」


 それから私は、動かなくなったブラックスライムを上空に浮かべ、光線魔法で一気に貫きました。

 決着です。


 粉々になった核と、黒い氷の塊は、町の中央広場に落ちて砕けました。

 復活がないことを見届けると、ラナ様とホリー様に向き直りました。


「ほら、セシル様凄いでしょう」


「いやいやいやいや」


 ラナ様は、最初と同じ反応でした。

 あれ、おかしいですね……完全に説得が出来た計算だったのですが。


「あらあらまあまあ、ここまで言い切れるなんて、お熱いわねぇ〜……」


「いえ、ホリー様。冬なので寒いです」


 ホリー様に至っては更に変なことを仰いました。

 不思議です。

 何が不思議かって、その不思議なコメントにラナ様が頷いたことです。


 釈然としないですが、とりあえず一騒動去りました。


「さて、一通りお店も見て回ったところでしたし、ご提案があるのですが」


「何かしら」


「クッキーがなくなったので、また補充に戻りたいです。食べたばかりですが、もう食べたくなってしまいまして」


 私の要望に、ラナ様とホリー様は顔を見合わせて……大笑いしました。

 今のは面白いところだったのでしょうか? ちょっと分かりません。

 ですが、二人とも嬉しそうなので何よりです。


 それではお城に戻りましょうか。

 あと街を覆うバリアも、もう一度張っておきましょう。


 ……張ったらまた甘い物を食べたくなりました。

 今日は何を作っていらっしゃるでしょうか、楽しみです。

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― 新着の感想 ―
危険物相手のはずがほわほわ。 ほわほわのはずなんだけどラスボスムーブ。 ラスボスぽいのに、なんか11月も半ばなのにあっちーなー!? 作品の位内の温度差上下が激しくて、金属疲労起こしそうw
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