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グスタフの妹ロザリンドと

 窓からの空を見上げると、空を灰色の雲が空を覆っております。

 冬が本格的に到来し、肌寒い季節がやって参りました。

 ここのところ晴れとも雨ともつかない天気が多いですね。


 最近はすっかり、何気ない日常みたいな時間が長くなりまして。

 その日はいつものように、セシル様の新作スイーツの時間でサロンを使わせていただいておりました。

 元々他の領主の方とご一緒するための部屋であったため、時々お客様ともお会いしておりました。

 領主といっても、貴族というよりそれぞれの専門のお仕事をしている主の方です。

 その家のご夫人や、年の近いご令嬢の方ともご挨拶しました。


 不思議なことに、どのお方も私との会話をかなり楽しんでおいででした。

 一度その件を質問したのですが、セシル様は言いにくそうに『事前に皆に説明していた』という話をなさっていました。

 そのことについて、許可が必要だったと謝られましたが……私の為を思って説明なさっていることは、有り難いと思うことこそあれど、迷惑とは思いません。

 自分で説明するよりも第一王子であるセシル様が話す方が説得力があるでしょうし、客観的ですからね。


 本日のお客様は、なんとグスタフ様の妹様でいらっしゃいました。


「兄からお話を聞いております、妹のロザリンドと申します」


「ロザリンド様。寒い中ようこそお越し下さいました」


 ロザリンド様は、私と近い背丈で、赤いロングのウェーブヘアをしたお方でした。

 当然のことながら戦士のような体格ではありませんが、少し勝ち気な顔をしていらっしゃるのは、グスタフ様に似ていらっしゃいますね。


「お教えいただきたいのですが、グスタフ様は私をどのように?」


「変なこと言ったら怒られちゃいそう、って思うぐらいにはべた褒めしてますわ」


「まあ……グスタフ様は私から見ても、とても真面目で丁寧な方ですから。褒めていただけても、気を遣っていないことが分かって嬉しいです」


 本当に、光栄な限りです。

 あの方が粗野なようでとても生真面目な方であるのは、その楽器の音色で分かりますから。

 凄く丁寧でミスがなく、聞けば反復練習を重ねたのが分かる音をしていらっしゃいます。


「あの兄上を真面目と仰ってくださるのですね。その……ああいう人ですから、いい加減だとよく誤解されてしまうのです」


「分かります。人の内面というものは……もちろん顔つきや口調などの外面にも表れるものですが、それでもやはりその人の能力や細かい部分に、内面の本質が表れるように思います」


 剣技においても、決して妥協しない方です。

 魔法はお得意ではないようですが、それを僻むような言葉を聞いたことはございません。


 そういった話に同意を求めると、ロザリンド様はくすくすとおかしそうに笑いました。


「……どうなさいましたか?」


「いえ、今まさに『人の内面は外面だけでは分からないな』と思ったところです」


「?」


 私がどういうことか分からず首を傾げると、再びロザリンド様はおかしそうにお笑いになりました。

 不思議です。


 ですが……悪くない気分です。


 ウィートランド王国では、一度二度はサロンで集まることもありましたが、私が話をしても何というか、相手方の令嬢同士が目を合わせて、困ったように苦笑していたりしました。

 あれはきっと、あの人たちが悪いわけではないのです。

 公爵令嬢にして王子の婚約者である私に、失礼が出来ないけれどどういう態度で接すれば良いか分からなかったからです。


 そう考えると、ロザリンド様はあの頃から特に変化のない、表情の成長が見受けられない私とも楽しく会話していただいていることになります。

 それは……少し、気になります。


「ロザリンド様。もしも差し支えなければでいいのですが、聞きたいことがございます。もし回答が難しそうならお断りいただいても構いません」


「ええ、構いませんわ。何でも仰って」


「ロザリンド様は、私の勘違いでなければ、普通に会話を楽しんでいらっしゃるようです」


「ええ、とても楽しいですわ」


「ですが以前の国では、私との会話を楽しんでいた方は、誰一人いらっしゃいませんでした。表面上取り繕う会話もできないほどです。その違いは何なのでしょうか?」


 私の質問は、少し曖昧だったかもしれません。

 それでも、どうしても気になるのです。


 ロザリンド様は私の質問を聞き……黙ってしまわれました。

 腕を組んで唸り、右斜め上を見て唸り、左下を見て再び唸り、目を閉じて首を傾げて唸ります。


「あ、あの、難しいようでしたら——」


 私が声をかけようとしたところで、ロザリンド様はくわっと目を見開かれました。


「いや全然話しやすいけど?」


「え?」


「むしろ向こうの国の女が会話ヘッッッタクソなだけでは? すげェ話しやすいんだけど? マジ? 聞き下手すぎンか?」


 ロザリンド様は、そう仰いました。

 ……何か、しゃべり方が。


「——あっ! ご、ごめんあそばせ……ホホホ」


 慌てて身を引いて、ポケットに入れていた扇子で口元を隠しました。

 ……もしかして。


「ロザリンド様、元々は」


「………………あああぁぁぁ〜〜、お母様に言われてたのに、やらかしたぁ……」


 顔を真っ赤にして、顔を仰ぎながら気まずそうな表情をなさいました。

 そのお姿に……思わず私は、口元を手で押さえました。


「お兄様と、似てらっしゃいます?」


「まあ、はい、そうです。あの兄とは普段はこんな感じでして」


 想像してみると、何とも微笑ましいです。

 グスタフ様によると妹のロザリンド様の趣味は読書のようですが、そんな彼女もグスタフ様と同じような口調で兄妹の会話をするのですね。


「もしよろしければ、私にも今のように気易い形で話しかけていただけませんか?」


「えっ、でも」


「特に同性でも、なかなか気易く話しかけてくださる方がいないのです。ここに来てからのラナ様が初めてでしょうか」


「以前の国では? それに、家族も」


「同性の友人は一人もいませんでしたし、家族とは年に数回会うぐらいです。母との会話も、遊び歩いていた弟に苦言を呈する度に怒鳴られた記憶が三年続いたのが最後です」


 ロザリンド様、私の事情をお聞きになって、扇子で顔をお隠しになりました。

 ……何事でしょうか。


 少し時間が過ぎてから、扇子をぱちりと閉じて、その先端を私に突き付けました。


「っし、分かった! アンバー様の友人として、兄と同じぐらいの距離感で接してみるわ!」


「まあ」


 ロザリンド様は、それまでの印象とは全く違った雰囲気になり、楽しげに話しかけてくださいました。

 何と光栄なことでしょうか。


「嬉しいです、是非仲良くしてくださいませ」


「こっちこそ! つかアンバー様も砕けていっすよ?」


「んー……標準的に話して、こういう話し方しか出来ないのです。一番砕けて気楽に話していて、こんな感じですね」


「ま、そういうことならいいよ。しっかし意味わかンねえな元婚約者。はー、みんな女を見る目がねえなァ」


「ですが、グスタフ様は私のことを良く見てくださいました」


「してなかったら全力ビンタしてるっての」


 そんな元気のいいロザリンド様との楽しい会話が、ご両親と陛下の会談が終わるまで続きました。

 ロザリンド様の砕けた喋りに、目と口を丸くしたお母様のお顔が大変なことになっていた件は、私の中だけの秘密にしておきます。

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― 新着の感想 ―
確かに何故ウィートランド王国ではアンバーは会話が続かなかったのか分かりませんね。知識は豊富だし分かりやすく話すし話し出せば表情はともかく感情豊かだし。相手側がラインハルトや家族が広めていた悪評と実像が…
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