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ウィートランド王国4

 ウィートランド王国、国王。

 政務を行い、外交も一手に担うこの聡明な国王は、最近一つの悩みを抱えていた。

 この人物唯一の欠点、『親バカ』であった。


 その国王であるが、最近は特に政務が忙しくなっており、ラインハルトと会っていなかった。


「第二の聖女を迎え入れる相談があってから、あまり会わないな……」


 ウィートランド国王は、近くにいた政務官に対して話を持ちかけた。


「そうなのですか? 自分達は、よく聖女様と一緒にいらっしゃるのをお見かけしますが」


「そうなのか。新たな聖女との仲が良いのは悪くないのだが……」


 国王は、どうにも話が見えないことと、妙にラインハルトに避けられている気がしていることが重なり、積極的に動けずにいた。

 もしも大変なことになっているのならば、


 ——それが、事態を悪化させていることに気付くこともなく。




 今日は初めての、ティタニアの聖女としての遠征参加であった。

 本来はもっと早い段階で動くべきだったのだが、主にティタニアに溜まりに溜まった書類関係の処理が、そうできなかった理由にある。


 というのも、最初に引き受けたアンバーの仕事を捌いているうちに、次の仕事が舞い込んでくるのだ。

 その仕事も、具体的に自分はどれが出来てどれが出来ないのかを分類しなければ、仕事自体をこなすことができなかった。

 全部を止めたら、王国がガタガタに傾きかねない。国の要である王城にそんなことが起これば、自分の地元も影響が出ないはずがないのだ。

 それだけは何としても避けなければならなかった。


 お陰様で、初遠征の予定はまるまる一ヶ月ほど延びていた。

 一方その原因の一端である王子はというと。


「ようやくこの日が来た! 今日はティタニアの魔法を、子爵家の領地に見せるチャンスだ! 圧倒的な魔法で、この俺の評価も上がるってものだな!」


 実に脳天気に、うまくいくことだけを全力で信じていた。


(魔物に襲われているというのに、呑気なもんやなー……)


 そんな王子の堂々とした振る舞いに、ティタニアは呆れていた。

 魔物は、男爵領でも当然出てくる。

 自分達の領地はそれなりに広いが王都からは遠く、国の境目で軍地のような辺境伯領でもない。

 言わば国の農地部分であり、その一環として自然が多かったため花の聖女が活躍できていた部分が大きい。


 花に囲まれ、全力の魔力で近づく全ての魔物が嫌がるほどの浄化魔法を、土地全体に被せていた。

 そんな魔法を使えるティタニアでさえ、やはり魔物は怖い。

 一度近づいた際には、その大きさに震えたものだ。鍛えた兵士が命を落としたという話も十分に分かる。


「それでも魔物は恐ろしいものですわ」


「大丈夫! 以前もこの俺が活躍し、全ての現地の兵士を引き連れて圧勝したのだから!」


「まあ。確か以前も、準々決勝の辺りにまで上り詰めたのですよね。代理の騎士ではなく自らの剣で戦う様、格好良いですわ」


「そうだろう、そうだろう!」


 王子の脳天気さは兎も角として、自ら率先して剣を振る様は素直に称賛していた。

 自分達の土地でも、領主自らが剣を持つようなことはあまりない。遠くで魔法を使っていて、かなり尊敬出来る部類に入るぐらいだ。

 土地の管理をするトップがいなくなれば混乱を招くのだから、それ自体は正しい判断ではある。


 王子の武勇は、遠い地にも知れ渡っていた。

 無能の聖女とセットとしてであるが。


(少なくとも、アンバーの頭脳は私と比にならないほど高いのは分かった。多分、無能だと思ってないのは、自分だけ……かなあ)


 目を閉じると、瞼の裏に失望した政務官の顔が浮かんだ。

 あの人達も今回の件で——いいや、きっとずっと前から気付いていたのだろう。

 アンバーは無能でも何でもない、途轍もなく優秀な頭脳を持つ政務官であると。


 ティタニアは視界の先に見張り塔が見えてきたのに気づき、今更考えても仕方の無いことを頭の隅に追いやった。

 今は子爵領だ。




 子爵からの歓迎を受け、現状報告を受ける。

 どうやら小型の魔物が現れ、建物などの壁を夜のうちに叩いたり、この地の特産でもある馬を入れている建物を襲われたりしているらしい。


「一頭、怪我をしましてな……ここでは王国にも馬を納めておりますゆえ、もしあの巨大厩舎が全滅しようものなら、各地の騎馬兵にも悪影響が出るやもしれませぬ」


 思った以上に重要な役目を担った子爵領であり、ここに王子自ら出向く決定をした理由を知った。

 自分の領地もなくてはならない大切な食料庫の自負はあったが、食事だけでは運営できない。

 ここも十二分に国を支える場所であったのだと、ティタニアは自身を乗せた馬車を引いた立派な馬を見て頷く。


「成る程な、分かった。その悩み、ラインハルトが解決しよう! あと、ティタニアもである」


「おお!」


 一瞬忘れかけたな、とティタニアの下まぶたがぴくりと動くが、気付かれないよう笑顔を繕った。


「それでは王子、まず私が魔物避けの魔法を使いましょう」


「いや、それは後だ」


「後?」


 まさかと思い聞き返したが、王子の返事は変わらなかった。


「まずは俺自ら出て、魔物を倒す! それから魔物避けだ」


 王子はそれまでの活躍があってか、自信満々であった。

 まずは自分が活躍して、その後に聖女が活躍する。

 その方針は、譲らないらしい。


「それではティタニア、強化魔法を!」


「分かりました。では——《ストレングス・セブン》!」


 十分な魔力により、強化魔法が放たれた。

 ティタニアは久々の強化魔法手応えに「よし」と握り拳を作る。

 王子は頷き、剣を持つが……。


「……ティタニア、これは強化魔法がかかった状態か?」


「え? そうです。魔法を使っていない時より、剣は軽いでしょう?」


「そうだが……」


 何やら王子の様子が不穏であるが、周りの騎士の反応は違う。


「凄い、強化魔法の第七段階!」


「見たことないぜ、『花の聖女』の能力が高いって噂は本当だったな!」


「俺の幼馴染みの神官の子、慣れた人でも第二までって言ってたからな……」


「やはり『無糖の聖女』とは段違いだ」


 次々に湧き上がる称賛の声に、王子自身もその強化魔法が良いものであると自分の中で納得していく。


「よし……お前達、行くぞォ!」


「オオーッ!」


 勇ましくラインハルトが出陣し、魔物の現れた西の森へと向かった。




 ——結果。


「うわぁあ! 怪我した! この魔物、強いぞ!」


 それなりに活躍しつつも、かなり悲惨な怪我をして周りの騎士に庇われながら帰ってきた第一王子であった。


 舞い込んできた王子に一瞬呆けつつも、回復魔法を使うティタニア。

 その結果に困惑しつつも、魔物避けの魔法を使って事なきを得たのであった。


「はぁっ、はぁっ……強敵であったが、この俺、第一王子ラインハルトによって危機は去った!」


「おお、ありがとうございます……!」


 一応はちゃんと問題を解決したため、王子と子爵はそんな会話をする。

 会話自体は事実で、仕事内容自体も別に問題はなかった。

 ちゃんと解決できた。


 ただ。


「……なあ、今日のってレッドゴブリンだよな……強かったか?」


「んー、緑のよりは多少。いや、やっぱ知れてるって。前のサーベルウルフの方が絶対強かった」


「だよなあ……」


 後ろにいた王国軍の人達のひそひそ話を聞いていたティタニアは、とても振り返ることができなかった。


(何か、物凄く重大な見落としをしている)


 その見落としに気付くと、一気にとても恐ろしいことになりそうで、それ以上考えようとしても脳が理解を拒んでいた。


 剣術大会まで、あと二週間である。

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― 新着の感想 ―
これはつまり冒頭のラインハルトの言葉を借りるとラナの強化魔法は『八』なんですね。そう考えると他国の最強と強化魔法の段階が一つしか違わないティタニアはかなり優秀なのですが比較対象が悪すぎましたね。
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