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ラナと二人きりでの話

 夕食が終わった後、私は三階のお部屋に向かいました。

 セシル様のお部屋——の正面にあるお部屋です。


 ノックをして、部屋の中から明るい声を聞き、私は部屋に入ります。


「お邪魔します」


「いらっしゃい。アンバーをこうして呼ぶのは初めてね。どう?」


「思ったよりもシンプルで驚きました」


「驚いた顔してなくて笑っちゃいそう」


 部屋の主であるラナ様は、セシル様とよく似た部屋で、ソファーに座っておりました。

 近くにはメイドの方がいらっしゃって、テーブルの上にはクッキーがあります。


「セシル様のものですね」


「あら、分かるの?」


「焼き色が綺麗なのと、まだ暖かさを感じます。種類も、店売りのものとはまた違う雰囲気があります」


「流石だわ。アンバーと個人的に話をしたいって言ったら、持たせてくれた」


 わざわざ私とのお話のために、いろいろと準備してくださったようです。

 本当にラナ様は良い方ですね。


 メイドの方がポットから紅茶を注ぎ、ティーコージーを被せます。

 肌寒くなってきたので、紅茶が冷めないように保温するアイテムです。


「それじゃ、また後で」


「かしこまりました」


 一通りのことをすると、なんとメイドの方はお部屋を出てしまわれました。

 これで私とラナ様は二人きりです。


「あ、緊張しなくていいわよ。変な話をしようってんじゃないし、これはあくまで確認だから」


 ラナ様はそう仰いますが、少し緊張しております。

 あの時、お部屋に呼んだ際に見た顔は、真剣でした。

 何か私に対して、大事な話があるのだと思うのです。


「まずは紅茶でもどう? 冷めちゃ悪いし」


「そうですね」


 私は紅茶を手に取り、少し口に入れます。

 これはまた、甘い香りの紅茶ですね。


「何だったかな、果物のフレーバー。香りだけで甘いのよね」


「口に入れると甘くないので不思議な感じです」


 私はクッキーを手に取り、いただきます。

 これは……また違ったスパイスが入っていますね。新鮮です。


 サクサクサクサク……。


「……」


 興味深い味です。もう一枚。

 サクサクサクサク……。


「……」


 サクサクサクサク……?


 何故か先程から、ラナ様は私の方をじっと見ております。

 というか、私ばかり食べております。


「折角ですので、ラナ様もどうぞ」


「私は一枚食べたからいいわ。あまり甘い物は食べないのよ」


 そういえば、この国では女性が自分の体型のことを考えて、過剰に甘い物を食べることは控えているのでした。

 自制心が凄いですね。私はもう、目の前にあるだけで我慢が出来ません。


「甘い物自体は好きなんだけど、その後の体型や筋肉のつき方を考えるとね。みんな別に食べてないわけじゃないのよ? ただ、渡して大丈夫な相手に対してセシルが作る量が多すぎるだけ」


「事情はお聞きしました。有り難くいただいております」


「太らないってのはいいわねー、あんまり言いふらすと恨み買っちゃうかもね」


 確かに。なるべく公言しないようにしないと。


 食後のお菓子として、少しお腹も落ち着いてきたので、ラナ様のお部屋を改めて見回します。

 お部屋は本当にシンプルです。執務用のテーブル、天蓋もない大きめのベッド、後は来客用のソファーとテーブルぐらいです。

 所々、筋力トレーニング用の道具があるぐらいですね。


「部屋は片付けちゃったの」


「片付けた、ですか?」


「そう。思い出の中にあればいいかなってもの以外は、全部なし。本も一つあるけど、城の図書室にあるものを持ってきてるだけで、個人的なものはないわ」


 そう考えると、この部屋はラナ様の戦士としてのストイックさが見て取れます。


「ところで、今日は何かご用件があって呼んだのではないのですか?」


「そうよ。……ねえ、アンバー」


 ラナ様は、紅茶を飲み干し、私に顔を近づけます。


「セシルのこと、どう思う?」


「私にとって、一番の方ですね」


「おっ!」


「最高のお菓子職人さんです」


「おっ、おお〜……?」


 ラナ様は一瞬ぐっと身を乗り出したのですが、ゆるゆると首を傾げながら滑降していきました。


「あの、何か問題が?」


「い、いやー、アンバーちゃんは相変わらず可愛いなーとか思っただけだよ」


「はあ……恐縮です」


 可愛がっていただけるのはいいのですが、多分今のは何か外したのでしょう。

 感情の期待値を捉えるのは難しいですう。


「それじゃ、この私は?」


「とてもお強いですし、何よりこうして私に良くしてくださる方で、嬉しいです。長女だったもので、姉が出来たようで」


「まあ!」


 今度は正解だったのか、嬉しそうに手を叩いて跳び上がりました。

 とはいえ、これは狙ってではなく本心です。

 セシル様やラナ様といると、誰かの世話をしてきた自分をすっかり忘れられるというか。


 ウィートランド王国では、ラナ様のようなお知り合いは一人もいらっしゃいませんでしたし。

 敢えて言うなら、時々お会いになった火の聖女や水の聖女が近いでしょうか。

 近い悩みを共有できる方達でした。

 もしかすると、花の聖女も……いえ、もう考えても仕方のないことですね。


「それじゃ、最後の質問」


「はい」


 次はどなたでしょうか。

 グスタフ様か、陛下か、別の方か——。


「私とセシルが並んで歩いていた時、アンバーはどう思った?」


 ——。


「うわっ、光った」


「すみません、先程回復魔法を使いました」


「あ、急に光ったのってそれだったんだ」


 その問いに頷き、胸を押さえます。

 不思議です……なぜかちくりと胸に針が刺さった感じがするのです。

 後は、喉が閉まるような感じとか、何か……上に持ち上がるような感覚といいますか……。


 この病気がよくわからず、うまく表現できません。


「もしかして、ラナ様はこの病気に心当たりがあるのでしょうか?」


「あるっちゃあるけど……これ、言っていいかなー?」


「出来れば、お教えいただけると」


 ラナ様は、腕を組んで「うーん……」と唸り、ひとつ頷きました。


「じゃ、最後の質問をもう一つ追加するわ」


 一体どんな質問が来るのか、想像も出来ませんが……それでもラナ様は、私のことをよく理解してくださっています。

 答えを示していただけるのなら、こんなに有り難いことはありません。


 ラナ様は、真剣な顔で私を見ます。

 じっと顔を近づけて……。


「それじゃ、まず言ってなかった情報。私とセシルは双生児よ」


「ソーセージ?」


「天然! 肉詰めじゃないわよ? 双子。つまり同じ日に産まれた兄弟みたいなもの。一応、私が妹」


 ——妹。


「えっ、それじゃあラナ様は第一王女だったのですか?」


「おー驚いてる驚いてる。表情いつも通りだけどはっきりと驚いてるって分かるアンバーが見られて貴重だー」


「あ、あのっ」


「はいはい、そうよ。私とセシルは家族なの。どこかで気付くと思ったんだけど」


 そういえば、他人にしてはよく似ていらっしゃいましたね。

 あまりに性格が違いすぎて、すっかりその確率を頭から除外しておりました。


 つまり、王女が国で一番強いのですか。

 なんというか、ウィートランド王国育ちでは想像することが困難ですね……。


「それじゃ、質問。胸の痛み、なくなった?」


「え」


 その未知の痛みが、今の情報で……。

 …………。


 …………?


「なくなっております」


「私とセシルが一緒に歩いていても?」


 想像してみます。

 …………。


「はい、一切ありません。治りました」


「なるほどね、いい情報を知れたわ」


 ラナ様はそう仰って、笑いながら紅茶の追加を自分で注ぎます。

 あっ、王女様に注がせてしまいました。


「いいっていいってお客さん! 第一私ってあんまり王女ってガラじゃないでしょ?」


「確かに王女だとは全く分かりませんでした」


「正直!」


 一体何が影響したのか分かりませんが、私の謎の病気は解消されました。

 ラナ様は、本当に頼りになる方です。

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