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街で出会ったセシルとラナ

 街中で、真っ先にやってきたラナ様と、少し困惑気味なセシル様。


「すみません、お二人の邪魔をするようなことをして」


「別にいいのよ、私達にとってアンバーよりも優先するようなことってないんだもの」


 そんなことを仰いますが、第一王子のセシル様より優先されるようなことがこの国にあるとは思えません。


「それよりも、アンバーは今日どうしたの?」


「街を見たいと思いまして、外を歩いておりました」


「……護衛も付けずに?」


「さすがに私も、この僅かな間でこの街がかなり平和なことは分かりました。一応防御魔法自体は張っていますし」


 平和であることと、危険がないことは繋がります。

 ですが、何事にも例外はあるもの。全てのスロープネイト王国民がそうとは限りません。


「おおー、見た目は変わらないのに魔法を常に張ってるとは。さすがね」


「恐縮です」


 今度はラナ様に代わって、セシル様が私へ質問します。


「ところで、アンバーはお金を持っているのかい?」


「いえ、全く。美術館に寄っただけなので」


「なるほど、あそこなら十分楽しめるね」


 本当に、いい経験でした。

 絵というのも新鮮でいいですね。自分に才があるとは思えませんが、興味は少しあります。


「それにお仕事をしているわけではありませんから、お金はいただけません」


「仕事をしていないわけではないんだけど……むしろ今の今までお金を渡し忘れていたなと思って」


 不思議なことを仰います。

 今の私、初日以降は完全にお城の外にも出ずに悠々自適に過ごしているお客様ですのに。


「アンバーは気付いていないかもしれないけど、アンバーは現在、お城の中における待機要員なんだよ」


「その……連日クッキーを食べているだけですが……後、料理中のセシル様を見たりとか」


「じゃあその時に魔物が現れたら?」


「その時というか、一応裏口を含めて城全体に防御魔法は張り続けてますけど」


 私の答えに、お二人が顔を合わせます。


「今、お城に防御魔法を張っていると聞いたけど」


「はい。とはいえドラゴンの体当たりまで防ぐ保証はありませんが、先日のグリフォンぐらいのサイズなら数度は防げるものを、夜も常に」


「……眠っている時は?」


「寝ている間も発動するように組んでいます。だから、そこまで耐えられる魔法ではないのですが……」


 もっと強い魔法を開発できたら良かったのですが、何分寝ている時にも発動する魔法の前例がないので、維持をさせるのに手間取ってしまいました。


「一応、魔物の襲撃があった時点で起きるようにはしています」


 私の説明に、ラナ様が苦笑しながら腕を組みます。


「……アンバー、それが所謂『待機要員』の一番重要な役割なのよ」


「待機要員、ですか?」


「そ。例えば門番って、一日中同じ所にいるだけだし、戦うことも特に少ないわ。でもね、あの人達は国の中でも特に強い人を選んでいるの。まず不審者を中に入れないことが一番重要だから」


 それは確かに分かります。入ったら、どこにでも行けますからね。

 誰が不審者かなんて、全員が全員を把握していないと分からないですし、誰かのお客様かもしれませんし。


 ……そう考えて一番最初に思い浮かぶ不審者の顔は、まさに自分でしたね……。


「とはいえ、グリフォンは玄関口からおじゃましますと入ってくるわけじゃない。以前も来たことがあったけど、あの時は屋上に降り立って、そこでやり合ったのよ。どうしても空から来られたら厄介よね」


 確かに、そこまで警戒に気を回すのは難しいです。

 何と言っても滅多に襲撃が来るわけではないですし。


「そういった緊急時の連絡や、上空の防衛網は一番の懸念だったんだけど、まさかアンバーが既に守っているなんてね。ただ居るだけで最高の護衛だったのに……本当にあなたって、どれだけ素敵なのかしら!」


「わっ……恐縮です、ありがとうございます」


 ラナ様が、笑顔で私を横から抱きしめて来て一瞬驚きました。

 ……こうして女性の方に好意を持って接していただくことが今までなかったので、不思議な気分です。

 スロープネイト王国に来て、何だか生まれて初めて友人を得たような、長女の私が姉を得たような……そんな感じがします。


 とてもいい方で……。

 ……本当に、いい方、なのですが——。


「ふふっ、ラナはすっかりアンバーがお気に入りだね」


 ——ラナ様を見るセシル様を見ていると、どこかすっきりとした気持ちにならないのは何故でしょうか……。


 一瞬、ラナ様と目が会いました。

 紫の瞳が、じっと私を見ていて——唐突にセシル様の声で、意識を引き戻されました。


「どうしたんだい?」


「ん? 何でもないわ」


 気が付いたら、ラナ様はまた同じような笑顔に戻ってらっしゃいました。


「ところで、お二人は何のご用事で?」


「えっ!? あ、ああー……相談に乗ってもらっていただけで、それはもう解決したんだ。これから帰るところで」


 セシル様はそう仰って、ラナ様に目配せします。

 ラナ様はそんなセシル様から何か意図を受け取ったのか、無言で何度か頷きます。


「一緒に帰るかい?」


「はい、用事も終わりましたので」


 そうして、三人でお城へ戻ることとなりました。

 お忍びと言うほどでもないぐらい、セシル様が街中に現れるのは皆様慣れてらっしゃるみたいですね。

 時々セシル様は声をかけられて、軽く手を振り返していらっしゃいます。


 そんなセシル様が、お店の方と話をしている最中のことです。

 ラナ様が、セシル様の位置を確認しながら私の近くにやってきました。


「アンバー。後でお話、いいかな?」


 今度は、先程とは違い真面目な顔で聞かれました。

 セシル様には聞こえないような小声です。


 断る理由もないため頷きましたが、何の用でしょうか……?

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