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訓練場を訪問

 今日も甘いお菓子を沢山いただきました。

 お礼に何かお仕事をと思ったのですが、『外部の人には見せられないよ』と言われ、断られてしまいました。


 ちょうど本も読み終わったところですし、初日に行った訓練場を散策します。

 草が生えていない地面には、木の板を叩き合わせたような音と、それに伴う気合いを入れた叫び声が聞こえてきました。


「よし、次!」


 兵士達と剣を合わせているのは、グスタフ様です。

 セシル様とも仲がよろしいようで、一緒にお話しなさっているのをよくお見かけします。


「よろしくお願いします! たあァッ!」


 若々しい剣士の方が、上段に構えて思いっきり振り下ろします。

 本物の剣なら魔物を一刀両断出来そうな木剣を、グスタフ様は一歩踏み込むことであっさりと弾いてしまいます。


「うわっ!」


「振り下ろす前を狙われりゃ、ンな不安定な隙だらけの構え、すぐに負けンぞ? 魔物相手ならともかく、剣技試合ならちったァ頭も使いな?」


「ううっ、はい……! ありがとうございます!」


 グスタフ様は筋骨隆々として厳しくも、戦い方が理性的な方ですね。

 初日はあまり会話しませんでしたが、王子から信頼されていることが分かります。


「よし、次……っと、ちょいと休憩だ。んじゃ次は、ボブから」


「ええ、わかりました」


 次の方を止めて、休憩を入れるようです。

 それから……?


「よう、聖女さん。こンなとこに来るとか珍しィな」


「そうかもしれません。お菓子もありませんし」


「確かに言えてンな!」


 私の回答が面白かったのか、グスタフ様は楽しそうにお笑いになります。

 立った状態で近くにいらっしゃると、セシル様を一回り大きくしたような体格でいらっしゃいますね。

 話し方からはベテランの年配に感じますが、顔立ちから恐らく年齢は同じか少し上ぐらいの感じです。


「で、何か用かい?」


「いえ、お仕事のお手伝いをしようと思ったのですが、機密と断られてしまいまして」


「そりゃ断るための理由を後付けしただけだったのかもな。セシルはあんたに、出来る限り楽に過ごしてほしいと思ってンだわ」


 なんと、そうだったのですか?

 でしたら私、完全に接待されていますね。何故?

 まあ、先程も思いっきりセシル様に接待いただいたところですけど……。


「うーん……アンバーは鈍いのか、大物なのか、それともそういうのも含めて薄いンかな……」


「大物ではないと思います。背も低いですし、砂糖入れみたいな小物と思っていただければ」


「そういう意味で小物じゃないンだが。……時々本当に天然だなあんた」


「それ、ラナ様には特に言われます」


 ラナ様は天然可愛いとか、小動物可愛いと言って抱きしめます。

 ぴんときませんが、ここまで好かれたことが今までなかったので、新鮮で嬉しいですね。


「そうだ、剣術大会のようなものというか、先程何か仰いましたよね」


「おう、剣技試合のことか? 防具を着けて、ガンガン打ち合うやつだ。これでも城の防衛隊長だから、それなりには結果を出さないといけねえ」


 グスタフ様、隊長さんだったのですね。

 通りでお強いと思いました。先程から強そうな兵士の方々も片手間に倒していらっしゃいましたし。


「グスタフ様が一番お強いのですか?」


「あー……それはだな」


 頭を掻きながら、言いにくそうにグスタフ様は仰いました。


「…………ラナだよ」


「ラナ様、ですか?」


「そう。あんたもよく知ってる、ラナだ。強えンだわ、全然勝てる気がしねえ」


 確かに……以前の戦いを思い出すと、ラナ様の強さは飛び抜けていたように思います。

 ご自身一人でも、魔物を退治できていたのではないかと思うほど。


「剣技試合、セシル様はお出になられるのですか?」


「セシルは出ないだろ、ラナが出るし」


 またラナ様です。

 セシル様にとって、やはりラナ様は特別な存在なのですね。


 ——何か、やはり変な感覚を覚えます。


「どうした?」


「え?」


「いや、アンバーが珍しく不満そうな……不満? いや、わかンね。表情は変わっていなかったと思ったんだが、雰囲気がな」


「私の雰囲気が、不満そうだった?」


 どういうことでしょうか。感情の機微が何かグスタフ様には見えたのでしょうか。

 確かに今、私は何か普段とは違う感覚に包まれました。


「……あら、グスタフ様。肘の方を怪我なさっています」


「お? おお……本当だ。まあすぐに治るし、他の兵士も怪我を——」


「では、お菓子も食べた直後ですし、はい」


 私は軽く手をかざします。

 一瞬グスタフ様を光が包み、直後に訓練場の地面全体が光りました。

 これで大丈夫でしょう。


「……お、おおお! 怪我が治っているじゃねーか!」


 自分の肘を見て、手で何度も触りながらグスタフ様が歓声を上げます。

 無事に治ったようですね。


「ついでに皆様の怪我と疲労も治しました。小さな持病の予兆も含めて治しましたので、またご確認ください」


「マジかよ! お礼、皆を代表し——ちゃいけねえ。お前ら! 聖女様の回復魔法だぞ! 礼だ!」


 グスタフ様が大声を上げ、皆様が一斉にやってきました。


「ありがとうございます、聖女様!」

「アンバー様、すげえ!」

「俺の足の痛みも!? 半端ねえよ聖女様、完全に治ってる!」


 わーっと感謝の言葉を述べられます。まるで初年度の聖女活動の時のよう。

 ここまでの感謝の気持ちが一斉にやってきますと、圧されつつもさすがに照れますね。

 照れると言っておいて完全に能面の私に、私自身呆れてしまいますが。


「どういたしまして。これぐらいでしたら片手間にいつでも出来ますよ」


「すげえよあんたマジで……セシルじゃねえけど惚れそうだよ」


「セシル様も、私の魔法には惚れ込んでいらっしゃると聞きました。光栄な限りです」


「そうなんだけどそうじゃねえ! はー、こいつの養殖感なしの天然っぷりには、あの王子サマも苦戦しそうだなァ……」


 グスタフ様が何やら仰いますが、自分ではよく分かりません。

 とりあえず、皆様満足そうで良かったです。


「それでは私はこれで。また暇がありましたら話相手になってください」


「いつでも歓迎するぜ! 治療、ありがとうな!」


「そんなに感謝いただかなくても、セシル様にいただいたお菓子の、数十分の一にも満たない魔力消費です。それが『蜜の聖女』ですから。お礼でしたら、セシル様にどうぞ」


「…………マジで何をどう判断したら、この聖女を追い出すンだろうなァ?」


 聞き取れない独り言を呟くと、グスタフ様は再び練習に戻りました。

 皆様も、来た時より張り切っているようです。


 それにしても、ふと気になったのですが。


 ——何故ラナ様が出場すると、セシル様が出ないのでしょうか?

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