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アンバーは街を見て、国の方針を知る

 セシル様が二名の若い魔道士をお供に連れて外に出ます。門にはゲオルグ様もいらっしゃって、門番の方々とともにいらっしゃいました。


「城の守りは任せていい?」


「おうよ、上も下も帰るまで閉じておく。……そいつ、連れて行くンだな?」


「彼女のやりたいこと、らしいから」


「……そうか。男らしく守ってやれよ!」


「そういうの今はもう流行らないよ、って言いたいところだけど、守るのは必ず」


「おう」


 二人はそう言葉を交わすと、セシル様は走り始めます。

 私も小さく無言で礼をし、後を追いました。


 街の皆が避難を始めて……いるようで、結構な数の魔道士らしき方が出てきていらっしゃいます。

 思えば、城の外に出たのはこれが初めてですね。


「あちらの魔道士は、普段から配備している方なのですか?」


「いいや、一般の人にも魔導書を解放しているから、あれは平民の魔法使いだよ」


 驚きました、貴族が魔法を独占していないのですね。

 反乱……などといった私の発想も、きっと一通り考慮しての結果なのでしょう。

 結果的にですが、明確にウィートランド王国よりも軍事力は上でしょうね。

 一般人が魔道士の国と争えるとはとても思えません。


「自己責任というほどでなくても、自助できるようにしたいと思ってね。だけどそれはそれとして、王国は税をもらっている分最大限の努力をする。そんな感じかな」


「なるほど……良いと思います」


 この国は、全てを貴族に頼らずに最後は自分で自分を守ると決めたのですね。

 そんな一般の方々ですが、どうやら防御魔法を上に張っているようです。


「《バリアウォール》! すみません、こちらお願いできますか!」


「こっちも追加お願いします!」


 露店や、お店のガラス窓に一斉に防御魔法を張っています。

 それぞれが自分の店を守りつつも、防御魔法の得意な人同士で助け合っているようですね。

 情報交換もしていらっしゃいます。


「ラナ様はどっちに? 来る方警戒しておきたい」


「東の方だったぜ。俺はもう扉閉めておくから」


 街の方々の会話から、ラナ様の場所が分かりました。

 南向きのお城から出たので、左の道をセシル様達と曲がります。


 石壁の反対側、大きな石山を背にしたお城の南側にお城が広がっています。

 その城と街の境目にあたる部分の両端に、山の方へと登って行ける坂道がありました。


「それにしても、山を越える魔物もいるのですね」


「あそこはかなり激しい崖なんだけど、それでも空を飛べる魔物からしたらどうにかなる範疇だからね。後は、虫タイプも時々出る。大抵は壁の途中で他の魔物に襲われてるけど」


 なるほど、魔物同士の戦いもあると。

 そう考えると、今回みたいに壁を超えてくる事態は稀なのでしょう。


 走っている途中で、目が赤く光る紫色のトカゲが表れました。


「これは参ったね」


 セシル様と一緒に走っていた魔道士の方々が、「《ファイアアロー》!」と叫んでトカゲを燃やします。

 剣を抜いたセシル様も、他にもいた魔物を次々と流麗な剣術で切り伏せておりました。

 強いです。少なくとも強化魔法を使っていないラインハルト王子とは比べものに……いえ、強化魔法を使った状態よりも強いかもしれません。


 それにしても、トカゲの魔物とは。


「確か、グリフォンと聞いていたのですが……」


「イビルグリフォンだよ。以前も来たから予想はしていたけど、やっぱり魔物を召喚するタイプの魔物だった」


 何ですかそれは、まるで魔王みたいではないですか……いえ、そういえばここは魔王島でしたね。

 その辺にいて運が悪ければ越境してくる魔物がそのレベルと考えると、ウィートランドでつけられた『魔王島』という名称もあながち間違いではないのかもと思います。


「セシル王子、ところでこの女性は……?」


 と、ここで壮年の魔道士さんがセシル王子に質問します。もう一人の若い方も、疑問を浮かべた目で私を見ております。

 確かに私は、彼等にとって変な人物ですね。


「この人は、アンバー。ラナも認めた魔道士だ。助っ人として来て貰っている」


「ラナ様が……!」


 魔道士の方々は、その一言で私を驚きの目で見るようになります。ラナ様が認めたという基準は、彼らにとって信頼度が非常に高いようです。

 確かに第一王子とも仲が良いようですし、ラナ様は何か特別な存在なのでしょう。

 二人はとても仲がよろしく、いい雰囲気でしたから。


 ちくり。


 ……えっ?

 今のは、何でしょうか?


 セシル様を見るも、今度は別に変な顔をしていません。

 私は一体何に対して、言葉に言い表せない感情を感じたのでしょうか。


 感情を露わにすることが出来ず、感情を自分で分析することも出来ません。

 私は、まだ私自身のことに関して分からないことだらけなのです。


「そういえば、ラナ様は魔物を討伐する代表の方なのですか?」


「えっ、うーん……そうとも言えるし、そうではないとも言えるような……」


 何とも難しいお立場のようです。

 ただ、明確にセシル様にとって特別な方だということは分かります。

 ラナ様自身が、第一王子であるセシル様にとても明るく軽く接していらっしゃいますから。


 自分の言い表せない感情は分かりません。

 ただ、ラナ様の感情表現はとても豊かで……その表情の数々が、かつて婚約者を奪った聖女よりも羨ましく感じる自分に、私自身が何故そう感じているのか分かりませんでした。


「——見えた!」


 セシル様の声にはっとして、不要な考えを頭から振り払います。

 今気をつけるべきことはただ一つ、ラナ様が魔物と闘っているということです。


 あの人は街を守る為に闘っている、それはまるで聖女のようではないですか。

 ならば私も、同じ立場の者として助けなければなりません。


 スロープネイト王城を左の眼下に見下ろせる、石山の頂上付近。

 魔物の本隊が目の前に近づいてきました。

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