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事後承諾の謁見

 ふとセシル様は手を叩き、「そうだ」と何か思い出したようです。


「父上に話さないと」


「えっセシルは話して無かったの?」


「なにぶん急に部屋に現れたからね。一応アポなしでも大丈夫だと思うし、何だったら既に気付いていてもおかしくないと思う」


「あー、あの親父なら有り得るわ」


 どうやら、私のお部屋はセシル様の独断でお決めになったようです。

 ……かなりいい部屋だったのですが、いいのでしょうか?


「あっ、部屋に関してアンバーは気にしなくていいからね。……ラナも分かっていると思うけど、アンバーがいることはメリットしかない」


「それは同意、手放すとか選択肢にないし。足りなくなったら私からも出す。こっちも手が欲しいぐらいだから」


「その辺りも調整するよ」


 セシル様はラナ様と何やら確認を追えると、セバス様にも連絡をしてから私の方を向きました。


「それじゃ、行こうか」


「えっと、わかりました」


 セシル様は穴の空いた鉄板に「後で怒られないといいな」と苦笑しながら、廊下を進み始めました。


 折角ですので、この時間に聞きたいことを質問してみます。


「ここは、丘の上にあるお城なのですね。どういう国なのですか?」


「ん? ああ、ここは『スロープネイト王国』という縦長い島国だよ。北の端には魔物が大量発生する場所が——ってそっちは先にアンバーが見たんだったね。本来は南側、そちらから見て北側端のここが王城なんだ」


 なるほど、やはりここはちゃんとした王国だったのですね。

 かなり大きな場所だと思っていたので、さすがにこのレベルの城がそこら中にあるわけでなないと聞いて安心しました。

 建物も余計な装飾もありませんし、飾りも少ないです。

 強い魔物もいる島ですし、実用性を重視した国なのかもしれません。


「とは言っても、お城の中は簡素になるように設計していてね。美術品などは市井の人達が自由に見られるようになっていて、そこはこの城より大きいよ」


 あっ全然違いました。

 というか王族が美術品を独占せず、市民に開放している?

 何というか……文化レベルが全く違って、考え方を理解するのに時間が必要です。


「王族が美術品を独占したりしないんですか?」


「ということは、そっちの国は王族が持ってたんだね。スロープネイトでは、沢山の人に見てもらった方が次世代の芸術家が生まれやすいって考えてる。才能とか努力とか以上に、その芸術と相性を持った人に出会うための『母数』が重要だから」


 説明されて、納得がいきました。

 確かに誰が芸術家になるかというのは分かりません。

 それに、芸術肌の人がどんな絵を好むかだって、出会わなければ何も分からないのです。


「それに、警備の観点からいっても高価な芸術品が王城に集中しているというのは、逆に悪意ある者が狙ってくるリスクがある。だからそういうものは、極力離れていた方がいいという考え方もあるんだ」


 聞けば聞くほど、論理的で実用重視な考え方です。

 富を集中するための貴族、というのとは違うのですね。

 無地の赤い絨毯を踏みながら、無地ながら数が多く明るい階段を上っていきます。


 ……そんな話をしていて、思ったことなのですが。


 こういう話をしてくださるだけあって、この方の知識や考えは高い水準にあると分かります。

 そんなセシル様なのですが……先程から出会うメイドや執事、政務官の方々から礼をされているのです。

 必ず、セシル様とすれ違う時は礼をします。


「あの、質問をもう一つ。セシル様は——」


「すまない、着いたよ」


 いつの間にか、二階の大扉の前にいました。

 扉の両隣にいた兵士達は、セシル様に礼をして扉を開きます。

 それが当然であるように——それと、私の存在を気にしながら——兵士達は再び整列します。

 堂々と入って行くセシル様を追って、私も大きな部屋へと足を踏み入れました。




 中はほどほどに大きな空間で、中央に金髪で若々しくも筋肉質で、強そうな男性がいらっしゃいました。

 隣の女性は、セシル様やラナ様と似ていらっしゃいます。


 ……もしかして?


「父上、急にお呼び出しして申し訳ないです」


「部屋でもいいと思ったんだが、わざわざお前が謁見の間に用意をお願いするなんて珍しいからな」


「まずは父上と母上に、アンバーを紹介したくて。独断でこのお城に住まわせることに決めた、事後承諾です」



 ああ……やっぱり、そういうことでした。


 間違いありません。

 セシル様、このスロープネイト王国の王子です。


 私はセシルの隣に立ち、カーテシーを取ります。


「初めまして、アンバー・ソノックスと申します。先ずは急な来訪への謝罪を。セシル様には随分と良くしていただき、住まわせていただけることとなりました」


 国王陛下は、私の顔をじーっと覗き込む。


「どっかの孤児……ってわけじゃなさそうだな。貴族の礼儀が出来ているし、雰囲気もそれじゃない」


「父上。アンバーはですね——」


 ——そこからセシル様は、私の説明をした。

 話した内容を、一つ一つこちらに『話していいか?』と確認しながら。

 会ってからずっと思っていることなのですが、本当に気が回るというか、丁寧な男性でいらっしゃいますね。

 ……私の人生では、出会ったことのないタイプです。


 国王陛下が一通りの説明を聞いた後。


「いろいろ言いたいことがありすぎるんだが……とりあえず何点か質問させてくれ」


「はい」


「アンバー殿は、ウィートランド王国に未練はないのか?」


「全くありません」


「元婚約者のラインハルト・ウィートランド第一王子に対しても?」


「十年近くいて、いい思い出が一つもなくて」


「この国の印象は?」


「今のところ、驚きも多いですが、大変いい印象です」


 陛下は「ふむ」とひとつ唸る。

 そうして、隣の王妃様にひとつ頷いてアイコンタクトを取りました。

 他の質問を促したのでしょう。にっこり笑った綺麗な王妃様は、こんな質問をしました。


「アンバーさん。セシルの対応はどうだった? 印象が聞きたいわ」


「セシル様は、本当に大変よくしていただいて——こんなに可愛げのない私にも丁寧に接してくださるので、大変にお優しい方なのだと思います。誇張なしで、人生で一番の博愛精神の持ち主です」


「っ……アンバー」


 やはり、時々セシル様は辛そうなお顔をします。

 あっ、もしかして今の言葉が嫌味の一つになりそうだと思ったのでしょうか。

 しまった、迂闊でした。気をつけないといけませんね。


 何故か分かりませんが、王妃様は私とセシル様を見て口に手を当てて笑っていました。

 陛下は少し驚いているようです。


「それじゃあ最後の質問。私達とも仲良くしてくれる?」


「えっと、それはその、勿論こちらこそ良くしていただけるのでしたら——」


「なら良いわね」


 そうして、この国の主からも正式に居住許可が出たのでした。


 何はともあれ、サバイバル生活の危険は去りました。

 今日は枕を高くして眠れそうです。

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