第95話 厄介ごとは連鎖する
体育館を出た後、俺たちは、南館三階の教室に戻った。各々疲れ切った顔をしている。学校の方は蜘蛛の巣こそ残っているが、幸い、子蜘蛛の姿はなかった。あの戦いの中で使い果たしたか、親蜘蛛が死んだことで連鎖的に死んだか。どちらにせよ、これはすぐに拠点作成!とまではいけないな。
「ほ、星谷殿。」
「ん?なんだ佐々木……ってうわっ!?」
「休憩がてらにあ、愛刀の手入れをさせて欲しいでござる……」
刀身が剥き出し状態の刀を大事そうに抱え、オヨオヨと涙を流しながら佐々木が懇願している。
「せ、拙者の愛刀が……こんなにも汚れてオヨヨヨ」
そうとう精神がやられている。普段、冷静沈着。明鏡止水の域に届いてそうな佐々木がここまで追い詰められているのも初めて見る。よっぽど、大事な愛刀なのだろう。
「オヨヨヨ」
「ちょっと休憩入れるか。各々休んでくれて構わない。作業をするならしてもらっていい。」
「「賛成」」
佐々木にOKを出し、俺たちは1時間の休憩を取ることをした。気持ち程度の休憩だが、無いよりかはマシだ。精神の崩壊、正常な判断ができなくなるのは、生死を分つ……と火野先生が言っていたし、この休憩は必要だ。
糖分補給の極甘の飴を口の中で転がしながら、屋上のような屋根の無い渡り廊下の上から、森の中を見渡す。時刻は大体12時頃。そろそろ、他の班も戻って来てもいいような時間だ。姿ぐらい見えてもいいと思うが、期待に反してその姿はまだ見えなかった。
「あいつら大丈夫かねえ……」
「あいつらが心配か……?」
そう独り言をボヤいていると、ガロウがこちらに歩いて来ていた。
「そりゃそうだろ。ここは自然界。待ったとか、降参とか存在しない。食うか食われるかの弱肉強食な世界。ある意味、これが理想郷なんだろうが、それは古い考えだ。昔の思想の持主とか食物連鎖という枠組みの下位層組にとっての理想郷。一度頂点に立ってた人間にとっては、ただのディストピアだ。」
「言いたいことは分かる。バイトで自然界に降りて、その厳しさも痛感した。だから、より一層強くならなきゃなって思える。いつまた、あの十年前の事件が起きるか分からない。その時が仮に来なかったとしても、強くなるのには意味がある……それと」
「それと?」
ガロウの表情が曇る。
「あの殺取とか言った蜘蛛野郎は、メイを誘拐したやつらと同じ匂いがした。」
「マジか!?それじゃあ、あの殺取はEDEN財団の刺客……?」
「その可能性が高いだろうな。だが、あの殺取とかいうやつ、なぜあそこで俺たちを殺さなかったと思う?やつなら、俺たちが作戦会議をしている間も、お前がアンディーたちを呼びに行ってる間でも、簡単に俺たちを殺せる力を持っていた。もったいぶった態度をせずとも、体育館の扉に入ったその瞬間に殺すこともできたはずだ。」
「さあ?だが、EDEN財団の志治矢ノエルとかいうやつと接触した時、俺のことを酷く気に入ってるとか言ってた。やつら、俺たちのことを研究観察してるんじゃないか?だから、殺さずに生かす判断をし、いいように戦闘データを収集して、証拠隠滅とばかりに殺取を自爆させた……とか?」
「研究対象か。やつら、人のことを何だと思ってやがるんだ……俺たちは実験ネズミなんかじゃねえ。今を生きる人のはずだ。」
「そうだな。今を生き、明日に生きる。だから今は、やつらのことを考えるだけ無意味だ。今のサバイバルフォレストのことに集中しようぜ。」
「それもそうだな。」
俺たちが教室に戻ると、石田がタブレットを持って近づいてくる。
「星谷君たち!タブレットにミッションが追加された!」
「本当か!ちょっと見せてくれ。」
石田からタブレットを借りて、画面を見る。そこにはファーストミッション、デイリーミッション、ウィークミッションと書かれた3つの項目が表示されていた。
――――――
ファーストミッション
拠点を建築せよ 0/1 (10P)
デイリーミッション 0/3
クリーチャーを討伐せよ 0/10体 (3P)
食料を調達せよ(肉) 0/10㎏ (3P)
種類の異なるクリーチャーを撮影しろ 0/3枚 (3P)
ウィークミッション
課外学習終了時に自軍の旗を所持せよ (10P)
課外学習終了時に敵軍の旗を所持せよ(1) (20P)
課外学習終了時に敵軍の旗を所持せよ(2) (50P)
補足
ミッション成功の判定を行うには、このタブレット端末で撮影、または各々が所持している写真や映像を端末に送信して行う。
――――――
これがミッションか。電波は使えないと思ってたが、こうやって送られてくるってことは、使えるみたいだな。作戦の幅が広がる……いや、俺達には網玉がいたな。まあ、網玉無しでも指示が遠距離で送れるのはありがたい。
それよりもミッションの内容だ。クリーチャーの討伐は、今から死骸を撮るからいいとして写真だ。殺取が爆散した今を考えると、残り二種類は、食料班と資材班に撮影を任せた方がいいだろうな。食糧班辺りが何を取ってきているのかの確認にもしたい。
「石田、グルラでメール送っといてくれ。あと、このタブレットにも入れておいてくれると助かる。」
「わかった。」
「よっしゃ休憩終わり!拠点作り再開と行こう!まずは寝床を整えるぞ!」
「気合十分だな。」
「言ったろ。今を生き、明日に生きるって。今日が明日を生きるための土台になるんだ。張り切らないわけないだろ?」
他の班へのミッションの通達をした後、修復作業を始めた。キリコを残しておけば色々と助かっていたんじゃないかと、過去の選択に後悔しながらも、女子たちが校内の清掃し、アンディーが木を切り、石田が運搬、土木経験のあるガロウが加工して寝床を整える。
「体育館の器具庫で、マットを見つけたぞ。埃被ってるけど、加熱殺菌、冷却殺菌できるやつがいて助かった。天野、冰鞠、頼めるか?」
「うん。」
「まかせて。」
「サンキューな。」
おお、早速取り掛かってくれて助かる。こういう汎用性の高いZONEには羨ましいとしか言えない。穴の開いたところを修繕して、床を張り替え、作業はサクサクと進み、時刻は15時を回る。男女で分かれた俺たちの寝床予定の南館3階の3-1、3-2教室の修繕が完成し、一段落している頃、スマホから着信があった。
カエル
「クリーチャーと戦闘になってもうた。帰りが少し遅れるで」
星谷
「がんば。あと、食べれそうなら死骸の回収も頼む。」
カエル
「了解」
よかった、食糧班は生きてるな。あとは資材班だけど……
また着信が鳴る。今度はキリエからだった。
キリエ
「キリコちゃんがいい設備を見つけたっぽくて、学校に電気を通せるかもしれない。」
星谷
「おお!マジか!」
キリエ
「制作に時間が掛かるっぽいから、帰るのが夜くらいになりそうなの。」
星谷
「わかった。気を付けるんだぞ。あと、写真も忘れるなよ。」
キリエ
「写真ならさっき取ったわ。」
「あ、まずい。」
星谷
「どうした!?」
キリエ
「戦闘になった。」
星谷
「がんば」
あいつらも大変そうだな
佐々木の愛刀には名前が無い「無銘刀」である。そして、その愛刀は元部範行との鍛錬(互いに真剣を使った死合い)で使っていたもの。
佐々木が「燕返し」を習得できた理由は、火野真理やアンディーと同じく、ある作品(Fate/stay night)の佐々木小次郎に魅入っていたからである。境遇を重ね、自らが彼と同じ存在でありたいと強く願い続け、鍛錬を積み重ね、七区襲撃によるクリーチャーとの死闘を経た結果「燕返し」を習得するに至る。鍛錬の内容に関しては、元部範行による実践訓練。師匠相手に互いに真剣で斬り合うという死の淵を彷徨う危険がある恐ろしいものである。
Fate作品のNOUMINは師匠とか無しに寿命で死ぬまで剣を振り続けてその一生を終える最後の一振りで「燕返し」を習得したけど、こっちの佐々木は、恵まれた環境あっての早期習得だが、死の淵を何回か彷徨ってる。
最近アイディアが湧かない