第94話 子蜘蛛は所詮、子蜘蛛
40、41話にセリフの加筆修正をしました。たぶん、誰が話してるか分かりやすくなったと思います。あとちょっと個性を加えました。
俺は体育館の重い扉を押し開け、外の空気に触れた瞬間、鼻を突く異臭が襲ってきた。腐った果実のような、甘くねばつく匂い。蜘蛛の巣が張り巡らされた校庭のあちこちに、黒い影が蠢いているのが見えた。あいつらだ。殺取の配下の蜘蛛ども。体長は俺の腰ほどもあり、八本の脚を不気味に動かしながら、獲物を狙うように這い回っている。
「ちっ、邪魔だぜ。」
俺は、機械剣を抜き、走りながら一閃。最初の一匹が、鋭い脚を振り上げて飛びかかってきた。だが、遅い。刃がその柔らかい腹を裂き、緑色の体液が飛び散る。背後からもう一匹が忍び寄る気配を感じ、振り返らずに肘打ちを叩き込む。鈍い感触が腕に伝わり、蜘蛛の頭部が砕ける音が響いた。道中はこんな調子だ。蜘蛛の数は十数匹はいたが、単体では大した脅威じゃない。問題は群れで襲ってくる時の連携だ。一匹が囮になって脚を絡め、もう一匹が毒牙を立てようとする。あいつらの動きは、まるで殺取の指揮を直接受けているかのように統制されている。
走りながら、俺は息を整え、状況を整理する。殺取のZONEは、相手の特徴を奪うものじゃないコピーするものだった。それを確信させたのは、蜘蛛の巣に囚われていた冰鞠を見た時だった。
「(蜘蛛の巣の周りが凍り始めてる?)」
最初は錯覚かと思った。蜘蛛の糸は粘つく白い繊維でできていて、触れるだけで皮膚が引きつるような不快感があるのに、その表面が白く霜を被り始め、徐々にカチカチと音を立てて凍結していく。殺取のZONEが奪うものだったら、冰鞠たちは当然ZONEは使えない。だが、コピーするものなら話は別だ。拘束されてるだけでZONEが使えるのなら脱出手段がいくらでもある。時間をかければ冰鞠はあの蜘蛛の巣から脱出できるが、それまでに俺たちの体力が持つかの話だったが……
体育館の中に入る時、四つあるうちの左から三番目までの三つは体育館の中からでも確認できた。だが、一つだけ、体育館の右端、ちょっとした段差の上に設置された扉があった。おそらく繋がっているところは、ステージ裏。そして、ステージに立った時、外に繋がっているであろう右端の扉を俺は見た。あそこからなら、体育館のステージ裏に侵入できる。
来た道を戻ると、アンディーたちが座って待機していた。どうやら、結構早くことが終わったようで談笑していた。
「おお!星谷君、用事が済んだ……という雰囲気じゃないね。」
「話は後だ。お前ら、付いて来い。親蜘蛛討伐に出かける。」
「よしきた!」
そして、アンディーたちを連れて、右端の扉から体育館のステージ裏へと侵入し、蜘蛛の巣を慎重に剥がし、冰鞠を救出し、連鎖的に女子たち全員を解放して今に至る。
「回想終わった?」
「ん、ああ。それじゃあ、こっから反撃開始だぜ。」
「舐めるなよクソガキ共!我がその気になれば、貴様らなどすぐに殺して……」
殺してやろうとでも言おうとしたのだろうが、突如として、殺取の声が途切れる。そして、殺取は自らの頭部を押さえ始めた。
「い、嫌だ……死にたくない……!やっと自由になれたのにどうし……て!どうして!」
まるで死を直前としたような台詞と、歪んだ顔は徐々に青冷め、絶望とした表情へと変わっていく。そして、ゆらゆらと体を揺らして、その場に倒れ込む。
「え?死んだ?」
俺は思わず呟き、殺取の方へと近づこうとする。心臓が早鐘のように鳴り、勝利の予感が胸をよぎった。だが、その時、緩んだ鎖から抜け出したガロウの鼻がピクリと動いた。奴の獣のような嗅覚が、何かを捉えたらしい。ガロウの毛が逆立ち、俺に向かって鋭く吠える。
「このにおい……近くな!こいつ、自爆するつもりだ!」
ガロウの言葉に、俺の背筋が凍った。自爆? そんな手があったのか。殺取の体から、微かな焦げ臭が漂い始める。化学反応のような、危険な匂いだ。ガロウがそう俺へと吠えたと同時に、石田が鋭い声で指示を出す。
「みんな!伏せるんだ!」
石田の声は冷静だが、切迫感がにじんでいる。俺たちは即座に反応し、ステージ裏の壁に身を寄せた。冰鞠が氷の盾を急ごしらえで展開し、アンディーはその場で「え?」と言う。ガロウは俺を押し倒すように覆いかぶさり、石田たちはステージ裏に素早く移動。そして、それとほぼ同時に殺取が、弱々しく呟いた。
「A-Z:bomb。起動。」
殺取の体膨れ上がる。膨張した内臓が、外骨格を押し上げながら、その肉という肉の隙間から赤い血とそれと混ざった緑の体液が流れ出す。
ミシミシと音を立て、焼け焦げたような匂いが溢れ始めると殺取の体から光を放つ。A-Z:bombが起動した。
「「うわー!!!」」
爆発は、体育館全体を揺るがした。轟音が耳を劈き、衝撃波がステージを吹き飛ばす。木片が飛び散り、蜘蛛の残骸が舞い上がる。埃と煙が視界を覆い、咳き込みながら体を起こす。体育館の天井に亀裂が入り、床は焦げ、殺取の残骸は黒い染みとなって広がっていた。
「けほっ、けほっ……みんな無事か……?」
俺は咳をしながら声を絞り出した。体中が痛むが、骨折はしていないようだ。視界がぼやけ、耳鳴りがする中、周囲を見回す。冰鞠は氷の盾が砕け、肩を押さえながら起き上がっていた。彼女の顔は蒼白だが、目には安堵の色が浮かんでいる。
「何とか……氷が衝撃を和らげてくれたわ。」
「拙者も皮肉にも、この氷のおかげで直接爆風は浴びて無いでござる。」
「俺ちゃんは死にましぇん!だって、ゾンビだから!」
バラバラに飛び散ってるお前の四肢と頭部で言われても、信用ならない。いや、信用せざるを得ないか。あいつの体は、すでに再生を始めていて、肉片が蠢きながら元の形に戻ろうとしている。
体育館の空気はまだ重く、爆発の余韻が残る中、俺たちは互いの無事を確認し合った。殺取は倒れた。自爆という最悪の形で。だが、蜘蛛の巣は崩れ、残党も爆風で吹き飛ばされている。これで、この殺取の脅威は終わったのか?いや、まだだ。殺取の最後の言葉が、頭に残っている。
「やっと自由になれたのに」
奴の背後には、何か大きなものが控えている気がしてならいが、今はとにかく休もう。
俺たちは息を整え、体育館の出口へ向かう。まだサバイバルは始まったばかり、こっから七日間か。
班分けで食料班として振り分けられたガマたちは、ひとまず、ぶどう園があった場所へと向かっていた。元がぶどう園なら、ぶどうが野生化して群生してるかもと踏んで向かっていた。
して、その果樹園へと向かう道中、ガマのスマホに着信が入る。それは、土蜘蛛からだった。
クモ
「やあ、元気してるかい?」
カエル
「なんや、生きとったんか。すまへんが、今は学校生活でサバイバル中や。」
クモ
「ああ、生きてるさ。それより、大府東高校の方はすごいことになってるよ。」
カエル
「はあ?どう言うことや!?なんでお前がそんなこと知ってんねん!?」
クモ
「10年前の七区襲撃事件の時に、ある計画の見張り役で「あやとり」っていう子蜘蛛を七区に派遣してたんだけど、支配が一時的に解除されちゃって、そのまま面白そうだから泳がせてたんだけど、その子、廃校の体育館で星谷世一、黒条牙狼たちと戦ってるんだよねー」
カエル
「なんやと?せやけど、問題あらへんな。お前のとこの子蜘蛛の戦闘力なんざ大したことあらへん。星谷たちでも余裕で勝てるやろ。」
クモ
「それがさあ、あやとりちゃんはちょっと特殊な仕入れでさあ。虚淵業の開発してるA-Zの第二被験者なんだよねえ」
カエル
「はあ!?よお、長い時間壊れずに済んどるな。いや、それが原因で支配権が一時的に解除されたんとちゃうか?」
「いや、話がそれた。それで、星谷たちはどないなっとるんや?」
クモ
「えーっと、天野、網玉、東雲、冰鞠、松本ってやつらが既に捕縛されてて……」
「へぇ、特徴やZONEをコピーするのか。面白いA-Zの適応進化をしたねえ。」
カエル
「特徴やZONEをコピーするやと!?今何人生き残っとるんや!?」
クモ
「佐々木ってやつと黒条牙狼、星谷世一が戦ってるね。」
カエル
「ゾンビみたいなやつと、頭が硬そうな岩岩とした男はおらんか?」
クモ
「見た感じはいないな。」
「おや、星谷世一が離脱した?」
カエル
「離脱?」
クモ
「おお、時間稼ぎか。彼もこの状況でそんなことを頼むか。よっぽど二人の戦闘能力を信頼してるっぽいねえ。」
「お?」
「おお?」
「おおお!」
カエル
「何が起きとるんか説明しろや。」
クモ
「質問。彼らに人でなしだとしても、人殺しはして欲しいと思う?」
カエル
「あいつらは、人を狩るために狩高に入っとるんやない。せやから、人殺しはしてほしくはないな」
クモ
「なら、あやとりは自爆させておく。」
カエル
「相変わらず、爆破かいな。ええ趣味しとりはりますなあ。親の顔を見てみたいわ。いや、やっぱ見たくあらへん。きっと、碌なもんやない。」
マジで殺取は、もっと序盤でガロウを捕らえていれば、勝ち筋はあった。まあ、できない理由があったんですけど。
あと、佐々木を仮に捕縛しても、燕返しとか飛翔斬とかは使えないよ。殺取の特徴のコピーは、経験とかまでは引き継げないし、佐々木を捕らえてから燕返しを見なきゃいけない。
小話 武器の嘆き
機械剣「やっぱり、俺ってかっこいいわぁ」
マンティスガントレット「何なのこの武器キモいんですけど」
機械剣「変形機構にご都合合体武器にして、ご主人様の成分(髪の毛)入ってる俺って、どう考えてもさいきょーでしょ」
マンティスガントレット「どうだか、結構雑に使われてるし、思い入れとか無さそう」
機械剣「そっちこそ、「マンティスガントレット」とか言いづらいんだよ。せめてルビ振れよ。横文字だらけはカッコ悪いぞ。蟷螂の電撃籠手とかで名付けてもらえ。」
マンティスガントレット「ご主人様のが入ってるからか、その名づけセンスは認めてあげる。でも、あんたは序盤、主に10話くらいから登場して、改造ばっかりされてる挙句、手入れ描写もないじゃない!知ってる?あんたの刀身、灯油まみれだってこと。正直臭いのよ、あんたとくっ付く時ほんと臭くてたまらないわ。」
機械剣「はあ!?テメェのブレード部分ぶち折ってやろうか?あぁん!?このメスカマキリが!」
マンティスガントレット「言ったわね!いいですよ、感電死させてあげますよ!」
磑亜アーマー・ゼロ「えっーと、二人とも落ち着いてくださいよ。」
機械剣「新人が出しゃばるなよ。お前、結構盛られた設定してる癖に使いづらいんだよ。」
マンティスガントレット「そうよ、ビームライフルの描写はあれど、「アーマー無かったら即死だった!?」みたいな描写なくて存在感無いわよね?アーマーなんて要らないんじゃない?」
磑亜アーマー・ゼロ「僕は弱くていいんですぅ!後に生まれるだろう兄弟たちが、強くなるのでぇ!!マンティスさんみたいな、これ以上拡張性が無くて成長の兆しの無い武器の方が要らないと思いますぅ〜!」
マンティスガントレット「むっきー!!!私をバカにしたわね!いいわよ、ぶち壊してあげるから、あんたもこっちきなさい!」
マンティスガントレットのモチーフはオーズのガタキリバコンボ+サイバーパンク2077のマンティスブレード+アサシンブレードなのでカタカナ名固定です。