第89話 蜘蛛の巣溶かすはフハイの力
雑魚戦は、正直なところ言う事はない。動きは素早いが追えないことはない。雑魚にしては可もなく不可もない戦闘力だ。だが、こいつの真の強さはその圧倒的なまでの蜘蛛の巣張りの早さだった。それと、鎧亜アーマーの試運転を行ったんだが、防御性能に関しては文句なしだったが、問題なのはビームライフルの方だった。
「くらえ!」
トリガーを引き、銃口から蛍光灯のような赤紫色のビームが発射され、蜘蛛の外骨格に被弾すると、その箇所が焼け焦げる程度の威力。試しに建物のコンクリに発射してみたが、表面が若干溶ける程度の威力しかない。それでも160℃くらいの温度は出ているが、実戦で使えるほど強いかと言えば微妙な性能だった。カウザー先生には、フィードバックを送っておこう。
「これ、佐々木たちが突破した後だよな?」
目の前の廊下を覆い尽くす蜘蛛の巣を見ながら、ガロウへと投げかける。
「いや、そもそも、俺たちが初めてここに来た時、ここには蜘蛛の巣はなかった。つまり、この蜘蛛の巣共は、佐々木たちを尾行している蜘蛛共の仕業ってわけだ。」
「ここだけで一体、何匹の蜘蛛が住み着いているんだ?」
石田の言葉に俺はハッとする。
「この学校そのものが、蜘蛛の巣ということか。」
「俺達は、この学校に来た時点から、すでに敵陣のど真ん中にいたということか。」
「ここは自然界。俺たち人間にとってはどこも敵陣だ。サバイバルなんて生優しい言葉で包んであるが、これは戦争だ。」
「それに、こんなにも蜘蛛の統率が取れてるってことは、いるかもしれないな。」
「親蜘蛛か?」
「まあ、そういうことだ。この学校には明らかに蜘蛛型のネオクリーチャーがいる。それを探すためのも、1階に降りよう。佐々木たちも何かしらの道標を残してるはずだ。」
俺たちは1階へと降り、長い渡り廊下を見る。そこにはまるで俺たちが来るのを拒むように、二体の蜘蛛が待ち構えていた。それも見た目がいかにも親衛隊と呼べるような大きめのやつだった。
「お!丁度いいクリーチャーがいるじゃねぇか。この程度の大きさなら俺ちゃん一人でもヤレる。」
アンディーは、チェンソーの電源を入れ、俺たちの前に立つ。
「ちょ、ちょ待てよアンディー!相手は二匹だぞ、いくらお前でも勝算が……」
「お前らは先に行ってろ。とりあえず、そこの二匹をさっさと倒して、お前たちの後を追うことにするぜ。」
「大丈夫なのかアンディー君!?サイコロステーキにされそうなセリフだが大丈夫なのか!?」
「やっぱ無理かも。石田君が手伝ってくれると嬉しい。星谷たちの戦力なら先にいるだろうボス蜘蛛も楽々チンチンだろうし、体力温存のためにもここは俺ちゃんたちが体を差し出さなきゃでしょ。」
「アンディー君の言う通りだ。二人は先に佐々木君たちを追ってくれ!」
「石田、アンディー……」
「星谷、先を急ぐぞ。」
「おう……お前ら、死ぬなよ!」
俺とガロウは、南館へと続く階段へと走る。
「ゾンビとガンロックにそんなこと言ってもねえ?」
「ガンロック?何の話だい?」
「いやいや、こっちの話。さあ、人肌脱いじゃうよーん!!アンディー行きまぁぁす!!!!」
渡り廊下の薄暗い空間に、チェンソーの唸りが響き渡る。アンディーはいつもの軽快なステップで先行し、チェンソーの回転音を響かせながら、アンディーは蜘蛛に突撃する。縦に長いが横に狭い渡り廊下は、蜘蛛の糸が張り巡らされ、まるで罠の回廊だ。アンディーはチェンソーを振り回し、蜘蛛の糸を切り裂きながら叫ぶ。
「ハハッ! 狭い場所で糸遊び? 績きゅんの緊縛プレイで慣れてる俺ちゃんには楽勝だぜ!」
アンディーは蜘蛛の一匹に飛びかかり、チェンソーで外骨格を切りつける。緑色の体液が飛び散り、蜘蛛がキィィと叫ぶ。だが、もう一匹が糸を張る。狭い廊下では蜘蛛の糸が壁から壁へと張られ、回避スペースが限られ、アンディーの動きが徐々に制限されていく。
石田はアンディーの後を追う形で戦闘に加わる。学校の古い構造ゆえ、刻む石の巨人のゴーレム形態は使えない。瓦礫やコンクリートを取り込む余裕がないのだ。しかし、自身の体を岩のように硬化させ、拳のみを巨大化させることは可能だ。石田は両腕を岩の硬さに変え、右拳をバスケットボール大に膨張させて蜘蛛に突進。
「アンディー君、右のやつを押さえる! 左は君に任せる!」
石田の巨大化した拳が蜘蛛の前脚に直撃し、鈍い音と共に外骨格にひびが入る。だが、蜘蛛たちは狡猾だった。一匹がアンディーを牽制し、もう一匹が石田に集中して糸を吐き出す。二匹のコンビネーションは息が合い、糸が縦横無尽に廊下を覆う。
「ちっ、こいつら連携がうぜえ!」
アンディーはチェンソーで糸を切りながらも、狭い空間では思うように動けない。蜘蛛の糸がアンディーの足に絡みつき、動きを封じ始める。績との緊縛プレイで糸には慣れているはずのアンディーだが、蜘蛛の糸の量と速度は桁違いだ。
「こりゃ、績きゅんの比じゃねえな!」
石田もまた、岩のように硬化した体に糸が巻きつき始める。拳の巨大化で攻撃力は高いが、糸への対処は苦手だ。
「くそっ、この糸、粘着力が強すぎる!」
石田が巨大な拳で糸を引きちぎろうとするが、蜘蛛はさらに糸を重ね、まるで繭のように石田を包み込む。狭い廊下では逃げ場がなく、石田の動きがどんどん鈍る。戦えば戦うほど、糸はアンディーと石田の体に絡みつき、チェンソーの回転すらままならなくなる。蜘蛛の一匹がアンディーに一際輝く蜘蛛の糸を巻き付けて引っ張ると、糸はアンディーの体を簡単に切り裂いた。切断力はすさまじく、アンディーの体は一瞬でサイコロステーキのように細切れになる。
「うぎゃあ! 俺ちゃん、ミンチになっちまった!これがフラグ回収!」
血と肉片が飛び散るが、ゾンビの不死性により、切断面が蠢き、即座に再生が始まる。数秒後、アンディーはニヤリと笑いながら復活。
「ハハ、悪いな! 俺ちゃん、こんなんじゃ死なねえよ!」
だが、再生しても糸の拘束は解けない。蜘蛛たちはさらに糸を重ね、アンディーの体をがんじがらめにする。石田も岩の体を覆う糸に動きを封じられ、巨大化した拳を振り上げる力すら失いつつある。
「アンディー君、このままじゃ……!」
石田が叫ぶが、声は苦しげだ。拘束されているアンディーは石田にある提案を持ちかける。
「俺ちゃん、ちょっとマジの奥の手使う。噛まれないようにだけ注意してクレメンス。」
アンディーは、自身を拘束している糸を舌で舐める。紫色の唾液が付着した蜘蛛糸は、ドロドロと腐り始め、次第に拘束が解けていく。
「俺ちゃんは口の中にもう一つ特殊な唾液腺があってさぁ、そこから出た唾液は、みんな腐っちゃうんだよねえ。ガキの頃は本当に苦労したぜ、唾液腺の操作がままならずに食べるものが全部腐っちまって、全部が美味しくなくて、栄養もなくなってやってさあ。」
蜘蛛たちは、自らの糸を腐食させたアンディーに対して警戒をより一層高める。
「ガキの頃のあだ名は腐れ者。それが嫌で親に頼み込んで8年前くらいに日本に来た。その時からこれは使ってなかったが、ようやく活躍できそうだ。」
アンディーの目から黒目が消えて真っ白になり、舌舐めずりをして、口まわりが紫色に染まる。その姿は正しくゾンビだが、正気を保っている。アンディーはフラフラと体をよろめかせながらも、蜘蛛の方へと全速力で飛び掛かる。
「いっただきまーす!!!」
そして、そのまま蜘蛛の腕へと嚙みついた。腕からは体液が噴き出すよりも先にゾンビ唾液が体内へと侵入。そのままゾンビウイルスが蜘蛛の体内を一気に汚染していく。蜘蛛はアンディーを振り解こうともがくも、アンディーは決して放さない。もう一匹の蜘蛛は、その凄まじく悍ましい光景にただただ打ちのめされているのか、その場を動こうとしない。
そして、数分経過した時、アンディーが噛みついた蜘蛛の動きが止まる。それを確認したアンディーは蜘蛛に噛みつくのを止め、そろりそろりと石田の方へと向かい、蜘蛛の巣を舐め、腐食させ溶かす。
「アンディー君、だ、大丈夫かい?」
「俺ちゃんなら平気よ。それよりも、こっからはR-15のグロ描写入るから注意な。」
動きを止めた蜘蛛を心配したもう一匹の蜘蛛は、その側へと近づき、足でつついて生きているか確認する。一回、二回と足でつつき、体を揺さぶれども、蜘蛛は動かない。蜘蛛は相方が死んだと思い込み、体の向きをアンディーたちに向き直し、目を離したその瞬間。
「キィィィ!!!!」
死んだと思っていた蜘蛛が叫びを上げながら、もう片方の蜘蛛へと飛び掛かる。唸るような叫びを上げながら相方蜘蛛は、仲間の外骨格を己がもつ強靭なアゴで噛み砕こうと体を密着させようとするが、片方蜘蛛は抵抗するように糸を出す。
「随分と感染するのに時間がかかっちゃったけど、ああなればもう勝ち確定よ。」
「あれは、共食いしてるのか……」
「うーん、正確に言うなら共食いじゃぁない。俺ちゃんのウイルスに感染してるからもう別種って考えた方がいいかな。あれはもう俺ちゃんのペット、いや兵隊さんかな。」
「つまり、今は安全ということで合ってるのか……?」
「まあ、安全だな。ゾンビ化した方は俺ちゃんの言うこと聞くし、最終的に首チョンパしてもらって、水をかければゾンビ化は消えるけど、念の為にここで待機が1番かな。」
アンディーは幼少期にZONE:ゾンビを発現してから腐れ者としていじめを受けていた。それに耐えかねた彼は、ある作品の人物に自らを重ね合わせた。それが俺ちゃんこと、デップーであった。彼のように底抜けに明るく、下品で、派手好きな目立ちたがり屋になることで自らの精神状態を保つ日々は、彼の両親にアメリカの区から安全な日本の七区への移住を決意させるものだった。
移住後、荒れた精神状態の彼に優しく接した存在が夢原績だったりしたために男の娘に性癖が捻じ曲げられることになる。
そしてアンディーは、ああ見えてちゃんと計画立てつつ死亡フラグをガンガン立ててヘイト管理するタイプ。