第88話 第一先住民発見
龍之介たちを見送った後、俺たちは活動する班を決めた。タブレットにはミッションの追加はまだだったが、ここでの基盤を整えるにはまず分担から始めることとなった。
拠点班 天野、網玉、石田、ガロウ、佐々木、東雲、冰鞠、星谷、松本、アンディー
食料班 泡美、ガマ、早苗、桃太郎、三上、夢原、蓬、恵
資材班 小野田、キリエ、馬場、霧島、キリコ、遊斗、巴
偵察班 戻、龍之介、双葉
拠点班となった俺たちは、校舎の中に入り、寝床となれるところを探す。候補としては教室を二つほど確保して、男女2つに分ける予定だったのだが……
「星谷ー!ここの教室いいんじゃぁないか?」
アンディーの後ろを追って着いた場所は、蜘蛛の巣で覆われた、いや真っ白に染まった教室だった。
「おお!ナイスだアンディー!...…とでも言うと思ったか!ここにも蜘蛛の巣あるじゃねぇか!!!」
この学校、蜘蛛の巣が多すぎる。教室の一室一室に蜘蛛の巣があるという、廃校だからしょうがないというレベルを逸脱した蜘蛛の巣の量。これは、間違いなくクリーチャーが潜んでいる。
「てなわけで。冰鞠先生、お願いします!」
俺は冰鞠さんにバトンを渡し、冰鞠さんが教室の扉の前に立ち、右腕を翳す。
「氷れ。」
その一言で、蜘蛛の巣を教室ごと一瞬にして凍結させる。流石の威力だ。
「疲れた。休んでいい?」
「ああいいぜ、随分とZONEを使わせちゃったしな。」
冰鞠が近くの階段に座り、一息つく。その間に俺、アンディー、石田で凍りついた蜘蛛の巣をぶち壊していく。冰鞠の腕がいいのか、氷がサクサクと撤去できるぐらいには硬くなく、この作業はちょっと癖になる。そんなわけで黙々と作業を続けているとアンディーがふと口を開く。
「ねえねえ、冰鞠ちゅわん、最近丸くなっるんじゃぁないか?」
「アンディー君!女子に対して丸くなったとかは言ってはいけないよ!」
「俺ちゃんは、太ったとかそういう話じゃぁなく、性格の話をしているんだぜ?早とちりはイヤンよ石田君。」
「アンディー君、申し訳ない。」
「それで、丸くなったって?」
「前にも話したと思うけどさ、冰鞠ちゅわんはドSなわけだが、それが今やツンデレキャラにキャラチェンジしている。これは明らかに角が取れて丸くなってるよね?」
「言われてみれば、初対面の氷の女王から一変してツンデレみたいになってるな。」
まあ、何となく想像つく。冰鞠には冰鞠なりの事情があってZONEの効力を強くするため、心を冷たい氷に閉ざして、みんなに冷たい行動を取っていた。でも、クラスで何か一つのことをやり遂げるために、クラスの一員として行動した結果、人と触れ合う環境に自然と身を置くようになって、閉ざしていた氷の扉が、みんなの温かさで溶けているのだろう。
「良い事じゃないか。彼女がクラスの一員として、皆と協力できるまでに心を開いてくれたんだ。三年間共に学んでいる者として、これほど嬉しい事はないよ。」
「石田君、流石はクラス委員長ポジキャラ!三年生になってから役員決めとか、時間の都合でできてないけど風格はそのままだー!」
「それは褒めてるのか??」
「いや、作者が忘れてた事を指摘してるだけ。」
「わかった。とりあえず作業に戻るぞ。」
「へいへい」
そうしているときだった。
「「きゃぁぁぁ!?!?」」
甲高い叫び声が聞こえてきた。
「2階からだ!」
俺たちは作業を止め、急いで階段へと向かう。冰鞠の姿もなく、氷で作られたであろうショートカット用の氷の足場から、ひと足先に現場に向かってくれているようだった。俺たちも急いで1階へと降りていくと、廊下でガロウは何かと鉢合わせていた。
「大丈夫か!?」
「網玉、東雲、松本が蜘蛛に攫われた。それを追いかけようとしたら。バカデカい蜘蛛が湧いてきやがった。」
目線を奥へと向けると、そこにいたのは大型犬ぐらいの大きさの蜘蛛3匹がこちらに睨みを利かせていた。
「他に戦える奴らは?」
「天野、佐々木、冰鞠が先に向かった。それと食料確保と資材集め班もさっき出発しちまったから、これ以上の増援は期待できない。」
「なるほどな……」
後ろの教室からバァン!と扉が倒れ、そこからさらに2体の蜘蛛が飛び出す。
「とりあえずは、こいつら全員ぶっ飛ばすぞ!」
「「おう!」」
「りょうかーい」
蜘蛛共との乱闘が始まった一方、佐々木たちも蜘蛛を倒しながら、蜘蛛が進んだ方へと足を進めていた。しかし、北館1階から南館の2階へと登る階段の踊り場で、立ち往生となっていた。
「これは、少し厄介でござるな。」
佐々木たちの前にあったのは、蜘蛛の巣を何重にも重ねた白い壁だった。
「拙者の刀でうんともすんとも言わぬとは何て強度でござるか。いっそ天野殿の小規模太陽で焼き払ってはどうだろうか……」
「それだとこの学校自体に引火することになる。冰鞠さんは、何とかできそう?」
「この糸の壁がどこまで続いてるかによる。凍らせても厚さがあれば突破は困難……どうする?引き返す?」
「いや、拙者にいい考えがあるでござる。天野殿、拙者の真上に雷雲を作ってはくださらないか?」
「え、ええわかった。天へと祈れ・雷雲。」
天野が両手を合わせると、佐々木の真上に黒い雲がかかり、少しビリビリと音を立てる。佐々木はそれを確認すると、刀身を雲の中へと突き立てる。まるで纏わせるように掻き回すと佐々木の刀はバチバチと音を立てながら発光する。
「これは、星谷君がやっていた……」
「拙者のZONEは、剣技を模倣する以外に能が無い。それ故にこれを可能とする……行くぞ。」
そして、佐々木は雷を纏った刀を構える。息を呑むような空気の中、佐々木は刀を振ると雷鳴が轟く。
「我流模倣剣「燕返し・天雷」!」
まさしく紫電一閃の技。三重に重なり合った斬撃が蜘蛛の巣を焼き切ると、蜘蛛の糸が蝋のように溶けて滴り落ちていく。
「さあ、道は開けた。進むぞ。」
階段を登り、辺りを見渡す。そして、天野は足元に巻かれた何かを見つける。
「待ってこれは……」
佐々木がそれを拾い上げる。四方に長く鋭い針のようなものを持つ、消しゴム程度の大きさの鉄の塊。まきびしだった。
「体育館の方に向かってる……?」