第85話 爬虫類専用骨格筋矯正サポーター
「えーでは、みんな席について。ホームルームを始める。今日は、あの時話したとっておきの課題について話す。」
「あの宿題がそうじゃないですか!?」
「あれは別だ別。一週間休みだからその埋め合わせの課題だ。安心しろ、そう辛いようなもんじゃない。もっと楽しい課題だ。お前たちには課外学習をしてもらうことにした。」
「「課外学習……!?」」
「そう、課外学習だ。そして、お前たちが行く場所。それは自然界、マッドフォレスト。そこで、お前たちには1週間生き延びてもらう。それが、課外学習だ。詳しいことはプリントを配布するから確認しておくことだ。」
プリントが配られ、目を通す。プリントの内容は、火野さん話した内容と概ね同じだったが、それ以外の部分で色々とツッコミどころが満載となっていた。
「それじゃあ、ホームルームを終わる。」
一通りの授業が終わり昼休みに入った教室の話題は、課外学習で持ちきりだった。そういう俺も、キリコとガマとで弁当を食べながら課外学習について話していた。
「まさか自然界で課外学習とは思いもせえへんかったな。」
「ガマもそう思う?」
「当たり前や。ワイらは別やけど、このクラスで自然界に入ったのは林間学校以来やからな。三年生から自然界での授業も増えるちゅうことは、先輩とかが話しとったから身構えておったんやが。まさかこのタイミングとは思わへんかったな。」
「林間学校とかあったんだ。」
「星谷は知らないわよね。狩高の林間学校は自然界でやるのよ。基本的に学生が自然界に降りれるのはこのタイミングぐらいよ。」
「そう考えると、区の警備ザルくないか?EDEN財団のあいつとか平気で入って来れるぐらいにはザルな警備だし。」
「一応クリーチャーは登ってこれないし、たまに飛行するクリーチャーが来るくらいで、他の区と比べて比較的安全だったから、それは仕方がないんじゃない?」
「そんなことより、気になる点は狩北と南高も参加するって点だ。まさか、あそこと共同ってことはないよな?一緒に焚き火でも囲む訳じゃないよな?」
「それはわからへんな。せやけど、火野はんのことや、大規模な何かをすることは大体の察しはつくで。」
「となると、やっぱり対抗戦ってことか。それも一週間もかける大規模な対抗戦。火野さんのことだ、5月6日が楽しみになってきたぜ。」
意気込みながら弁当を口の中に掻き込んでいると、後ろから肩を叩かれる。振り向くと、そこには龍之介とガロウが立っていた。
「星谷、放課後。お前の尻尾の特訓をするの忘れんなよ?お前から頼んできたんだからな?」
「わかってるって、付き合わせて悪いな。」
「そんなことはないぜ。それに指導は任せな、ノンプロブレム!」
「それと星谷、メイから弁当預かってる。」
「おお!メイの弁当か!」
ドスンッ!と置かれた弁当と言うには程遠い重箱に俺は思わず息を呑む。
「星谷、まさか俺の妹が作った弁当が食えないとか言わないよな?」
「星谷はん、腹の余裕は十分かいな?」
「まだ余裕だけど、時間が間に合うかどうか……」
早弁ならぬ遅弁をしてなんとか食べ切り、時間は放課後となった。栄養バランスや、味は美味しかったが、いかんせん量が多すぎる。まあ、弁当内容が豪華になってるってことは、ガロウがバイトを頑張って、金銭面に余裕ができ始めているってことだ。それに関しては素直に嬉しいことだ。
「星谷。龍之介はともかくとして、なぜ俺まで参加なんだ。」
「ガロウ、お前も一応尻尾あるだろ。だから呼んだんだよ。」
「俺の尻尾は戦闘ではあまり使わないぞ。お前らの爬虫類系の尻尾と違って、俺の尻尾は簡単に言えば犬の尻尾だ。威力も無ければ、ただのバランス感覚の補助や船の舵のような役割でしかない。」
「まあ、応用が効くかもしれないだろ。」
「それもそうか。」
「よし、まずは尻尾の動きを把握するために一度尻尾を振ってみてくれ。」
「わかった。」
龍之介に言われたように尻尾を振ってみる。尻尾はぎこちないかくかくとした動きで左右に揺れる。
「なるほど、星谷。力が入りすぎている一旦力を抜いて左右に振ってみろ。」
「力を抜く?」
「そうだ!リラックス!」
一度深呼吸をし、尻尾に入れていた力を抜く。
「今だガロウ!」
「おう!」
突如として合図を送られたガロウが、俺の尻尾を無理矢理右から左に180度折り曲げる。
「んぎゃぁぁぁ!?!?」
「どうだ?柔らかくなった気がするか?」
「お前、まじで、後で覚えとけ……ん?あれ?尻尾が軽い?」
「この前のサッカーの練習で一度使っただけでこの筋肉痛。何かあるかと思ってはいたが、やっぱり新しくできた体の一部分にお前自身が慣れてない。無理な尻尾の応用が関節のゆがみ、しいては筋肉痛に似た痛みの原因だったって訳だ。まあ、歪み方的にはブランクがあるのに体を無理やり動かしたのと同程度ぐらいのものだったが。」
「何でそんなことわかったんだ?」
「整体師のバイトをしてた時に培った技術だ。座り方とか、そこらへんを見ればわかるようになる。あとは感だ。」
「感かよ!?危なっかしいな!?」
「よし、体ほぐしはフィニッシュ!ここから特訓を開始するぞ!まずは、尻尾に重りを付けるテールズダンベルからだ!」
龍之介は、俺の尻尾にタイツのようなものを付けた後、ジムとかに置いてあるダンベルのようなものを俺の尻尾に取り付ける。
「これ何キロのやつだ?というか、このタイツみたいなの何?」
「タイツじゃないよ、爬虫類専用骨格筋矯正サポーターだよ。それにダンベルの方は100キロだ。」
「初手からハード過ぎないか?こういうのってもっと段階的にやっていくのが基本じゃないのか!?」
「ものは試しだ!レッツトライ!」
「ところで、これタイツか?」
「タイツじゃないんだよ!!爬虫類専用骨格筋矯正サポーターなんだよ!!!」
そして、龍之介とガロウの放課後特訓を続けて大体三日ぐらいが経過した。尻尾でボールを蹴り返す練習で反応速度を速め、尻尾を使った重量挙げでパワーを上げ、棒渡りで尻尾を使ったバランス調整の仕方を学んだりなど、この三日間で結構な上達ができた。そして、今日は特訓の途中成果を試す模擬戦をガロウと行うことになっていた。
「星谷、サッカーの時とは違って全力で行くぞ。」
「ああ、機械剣は使わない代わりにガントレットは使わせてもらうが、それでもいいか?」
「それは別に構わねえが、理由は何だ?尻尾の訓練の成果を試すタイマンだろ?」
「それはそうだけど、流石にお前の攻撃を直で受け止めるのは俺の骨が折れる。あくまで防具として装着させてくれ。ブレードも、パージボルトも使わない。」
「あくまで素手でタイマンをするということか。」
ガロウがニヤリと笑う。
「ああ、お前が言った通り、俺が今日試すのは尻尾の成長具合だからな。」
「二人とも、お喋りはそこまでだ。始めてもらうか、ソウファースト!」
痺れを切らした龍之介の声がグラウンドに響き、俺とガロウは一気に緊張感を高める。俺は背中から生えた白い尻尾を軽く振って感覚を確認し、ガロウを睨む。ガロウもまた、両拳を構え、俺の動きをじっと見据えている。空気が張り詰める中、俺は先に動いた。
「来いよって顔してやがるな。なら、こっちから攻めてやる!」
地面を蹴り、俺はガロウに向かって突進する。助走をつけて一気に跳び上がり、空中で身体を前転させる。尻尾を鞭のようにしならせ、ガロウ目掛けて尻尾を振り下ろす。それをガロウは両腕を交差させてガードし、その威力を殺すように地面を足で削るように土を抉りながら踏みとどまると、砂埃が舞い上がる。
「いい攻撃だ。特訓の成果が出てきてるんじゃねえか?」
「そりゃどうもッ!」
ガロウに返答を返すと同時に、震脚によって一気に間合いを詰め、体の軸を捻り尻尾による薙ぎ払いをガードの甘いガロウの脇腹に入れ込む。
「し、しまった!?」
だが、ガロウは咄嗟に尻尾を両腕で掴み薙ぎ払いを回避し、捕まえた尻尾を振り回され、投げ飛ばされるが、尻尾で一度地面を蹴って体勢を立て直して着地する。
「あっぶねぇ。」
「着眼点はいいが、動作が大振りだな。すぐに気づけて対処できるレベルだ。」
「ガロウもやっぱそう思うよな。体に反して俺の尻尾デカいからな。尻尾を振り回すってより、こっちが振り回されてる感じがする。」
「その尻尾には間違いなくパワーがある。今後の特訓次第だが、現状は尻尾主体より隠し切り札、不意打ち気味に使うのがいいかもな。」
何それブラしてんの?
ブラじゃないよ、大胸筋矯正サポーターだよ!
7週目に向かった変態がいるらしい。それと最近ランキングに乗ってから毎日平均が70くらいになって恐怖を感じている。