第84話 ジェラシー感じるのは当然。
皇さんの授業で、ハンターになりたい欲というか、そういうものに当てられたせいか、非常にやる気が起きていた俺は忘れかけていたとある事情を思い出し、キリコと共にDr.カウザーの研究所に向かっていた。
「なあ、カウザー先生って今いると思う?」
「否定:お父様は、狩高で勤務中です。」
「まあ、代わりのやつに渡せばいいか。えーっと何だっけ名前……」
「千の貌持つ化身です。」
「ああそうそうそれ。あれって何でサウザンツって呼ばれてんだ?自分でつけたやつなのか?」
「お父様のことは、当機体でも計り知れないことがあります。」
「趣味ってこと!?」
「趣味かどうかはお父様のみぞ知るということです。」
エレベーターに乗り、近未来的な街並みの研究所についた。さて、ここからどうしたものか。ただUSBメモリーを届けるだけだったらそこらへんに歩いている仮面をつけた研究服着た千の貌持つ化身に渡せばいいと思うが、せっかくここまで来たのなら少しは探検してみたい。
「なあ、ここって研究所ではあるけど、町だろ?本命の研究所ってどこにあるんだ?」
「それなら、地下空間の建物ほぼ全てが研究所ですよ。分野ごとに分かれているので、何を研究しているかを明確にすれば見つかると思いますよ。」
「例えば何があるんだ?」
「クリーチャーや自然界の動植物の研究、新素材や装備の開発、料理研究などになります。」
「マジでいろいろやってんだな。まあ、こんなバカデカい空間があるんだし研究者にとっては楽園だろうな。」
「肯定:千の貌持つ化身の皆さんも楽しそうに毎日研究に励んでいます。当機体も、いつか彼らのように平和のための研究をしたい。」
「なるほど、それがキリコの欲か。」
「疑問:欲よりも夢の方が合っているのでは?」
「欲も夢も同じだろ……たぶん」
「確証ないのですか」
「お、楽しそうな雰囲気お邪魔していいかー?」
そんなやりとりをしていると、後ろから声がかけられる。千の貌持つ化身特有の白い研究服の下に戦闘服のような黒いスーツを見に纏い、機械仕掛けのスチームパンク風な時計を模したヘルメットをつけた男だ。
「え、えっとあんたは?」
「俺は千の貌持つ化身の一人、名前は、駆動械時。まあ、カイジって呼んでくれ。よろしく!」
「よ、よろしく。」
差し伸べられた手に握手を交わす。この人、研究者ってよりか、ハンターっぽいよな。服装もどことなく強者感があるし。
「いやあ、星谷世一君。カウザーの娘さんを侍らせるのは、俺としては許し難いなぁ。」
「侍らせるって、俺は別にそんな気は無いぞ。」
「いいや、この子がこんなにも楽しそうな表情で話をすることは滅多にない!お前あれだ、キリコの彼氏か何かか!」
「だから違うって!俺は、誰のものでもねえ!」
「そうかそうか、星谷世一。お前はそういうやつなんだな。わかった、俺とタイマンしてもらおうか。」
「は、はぁ!?」
「お前が勝ったらそのUSBメモリを受け取って、カウザーの下に届けてやる。もしも、お前が負けたらキリコのためにその身を切り刻む、いや殺す!」
「めちゃくちゃじゃねえーか!てか、何でUSBのこと知ってんだ!」
「会話は聞かせてもらっていた。それに正直、こんなにフランクにキリコに話しかけれるお前には嫉妬を感じている!だから死ね!」
「動機が嫉妬かよ!?」
「何が悪い!」
「返答しずれえんだよ!ああ、もう相手してやる!その醜い男のジェラシーなんかぶっ叩いてやる!キリコ!それでいいよな!?」
「返答を拒否します。」
「YESと捉えておくからな!カイジとか言ったか、ここだと迷惑だから上行くぞ!」
「その必要はない。この地下研究所は、どこでも実験ができるように頑丈に作られている。オルキスレベルの能力者の攻撃ではなければ、破壊されることは無い。」
「なるほど、それじゃあ、遠慮なくやれるって訳だ。」
「そういうことだ。始めるぞ。」
緊張が走る。カイジとか言ったやつの装備を改めて目に通す。研究服の下の両腰に僅かな膨らみがある。銃か、それとも剣か、どちらにせよ、制服姿の俺の装備、機械剣とマンティスガントレットなら対処はできる。
先に動いたのはカイジだった。カイジは両腰からスチームパンクチックな剣を引き抜いたと同時に凄まじい速度で俺との間合いを詰める。その速度は、あの時戦った城ヶ崎と同程度、反応して咄嗟に体を逸らして避けるのがやっとの速度だ。
「あっぶね!?」
「ほう、これを避けれるか。ならこれならどうだ。」
再びカイジが剣を振るう。鋭い斬撃をガントレットから展開したブレードで受け止めてからカウンターを仕掛けようと動く。しかし
「んなっ!?タイミングがズレた!?」
当たると思った攻撃のタイミングがズレ、カウンターに移ろうとした俺に二振りの刃が体を刻む。
「どうした?自分がミスったような顔をして」
「うるせぇ!」
今度は俺から攻め立てる。マンティスブレードでカイジの武器とチャンバラする。カイジの剣技はさほど脅威では無い。打ち合っている限りで言うなら佐々木の剣技よりも練度がなっていないが、手数が多い。というより、カイジの速度が異様に速い。
マジでどうなってんだ?こいつ、速度だけなら城ヶ崎に負けてねえ。それに、急な低速からの切り返しに動きが巻き戻ってんのかと疑うくらいの挙動に付いて行けない!なら、強制的に止めるまで!
刃同士がぶつかり合う瞬間にマンティスブレードに蓄えている電気を一時的に刃に纏わせバチバチと音を立たせる。
「パージボルト!」
「しまった!」
刀身を伝って電気がカイジへと流れる。そうすると、先ほどの速さが嘘のように、カイジの動きが普通の人間並に遅くなる。
「どうしたどうした!動きが鈍ってるぞ、カイジ!」
「くっ……!」
一度俺を跳ね除けた後、やけくそとばかりか、カイジの動きが早くなる。二倍、三倍と段階的に上がっていく速度。そして、動きが人間のそれじゃなくなっている。まるでフィギュアのように関節が人間の可動域を超えて360度動いている。
「お、お前、人間じゃないのか!?」
「気付いたか、俺のZONE:機械仕掛けの時計屋は自らの体をサイボーグにすることで、自分の体内時間を二倍、二分の一倍、停止、自在に操れる。」
つまり、電撃攻撃には弱いってことか。パージボルトを継続しながら戦闘を行えば、攻略は楽勝ってわけだ。でも、それじゃあ完璧にこいつを負かしたとは言えないよなァ……??
「種は割れた。こっからはマジで行くぞ。ジェラシーサイボーグ野郎。」
「クソガキが、わからせてやる……」
ブレードを握りしめ、一般踏み出そうとした時
「はあ!?どういうことだよ!」
「は?」
カイジが隣に向かって話しかける。もちろんそこには誰もいない。俺の目には何も映っていない。だが、確かにそこには根源的恐怖を煽るようなナニカの気配を感じる。
「……変な真似だと!?あんただってそう思ってんだろ!?……それはそれ?……わかったよ、変わればいいんだろ。」
カイジは一通り虚空に話しかけた後、武器を収める。
「USBを渡してください。」
「はあ!?さっきまでの威勢というか、喧嘩腰が嘘みたいに消えてやがる……二重人格か何かか?」
「いいから渡してください。」
「お、おう……」
勢いに押されるがまま、USBをカイジへと渡す。
「ご協力ありがとうございます。後ほど確認させてもらいますね。」
「あ、はい。えっと……あんたは、カイジさんですか?口調とか諸々変わってるし、どことなく本人じゃない気がするんだが。」
「おやおやおや、星谷君。いい洞察力ですね。その通りです。今話しているのは、駆動械時ではありません。職員室で業務を行っている私、Dr.カウザーです。」
「え?え?」
「千の貌持つ化身のメンバーは私と精神リンクしてます。簡単に説明するなら、一式さんのZONEが常時作用していると思ってください。」
「そうなのか……??」
「それでは、私はこの辺りで失礼。さっそくデータを確認したいので。またお会いしましょう。」
そう言ってカイジ?は研究所の方へと歩いて行った。ほんとなんだったんだ……
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