第83話 欲望とは進化の力
校舎の改造が終わり頑丈に、そしてテレポート対策終わり、4/22の今日、授業が再び開始となった。
「尻尾触ってもよくて?」
「嫌だ。」
「すごい、本当に生えてる。ねえねえ、尻尾動かせるの?」
「筋肉痛だ。本当だったらしまいたいんだが、しまうと余計に筋肉痛で痛いしムズムズする。」
まさか、あのサッカーでもろくに使わなかったってのに、ここまで痛い筋肉痛になるとは思いもしなかった。
「筋肉痛でございますの?私がマッサージしてあげてもよろしくてよ?」
「あーあ、もう口聞かない。」
「当機体が代わりにしましょうか?」
「キリコまで毒されてるのか。何だこの尻尾は、チャームでも付いてるのか?それはそれでもっと嫌なんだが。」
「後発組の扱いはこんなものですぞ。星谷殿もZONEが発現してより強くなれた。素直に喜ばしいことだ。ヒヒン!」
「痛っ!?お前!馬場!静止するようなセリフ言っておいて尻尾を引っ張るんじゃねえ!三上もツンツン触るな!」
「それにしても、尻尾だけ生えるZONEなのか?」
「それは俺にもよくわからん。」
雑談をしながら次の授業の教室へと移動する。次の授業は映像資料を見るため移動教室となっていた。火野さん曰く、「お偉いさんが来る。」らしいがお偉いさんとなると、狩人育成機構辺りの人だろうか?それとも現役のハンターがここに来てくれるとか?
教室の扉を開ける。そこには先に教室に移動していた火野さんと
「す、皇!?」
皇の姿があった。
「やあ、またまた会ったね。星谷少年?」
「えっ!?星谷、知り合いなの!?」
「昨日話したサッカーした変なおじさん。」
「もうちょっと早めに話してくれると助かったんだけどなあ……」
「火野さんこそ、何度か会ったことあるんでしょ?本名知ってる間柄だし。」
「えっと、皇さんは私と飛雷君の師匠だ。」
「納得、通りで強いわけだ……」
「えー今日は、狩人育成機構の創設者にして社長、そして私の師匠である皇さんに授業をしに来てもらいました。皇さん、よろしくお願いします。」
「硬いねえ火野君。もっと楽な姿勢でリラックスしてながら聞いてもらっても構わないぜ?」
「「(いや、いや、いや、狩人育成機構の社長相手に下手なことできないだろ!)」」
「今回僕が話す内容は簡単に言えばそうだな、歴史の授業だ。それも教科書に載っていないような記録すらろくに取ることができなかった時の話だ。この話を話す前に皆んなにひとつ聞きたいことがある。」
「みんな、欲はあるかい?」
「皇先生!欲というと具体的にはどのようなものでしょうか!」
「石田君だったかな、いい質問だ。何でもいい。強くなりたい、頭を良くしたい、美味しいものを食べたい、寝たい、そう言ったものを感じ、今でもそういうのを抱いている者は挙手。」
ゾロゾロと手が上がる。
「ふむふむ、全員上がっているね。それじゃ、えーと12番佐々木君。君の欲は何かな?」
「拙者は、剣の道を極めることでござる。」
「ほう、いい心がけだ。それじゃ、星谷少年は?」
「守りたいものを守れるようになりたい!」
「なるほど、次に25番アンディー君。」
「俺ちゃんは、死んでも守りたいものがある。だから死にたくない!」
「ありがとう、手を下ろしてくれ。人は欲によって突き動かされる生物だ。その欲が強ければ強いほど行動に反映されていく。そして、今の自分ではどうしようもなくなったその欲は体にどのような影響を与えると思う?石田君。」
「はい!それに適応するように進化すると考えます!」
「素晴らしいッ!その通りだ石田少年。元は海の生き物しかいなかった頃の地球で、天敵から逃げたいがために地上に這い出し、暮らせるようになった生物がいるように、地上から空へと飛ぶようになった生物がいるように、欲望は己の体に進化をもたらす。欲望こそが進化の力だ。」
強く欲すること、強欲であることが強くなることの秘訣か。それが原動力になるんだし納得ではある。
「それは人間にも言えることだ。人間は様々なことを欲し、それを原動力に進化していった。道具の作成使用から産業革命、技術の進歩は止まることを知らず、果てに人は原子を操るまでに至った。」
「膨れ上がる欲望は力となるが、それは同時に破滅をも齎す。さっき君たちが挙げた前向きな欲望があるように、欲望にも後ろ向きなものがある。自己利益に目が眩み、技術を悪用し、世界を手中に収めようと悪いことを企む邪悪な欲望もあった。それが200年前に起きた第三次世界大戦の引き金だ。」
「「・・・」」
「200年前に次世代型と呼ばれる核融合炉の開発に成功した科学者がいた。その科学者は大変喜んだ。これで世界のエネルギー不足を補えると。だが、その核融合炉の研究成果はある国に本人ごと盗まれた。その国の支配者は、その科学者を使い、とある兵器を作り出した。超小型核融合炉を内蔵した動く人型の機械だ。嘘だと思うだろう、そんなSFじみた話しがあるかと。」
スクリーンが降り、映像が流れ始める。そこには巨大なロボット同士が空中戦を行い、空中にミサイルが舞う。ロボットアニメのようだが、確かに現実の映像だった。
「第三次世界大戦は、主に日本周辺諸国で起きた。この映像は当時インターネットに流出した戦争の記録だ。巻き込まれ、ペシャンコになった一般市民、核を用いたレーザーが自然を焼き払い、撃ち落とされた機体に搭載された原子炉が冷却を十分に行えなくなった結果爆発し、辺り一面に放射性物質をまき散らして汚染する。」
胸が締め付けられる光景が流れた後、皇は次の映像を流した。先ほどまでの焼け野原と打って変わって、廃墟の街が植物に包まれるその瞬間を映した映像へと切り替わる。
「これは、僕が直接撮った映像記録の一つだ。第三次世界大戦が終結した要因でもある自然の大反乱。自然は建物を覆い、人間の居住区を侵略していった。肥大化した動植物に抗うために平和主義を掲げていた僕たちも流石に武器を取って戦った。なぜなら、既に食物連鎖の頂点から人間は蹴落とされていたからね。そこらの巨大化した魔猪イノシシに追い回される生活をしていたさ。」
んん!?ちょっと待て!?この人今直接撮ったとか言ってなかったか!?ってことは最低でも200才……あれ?完全にジジイじゃね?何でこんなにイケオジ状態でいられるんだ、もっと老け顔になるもんじゃないのか!?
「極限状態が長く続き、安心して食せる食料を底をついた。目の前の得体も知れず、放射線に汚染されているであろうリンゴに似た植物に、極度の空腹が勝って手を伸ばして食らった。それが、人間に奇妙で新しい進化を与えた。これが人間のZONEの起源だ。」
映像が終了し、スクリーンが上がる。
「さあ、これで映像は終わり。ここからは質疑応答の時間にしよう。何か質問や聞きたいことがあるものはいるかい?」
「「ザッ(教室中の手が上がる音)」」
「お、おう……名簿番号順に聞いていこか。まずは、泡美さん。」
「皇社長さんは何歳なの!?200歳は超えてるんだろうけどすごく若く見えます!メイクはどうしてるんですか!?」
「うーん、ヒ・ミ・ツ。」
「一応補足として、私から説明させてもらうが、皇の実年齢は248歳だ。」
「ちょっと火野君、言わないでよ!気にしてるんだから!」
「女体化して言うな気持ち悪い。」
「こんな子に育てた覚えはないのに。」
「えー、次は石田君。」
「はい!ZONEの起源について質問なのですが、世界で初めてZONEを発現した人物は、一体誰なのでしょうか!?またどういった能力を持っていたのですか!?」
「最初のZONE発現者は、不明だ。証明の使用がない状況だったからね。能力に関して言えることは、初期のZONE発現者の多くは、強力なものが多かったらしいとは言われていたね。僕の覚えている範囲でいうと、どこかの神話の神の名を冠した能力が多かったな。では次、牙狼君」
「あんたのZONEについてだ。質量を持った本当の分身に、空中浮遊、エネルギー弾、200年も生きる長寿命。火野先生以上の能力の数、まさしく最強だ。その能力の真相について知りたい。」
「気になるかい?僕のZONEが。まあ、昨日試合した面々は気になるだろうね。いいだろう、教えてあげよう。ハンタークラス:EX、超極秘かつ、最強の僕のZONEを!」
「ちょ!師匠それは不味いんじゃ……」
「僕を倒せる者は、そう限られる。能力を知られても、その能力全てが開示されるわけじゃない。僕が伝えるのはあくまで僕のZONEのことだ。それでいいかい?」
「ああ構わねえ。」
「なら教えよう僕のZONE:手を取り分かち合う力。手を取り、分かち合う力、僕の生き方を体現したZONEだ。能力としては、力の集約と分配だ。力と言えど何でもいい。筋力、知力、生命力などなど、それとZONEもね。」
「それが、あんたの欲だったわけか。」
「そうだとも、僕は平和主義者だったからね。第三次世界大戦中も、敵味方問わず衣食住を与え、戦争を止めるように国に訴え続けていた。それがZONEとして昇華したんだろうね。」
質問の嵐は続き、授業終了のチャイムが鳴る。
「これで授業は終了となるが、最後に一言だけ、欲することを忘れてはいけない。それを止めれば、人が人である意味がなくなる。それと同時に人は欲し続けなければならない。嘗て在った平和を取り戻さなければならない。だから、君たちには強く欲してほしい。美味しいものを食べたい、あいつより強くなりたい、平和な未来を掴みたいと、前向きな欲望をね。」
「起立、気をつけ!ありがとうございました!」
「「ありがとうございました!!!」」
授業という名の便利な作者の設定開示。そしてこれローファンタジーよりもSFパニック系に近いよな?というわけでジャンルをSFパニックに変更したよん。SF?ああS・Fのほうだよ。
実はこの物語まだ5月切ってさえないんですよ……詰め込みすぎか?とあるの主人公超えそうなくらいの密度だぞ。