第82話 サッカーしようぜ……あれ?
サイコメトリー内で簡単な会議が冰鞠によって開かれた。話の内容はアホでもわかるほど簡単な話だった。だが、その冰鞠のアイディアは、確実に刺さると確信を得れるほど合理的だった。
「作戦会議は済んだかい?」
皇のねっとりとした声がグラウンドに響く。
「思考盗聴はしてないだろうな?」
くぎを刺すように念を押すと、皇はニヤリと笑う。
「もちろんだよ。僕はそんなに卑怯な大人じゃないぜ?」
「どうだか……」
ガロウが疑わしげに呟くが、皇はただ余裕の笑みを浮かべる。
夕陽がフィールドをオレンジ色に染め、汗と土の匂いが混じる。俺はボールを見つめ、サイコメトリーで繋がれたチームの意識を感じる。冰鞴の作戦が頭に刻まれ、俺たちの動きは一つの生き物のように連動する。グラウンドの空気は熱を帯び、俺たちの鼓動が響き合う。
「よっしゃ、取り返していくぞ!」
「「おう!」」
ピィーー!!!
ホイッスルが鋭く鳴り響き、試合が再開。巴がボールを蹴り出し、電光石火のスピードでガマにパスが放る。ボールはまるで意志を持ったかのようにガマの足元に吸い寄せられる。皇チームのディフェンスラインが一斉に動き、まるで獲物を狙う狼の群れのようにプレッシャーをかける。
「仕掛けに行くで!」
左サイドバックの皇が前に出てくる。だが、ガマのドリブルはキレッキレだった。止まることを知らず、宙に駆け上がっていき、そしてそのままディフェンス皇たち引き付け……
「ラーーーーーーーー!」
擬音掃射によって作られたラの上にガマは着地。そのまま伸ばし棒の上をドリブルし、伸ばし棒の上に移動したガロウ、巴と合流する。
「行くであんさんら!」
「おう!」
「やってやるわ!」
ガマの声に、ガロウと巴が反応する。二人はガマが作り出した伸ばし棒の上を駆け上がり、空中で合流する。ガマはボールを高く蹴り上げる。その瞬間、ガロウが動く。
「餓える猛者の蹴り――!」
ガロウの足がボールを捉え、闇を纏った強烈なキックを放つ。ボールは空中で跳ね返り、ガロウがさらに蹴り込むたびに速度と威力が加速度的に増していく。
「まさか、またあのシュートをするつもりか!?」
皇が叫ぶ。その声にはわずかな驚きが混じる。だが、ガロウはニヤリと笑う。
「違うな、皇のおっさん。行け!巴!」
ガロウの合図と共に巴が宙へと舞い上がる。ガロウが蹴り続け、威力を最大限に高めたボールを正確に巴の元へと送る。ボールはまるで導かれるように彼女の足元に収まる。
「シュートをパスだと!?」
皇の声に驚愕が滲む。だが、巴は動じない。空中で体をひねり、ボールを足元でコントロールする。その瞬間、彼女の周囲に赤い輝きが渦を巻く。
「渦描く紅蓮軌道with餓狼の闇牙!」
巴の叫びと共に、ボールが燃え上がる。赤と黒のエネルギーが交錯し、螺旋を描きながらゴールへと突き進む。ボールはまるで流星のように輝き、空気を焼き焦がす勢いでゴールキーパーの皇へと迫る。ガロウの闇の力が巴の炎と融合し、かつてない破壊力を生み出していた。
「くっ、こいつは!」
ゴールキーパーの皇が両手を広げ、幻想の鏡壁を展開する。青白い光がゴール全体を覆い、氷の結晶のように輝く障壁が形成される。炎と闇の螺旋がバリアに激突し、けたたましい衝撃音がグラウンドに響き渡る。
「だが、残念だねえ。凄まじい威力だが、僕の幻想の鏡壁が完全に破る程の威力は出せないようだ。僕の勝ちだ……」
「それはどうやろうなあ?」
「――何ッ?」
次の瞬間、幻想の鏡壁がボールと共にゴールに向かってノックバックする。その衝撃は、完全に油断しきっていた皇をボールと共にゴールネットにねじ込んだ。
「時間差ノックバックや。便利やろ?」
「まさか、こんな小細工をしてくるとは。」
「小細工とは失礼やな、立派な作戦やで。今のシュートでダメなら、シュートの火力を上乗せすればええ。冰鞠はんの作戦が上手く行ったわけや。」
「くっ……それもそうだね、一点奪取おめでとう。だが、これで点数は互角、残り試合時間は15分ほど。こっからは後半戦だぜ。気合を入れて……」
そう皇が言いかけたその時だった。
「社長!何をやってるんですかー!!!!」
「ドピッー!?」
行きなり助走つけて飛び蹴りを皇にかますスーツ姿の女性が現れた。と、いうか社長?マジで社長だったのか……
女性が起き上がった皇の耳を引っ張りながら近くに止めてある黒塗りのリムジンの方へと連れて行こうとする。
「明日の資料の確認やら、諸々仕事が残ってるのになんで子供達と遊んで仕事をほっぽり出してるんですか!」
「いたたたい、や、やめこれ以上引っ張らないでくれー!星谷少年、助けて!助けてー!アイスも付けてあげるから!」
「女体化してまで助けを求めない!行きますよ社長!」
「ぶっちゃけ、お金は間に合ってるんだよねえ。よし!練習切り上げてラーメン食いに行こうぜ!今日は臨時収入があったんだ、一杯までなら奢るぞ!」
「「うぉぉぉ!!!」」
「あっ、ちょ!引き上げるなー!」
情けない大人の姿に目もくれず、俺たちは和気藹々としながら綺麗に片づけをして、グラウンドから去っていく。
デートしてる最強二人のラブコメ書きてえよ。
没となったアンディー&東雲分身による実況解説
「さあ、実況変わりまして、ここから四肢が欠損し、網玉と交代する予定だったアンディーと分身東雲が努めさせていただきます。本日はよろしくお願いします。」
「よろしくお願いしますでござる。さて、アンディー殿。現在チーム皇VSチーム狩高、1対0で我が狩高が負けていると言う状況ですが、ここから狩高はどう得点を盛り返していくのでござるか?」
「はい、制限時間は残り15分ほどです。ここから切り返すにはやはり、攻め一択でしょうね。皇のZONEは強力です。さらに元は全て一人の皇ですのでチームワークも取れている。一見完璧のように見えるチームですが、ある弱点があるのよん。」
「弱点でござるか?それはどのようなものでござるか?」
「それは、全員が本人であると言う点です。こういう分身系能力って、実体のない存在だったり、影などの別のもので補填されて分身を作るよね?」
「はいはい」
「でふが、あの皇という裏ボスイケオジは、ZONEを分けている。一つ二つに統合していた時より遥かにパワーが落ちている。そうは思いませんか?」
「いやいや、そんなことはないでござる。さっきのシュートは最初に撃たれたシュートより強いものでござった。冰鞠殿や石田殿の守りを最も簡単に突破していたでござるよ?」
「であるのなら、そこにパワーを重点的に置いている。すなわち、他はマチマチの強さになっていると逆説的に考えれるのでないかと冰鞠ちゅわんは考えました。影分身や二重を行く者のように欠点のあるコピーなどではなく、完全な分け身、力を分配した存在である皇分身ズは、オフェンス皇とキーパー皇の二人に大きな力を与えたことで、他が相対的に弱くなってしまっているというわけでござる。」
「真似っこしたのには腹が立つでござるが、それなら納得いくでござる。ZONEをほぼ使用せずに星谷殿がミッドフィルダー皇を突破できたのも、偶然偶々配分が弱い皇だったからでござるな。」