第81話 サッカーしようぜ!分身、浮遊、波動etc……
「流石に1人で全部やるは止めてください。な、なんというか、勝負にならない。」
「善処するよ。一人につき、一つか二つの能力ならいいだろ?」
それでも、あと最低でも九個の能力は持ってるとでもいうのか?前に現れた閻魔とか言ってたやつとどっこいどっこいの強さなんじゃと思ってたが……この人、火野さんクラスのバケモンか!?
「バケモノ?違う、僕はしゃ……ちょっと長生きなおじさんだよ。さあ、試合に戻ろうか。」
ボールを確保した石田のパスから試合が再開する。皇チームのフォーメーションはこちらと同じ442構成。ボールが巴から俺に周り、そして、早苗監督から指示が出る。
「皇がどんな能力を持っているのかは、まだ未知数だ。一度ボールを回して各皇の能力を把握しつつ、ゴールを目指せ!」
「「了解!」」
俺はボールを蹴り出し、ドリブルを始める。
一度ボールを下げてもらったのは、至極単純にツートップ二人がこのまま攻めても、そう戦力ですぐにボールを奪われる可能性があるからだ。一度下げて、チーム一人一人をマークさせ、タイマン勝負に持ち込む。
「ほう、こちらの戦力を分散させながら、能力を探る作戦か。探らなくとも、こっちから見せてあげるぜ?」
前進する俺の目の前に右センターハーフ皇が立ちはだかる。
「いくら、能力が強くても、経験には負けるんじゃねえか?」
「さあ?なら、四の五も言わず僕を突破してみな。」
「抜かせ!」
他の皇はマークされて身動きが取れない。正真正銘のタイマン状態。右前には必死にフリー状態になろうと動く巴がいる。能力がどの皇に分担されているのか分からない以上、迂闊にここでパスを回せば獲られるリスクが上がる。正面突破するしかない。
俺は前進する。皇もボールを奪おうと俺との距離を縮めてくる。一歩一歩と距離が近づくにつれ緊張が増してくる。タイマン勝負において、攻め際の駆け引きは重要。下手に先に動けば動きを読まれ、遅すぎたらボールは奪われる。最大限相手との距離を詰め、引き付ける。
「巴行くぞ!」
「……!」
皇が一瞬右に重心を移した瞬間、俺は左足でボールを軽く右に押し出し、素早く左に切り返す。
「声かけはフェイクか……!」
皇の体が遅れ、俺は一気に加速して突破する。皇たちの視線が声掛けした巴の方へと向いた隙を見計らい、ディフェンスを切り抜けながらゴール前へと前進するガロウへ正確なパスを送る。現状の俺たちは、網玉のサイコメトリーで思考が繋がっている状態。口ではああ言えど、それがフェイクであるという考えは巴には伝わる。相手だけが惑わされる虚言テクティクス!
「いいパスだ!ぶち抜くぜ!ウォォォォォォ!!!!!!」
ガロウの姿がフェンリル状態に近しい姿に変化する。簡単に言い表すのなら、獣人。ケモミミと尻尾が生え、全体的にスラッとしていながらも、筋肉が通常時よりも膨れ上がっている。いつの間に鍛えてたんだ?
「餓える猛者の蹴り――」
闇を纏った足でボールを蹴る、蹴る、蹴る。四方八方から自ら蹴ったボールを蹴り、速度と威力が反射を増すたびに増大する。そして、ゴールに向かって強烈なシュートが放たれる。
「――餓狼の闇牙!」
ガロウの放った餓狼の闇牙は、ゴールへと猛烈な勢いで突き進む。闇を纏ったボールは、まるで生き物のように唸り声を上げ、空気を切り裂きながらディフェンスの皇へと迫る。ディフェンスの皇は冷静な表情を崩さず立ち塞がる。
「ふん、面白い技を使うね。だが、これくらいなら――」
ディフェンスの皇が手を地面へとかざすと、突然地面から無数の金属の柱が突き上がり、ボールの進路を塞ぐ。金属の柱はまるで生きているかのように動き、ガロウのシュートを絡め取るように包み込む。ボールは金属の柱に衝突するが、その勢いを止められることはなかった。金属の柱を闇を纏ったボールは食い突き破り、ボールはゴールへと突き進む。
「無効化するか……なら!」
ゴールキーパーの皇が動く。両手に青白い光を纏わせ、ボールを迎え撃つ準備を整える。その光はまるで氷の結晶のようにキラキラと輝き、ゴール全体を覆うような障壁を形成する。ガロウのシュートがその障壁に激突すると、けたたましい衝撃音と共に闇の牙が砕け散り、ボールは無力化されて地面に転がった。
「な、なんだそのバリアは!?」
ガロウが唖然として叫ぶ。俺たちも同様に驚きを隠せない。あのガロウの全力のシュートが、まるで子供の遊びのようにあっさりと防がれたのだ。皇はゴール前でニヤリと笑い、ボールを足元で軽く転がしながらこちらを見やる。
「いやあ、悪くない攻撃だったよ僕以外だったら致命傷だ。だが、僕の所持するZONEの一つ、幻想の鏡壁はそう簡単には破れない。(まあ、このバリアも既に壊れかけだが……末恐ろしい少年だ。)」
が、ガロウの一撃を食らって破り切れないバリアがあるのか、これは得点を決めるのに一工夫、いや三工夫必要だな……
「さあ、次はおじさんの番だ。」
ゴールキーパーの皇がボールを高く蹴り上げる。その瞬間、フィールド上の他の皇たちが一斉に動き出す。まるで事前に打ち合わせていたかのように、流れるようなパスワークでボールを繋いでいく。右サイドの皇から中央の皇へ、そして左サイドの皇へとボールが渡るたびに、俺たちのディフェンスラインは翻弄される。
「くそっ、なんて連携だ!」
「任せるでござる!忍法:分身の術!」
東雲がオフェンス皇に立ちはだかる。そして、皇を取り囲み一斉にボールを奪いにかかる。これに対し、オフェンス皇は対処しきれずにボールを奪われようとしたその時、額に指を当て瞬間移動でその場を切り抜けると、もう一人のオフェンス皇にボールを渡す。
「させるか!」
石田がゴール前で構え、再び体を岩のように硬化させる。だが、オフェンス皇はニヤリと笑い、ボールを軽く浮かせると、まるで宙を舞うようにジャンプし、ボールをそのままシュートする。
「……重力弾」
ボールはまるで隕石のような重力を帯び、ゴールネットを突き破る勢いで飛んでくる。余波でアンディーの四肢はバラバラ、冰鞠が壁を貼ろうと手を上げるも間に合わず、石田が受け止めようと方腕を上げる。
「ゴーレム・ハンドォォォ!!ぐっ、このパワーーは!?」
ボールの威力は想像以上で、石田の岩の手を弾き飛ばし、ゴールへと突き刺さる。
ピィーー!!!
網玉のホイッスルが鳴り、皇チームの得点が確定する。スコアは0-1。俺たちは呆然と立ち尽くす。たった一人でフィールドを支配し、圧倒的な力を見せつけた皇に、誰もが言葉を失っていた。
「ああもう!どないなっとんねんあのイカれオヤジは!何個もZONE持っとるとか、反則やろ!」
「それもそうだけど、練度も馬鹿にならないほど高い。私たちも思考を共有してるけど、向こうは元々一人な訳だから、連携は完璧だし。」
「俺のシュートも、まるで通用してなかった。星谷、これ勝てるのか?」
「星谷、俺ちゃんの出番なくない?」
「ぶっちゃけ使いずらい」
「そんなぁー」
「あ、あのいい?」
「ん?どうした冰鞠君?」
「あのバリアを破く方法を思いついたのだけど。」
「え?それ詳しく。」
みんながみんなのために。オール・フォー・オール精神の200年生きてるおじさん?お姉さん?です。