第71話 女を磨くため、オカマの下へ
時間はさかのぼり、ガマがEDEN財団に行く前の事。キリエとキリコは、松本のリムジンに乗ってある場所に向かっていた。
「ねえ、これどこに向かってるの?」
「当機体はご存じですが、お答えできません。」
「何よそれ。キリコちゃん意地悪だな~」
キリエは、キリコのほっぺをつんつんとつつくきながら窓の外の風景を見る。過ぎ去っていく風景は、北部の少しリッチで高貴な街並み。向かっている先の検討が付かない。そう思っていると、松本が話しかける。
「キリエさん。あなた、星谷君を堕としたいのではなくて?」
「急にぶっこむわね……そうよ、そうだけど。あんただって狙ってたでしょ。ファーストキスも奪ったくせに……あれ未だに恨んでるわよ。」
「あーら、キリエさん。嫉妬深いメンヘラは嫌われますことよ?」
「松本さん、松本さん。話が逸れてます。」
「私としたことが、いけませんわ。キリエさん。私たちが予想するに、あの神楽坂音色はあなたにとって真の恋敵になる存在ですの。」
「ちょ、ちょっと待ってよ。あれが、よね?見た目普通に男子にしか見えないけど、それが恋敵になるなんてそんなバカな話……」
「男の娘……私たちのクラスにいる一人の男子が、そういった属性を帯びているのは周知の事実。まず大前提、男の娘はとは言うなら女装男子。心と容姿が乙女の男子のことを指す言葉ですわ。ですが、それはあくまでも心と容姿だけ、生物学的に言えばそれは男性には変わり有りませんことよ。」
「アンディーに取り憑かれでもしたの?そんなに熱心に男の娘を語ったりして……」
「とにかく、女装男子がいるのなら、男装女子がいてもおかしくはないのでは……それが私たちの考えでしてよ。」
その言葉にキリエは頭を抱える。
「うう……それは思ってもいなかった。大誤算だわ。神楽坂音色が女子……確かにありえなくはない話だわ。」
「で、現状のあなたが神楽坂音色に勝っている部分って何?」
「現状で神楽坂音色に勝っている部分……胸の大きさ?」
「向こうがさらしを巻いて押しつぶしていたらどうなるかしら?」
「不確定要素。」
「キリコさん。その通り。」
「同棲日数?」
「ん、まあ確かに勝ってると思うけど、神楽坂音色ではなく、あなたを選ぶほどのアドバンテージにはならないわ。もっと無いの?あなたが神楽坂音色に勝ってること。」
「見当がつかないのよね……というか、一番気になるのは星谷と神楽坂の関係性なんだけど、二人とも知ってることとかないの?」
「共感:当機体も様々な憶測をしていますが、「何らかの関係はあるけど、星谷君が覚えていない神楽坂からの一方的なもの」という結論に達しました。」
「そう、今度星谷に問い詰めてみようかな。」
「話題が逸れてますわよ。とにかく、今から私の行きつけの美容院、服屋、アクセサリーショップに周って色々整えますわ。中身に関しては、星谷君から素直にだとか言われたのでしょう?今度は見た目を整えますわよ!」
車から降りた三人の目の前の美容院。その看板には「びゅうてぃ」と書かれ、広告看板には無茶苦茶綺麗な金髪ロングの筋肉ゴリゴリマッチョの青髭オカマが描かれていた。店全体がやけにピンク色で目がチカチカする。はっきり言って異様な美容院だ。
「えっと、ここは?」
「私が行きつけの美容院ですけど?」
「否:たぶん看板というか、シルエットに疑問」
「気にしたら負けですわ。店長はいい人ですわよ。」
キリコたちは松本に連れられ店の扉を開ける。
「いらっしゃ~い」
野太い声を強引に喉を細めて出したであろう不自然な声が返事をする。扉の前のカウンターに腰を掛けた無茶苦茶綺麗な金髪ロングの筋肉ゴリゴリマッチョの青髭オカマが手を振っている。そして、松本に気付いたのであろうオカマは、三人に流暢に話しかける。
「あら~、松本ちゃんがお友達引き連れて来るなんて珍しいわぁん。アナタたち、お名前は何ていうの?」
「当機体は、高橋機凛子です。」
「いやだぁん!お人形さんみたいで可愛~い。それでそれで、隣にいるアナタは?」
「衛守桐恵ですけど……」
「衛守、聞いたことあるわねえ……あ!そうだ思い出した。あのお優しい刑事さんの娘さんね。大きくなったわねえ!母親に似て不愛想みたいな雰囲気だけど、ここに来たってコトは、女を磨きに来た。そういうことでしょう?」
「ちょ、ちょっと待って!わ、私に母親がいたの……!?」
「あら、もしかして。アタシ地雷踏みかけてる?やだーん、そういううことなら早く行ってよ松本ちゃん。キリエちゃんだったわね、母親のことはアナタが男を堕とした後に話してあ・げ・る♡とりあえず、座った座った。」
「え、ええ……???」
されるがままにキリエは席に座らされ、オカマは色々と準備を始める。
「話が早くて助かりますわ。この人は大山匠さん。この美容院の店長ですの。」
「タクちゃんって呼んでね☆アタシのZONE:乙女の美容院は、触れた髪を自由自在に伸ばし、カラーチェンジもできる優れ物よーん!さ、カタログから好きにカスタマイズして頂戴。アタシが気分と気まぐれでやる「シェフのおまかせ☆コース」もあるけど、ど〜うする?」
「うーん、あいつの好みって何だろう……??」
「言葉にすると、より思い出せるかもしれないわよ。」
「白と青のメッシュで……」
「うんうん。それでそれで〜?」
「確か、滑らかというよりゴツゴツで……」
「ゴツゴツ?まあ、それで?」
「鱗があって……」
「やっだそれトカゲじゃな〜い!?白亜紀とかで歩いてそうなレベルのゴツいやつなんじゃなあーい!?」
「そうかも」
「その堕としたい子の見た目のタイプとかしらないのお?」
「やっぱりわかんない。おまかせで頼むわ。」
「ほんと優柔不断。父親にほんと似てる。いいわ。「シェフのおまかせ☆コース」イっくわよぉ~!!!」
そう言って、大山は色とりどりの櫛を取り出す。そして、その櫛をキリエの髪をすくとみるみるうちにキリエの髪が変わっていく。メカクレはカットされ髪型は、ミディアムボブショートカットで、前髪が少し斜めに分かれる。髪色は黒をベースに、インナーカラーでマゼンダのグラデーションが入っており、特に毛先に向かっ色が強調される。そして、チャームポイントでマゼンダのアホ毛がちょこんと出ている。
「今のいいイメージを残しつつイヤンパクトに仕上げてみたけど、どう?いい感じかしら?」
鏡を渡されたキリエは、手を震わせながら待っている二人の方を見る。
「こ、これどう?」
「当機体は素敵だと思います。イメージは崩れない程度にインパクトが出ています。気を引くには持って来いかと。」
「いいと思いますわ。さすがタクちゃんの美的センスですわ。」
「あら〜嬉しいわあ!そんなこと言っちゃうならお値段はサービス100%オフよお〜!!!」
大山は、キリエの両手をガッチリと掴み目を合わせる。
「絶対に堕とすのよ!」
「はい!」
オカマは三姉妹です。誰が何と言おうと兄弟ではなく姉妹です(鋼の意思)