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第68話 大蝦蟇、本気出すってよ

 EDEN財団の改修されたトレーニングルームにモノノケが集合する。十年前、EDEN財団の人間派が入手した遺伝子を基に作られた最強の人造人間(ホムンクルス)がこの場所で暴走を起こし、EDEN財団内でのモノノケの地位を再獲得させた。あれから十年の歳月が過ぎたこの場所は、改修に改修を重ねた結果。どのような戦闘であれ、決して傷つかず、脱出することができない監獄へと生まれ変わっていた。技術力だけなら狩人育成機構のそれを遥かに凌駕するEDEN財団が作り上げた最高傑作の1つに数えられるだろう。新旧問わず、このトレーニングルームは、空間内の形を自由自在に変えることでありとあらゆる状況下を再現できる。この場所でEDEN財団は、来るべき戦争のため着々と兵器たちの性能を高めさせてきた。


 七区周辺の自然界「マッド・フォレスト」を再現した部屋で、戦いのゴングを待つように両者睨み合っていた。いつまでたっても始まる目途が立たない空気に耐えられなくなったのか、土蜘蛛は大蝦蟇へと前々から抱いていた疑問をぶつける。


「なあ、兄弟。俺たちとの接触を断ったあの日から、お前はどこで何をしていた?俺がお前の情報を集めるために放った子蜘蛛たちをわざわざ全部殺して回ってたのには、何か理由でもあったのか?」


「これから喧嘩をするっちゅうのに、何を聞いとるんやお前は。それについてはボコった後に話したる。早よかかってこいや。下等生物(こぐも)が。」


「はいはい……」


 再現された空間に鳥の鳴き声が響き渡る。その音を皮切りに、大嶽丸が動き出す。


「ぶははは!!!大暴れの時間だ!!!」


 巨大な両拳を地面へと叩きつけると、そこから波打つように地が揺れると地面から岩の槍が突き上がりながら大蝦蟇へと向かう。大蝦蟇は、自身へと襲い掛かる岩を右ストレートで叩き割る。


弾け飛ぶ衝撃(ノックバック):空気散弾銃(エアショットガン)


 叩き割られた岩の欠片が弾け飛ぶ衝撃(ノックバック)によって打ち出され、まるで散弾銃のように土蜘蛛たちへと襲い掛かる。その光景を大嶽丸の後方から眺める土蜘蛛は目を丸くする。


「大蝦蟇は、どうやらZONEを既に進化させているらしい。」


「そのようね。ガマちゃんったら、いつの間に進化させたのかしら?」


「さあな。」


 土蜘蛛は流暢に会話をしながら、一瞬にして手のひらから蜘蛛の糸を蜘蛛の巣状に展開させ、向かい飛んでくる岩の欠片たちをその糸の粘性で絡め取り、被弾を防ぐ。被弾を防いだ土蜘蛛に、大嶽丸は口を出す。


「邪魔すんじゃねえぞおめえら!!!」


「好きに暴れてこい。俺たちはここで見学だ。」


「ぶははは!!!嬉しいねえ!!!」


 大嶽丸はそう言って背中に背負った刺々しい金棒と巨大な斧を手に持ち、大蝦蟇に向かって走り出す。強者を求める純粋な闘争心から来る大嶽丸の突進は、大蝦蟇に近づけば近づくほどに速度を増していく。


「ウッシャァァァ!!!」


「甘いのぉ、甘々や」


 大蝦蟇は、振り翳される金棒を毒の槍を生成して受け止める。最初こそ大丈夫であったが、パワーの差は圧倒的。大嶽丸が武器を振り回す毎に、大蝦蟇は徐々に後ろに押され始める。


「ぶははは!!!どうした、どうした、どうしたァァァ!!!お前の力は、こんなものではないだろう!!!」


 槍で応戦するも、すぐさまに再生された槍は破壊され続ける。そしてその最中に放った大嶽丸の一撃が、大蝦蟇の体勢を大きく崩し、脇腹がガラ空きとなる。


「隙アリだァァァ!!!」


 そこ目掛けて一直線に斧を叩き込もうと、振りかぶるも、そこには既に大蝦蟇の姿はなかった。


「どこに消えた?」


 大嶽丸は周囲を見渡すと、再現された木々の枝が風もないのに揺れていた。不可解過ぎる現象に脳がパンクしていながらも、直感から察知する。


「そこだァァァ!!!」


 次に揺れるであろう場所にピンポイントで金棒を投げつける。そうすると、そこから衝撃波が発せられ、金棒を殴り返される。大嶽丸は、神通力によって生み出した風で加速すると、その場所に向かって勢いよくジャンプしながら殴り返された金棒を掴み襲い掛かる。


「相変わらず、汎用性がバカ高いな。大蝦蟇の能力は。」


「逃げにも攻めにも使える保護色と体温調節による実質的な透明化能力。毒を生成し自由に操ることができる能力。暗殺任務なら一番って言ってもいいくらいよね。」


「任務だけって言うのなら語弊があるぜ。確かに兄弟は俺らの中じゃまだ新しい方だ。17か18年しか稼働してないが、総合的な現状の力比べだったらモノノケ内で一番上だ……とは言っても、十年前の話だがな。」


「神通力なら天狗さんに軍配が上がりますが、腕っぷしだけなら大嶽丸さんがモノノケ内で一番強いですからね。」


「ニャンで俺っちも参加しないといかないんだニャ。俺っち別にあいつの下についてるつもりはないんですけど。」


「拙僧的にも、猫又さんはペット枠ですし。」


「ンニャ!?」


「自覚なかったのか……」


 保護色によって樹海の中に姿をくらませた大蝦蟇は、木々の間を飛びながら大嶽丸から距離を取りながら、土蜘蛛たちの方へと向かう。だが、直感だけを頼りに大嶽丸は大蝦蟇を追いかける。


「待て待て待てェェェ!!!」


「しつこいのお!」


 大蝦蟇は180度方向転換し、弾け飛ぶ衝撃(ノックバック)で壁を蹴るようにして空気を蹴ってその反動をそのまま利用して大嶽丸目掛けてキックを放った。大嶽丸は急ブレーキをかけようにも、空中のため踏ん張ることもできず、加速した衝撃も合わさり大蝦蟇の蹴りが体にめり込むと、弾け飛ぶ衝撃(ノックバック)によって部屋の端まで吹き飛ばされ壁へと激突する。


 大きな衝撃が加わった影響か、部屋全体が大きく揺れると地形が別のものに変わる。まるで山岳地帯のように高低差は激しくなり、生い茂っていた木々はゴツゴツとした岩肌の絶壁へと姿を変える。


「ぶははは!!!連絡よこさないから隠居でもして腕が鈍ってるかと思ってたが、なんだよ結構強くなってるじゃねえか!嬉しいぜ!」


 大嶽丸は、衝撃でへばりついた壁から体を起こし、地面へと着地すると、準備運動が終わったかのように体をほぐし始める。


「やっぱり化け物地味とる耐久力と闘争心やな。大嶽丸の名を冠するだけあるわ。」


「ぶははは!!!それはお前もだろう大蝦蟇よ!!!」


 急に地形が変わった影響で、大蝦蟇は木々から再現された山の上に身を置き、同じ穴の狢だというのに、冷たく、鋭い目つきでモノノケたちを見下ろすと、指をクイっと曲げて「来いや」と挑発する。その挑発に乗った大嶽丸は、山をまるで道端の少しの段差を乗り越えるようにいとも容易く駆け上がる。だが、大蝦蟇は槍を取り出すと、そこから針を飛ばす。針に被弾した大嶽丸は弾け飛ぶ衝撃(ノックバック)により弾き飛ばされ、地面へと叩きつけられる。


「何のこれしき……」


 体を起こそうとするも、大嶽丸の体は言うことを聞かない。体全体がヒリヒリとし、完全に動きが停止する。


「ようやく倒れおったか。相変わらずタフすぎや。」


「畜生、毒かよ。」


 動くことができなくなった大嶽丸を見て、土蜘蛛は餓者髑髏たちへと合図を送る。


「拙僧の出番ですかな?」


「俺も一緒にやる。天狗はサポート頼む。」


「わかったわ……みんないってらっしゃーい!」


 天狗は団扇を取り出して二人に向かって仰ぐと、突風が吹き荒れ、二人の体は大蝦蟇の元へと一直線に吹き飛んでいく。土蜘蛛は糸を出し、風にうまく乗りながら大蝦蟇のすぐ近くに着地し、餓者髑髏は大蝦蟇に殴られ体がバラバラとなって山の上から転がっていく。


「おいおい、そりゃねえだろ。まあ、大丈夫か。」


「よそ見してええんか?」


 大蝦蟇は、球状にまとめた毒の塊を土蜘蛛目掛けて投げつける。それを土蜘蛛は、腰に下げた鞘から日本刀を引き抜き、そのまま真っ二つ斬りつけ被弾するのを防ぐ。


「おいおい兄弟。それはそっちのセリフだぜ?下を見て見な。」


 大蝦蟇は下を向くとそこには、山を攻撃し無限に増殖し続ける餓者髑髏(ガシャドクロ)の姿があった。餓者髑髏の能力、それは攻撃を行った時、増殖する。その増殖に際限などなく、全てが実態を持ち合わせ、その増えた餓者髑髏もまた本人そのものである。無限に繰り返される攻撃によって餓者髑髏は無限に自分を増やし続ける。


「見ろよ、この大量の餓者髑髏を。いくら兄弟でも扱いに困るんじゃねぇか?」


「そうかもしれへんな。だが、餓者髑髏は昔から骨が脆くなる骨粗鬆症だっていうのを忘れてはへんよなあ?ワシがちぃと小突けば木っ端微塵の粉々やで?」


「なら、こっちが妨害するだけだ!」


 土蜘蛛は、大蝦蟇に斬りかかる。土蜘蛛の刀の「蜘蛛切(くもきり)」が大蝦蟇の槍とぶつかり合うとその刀身から小さい蜘蛛が何引きも飛び出す、それらは赤く膨れ上がり小規模な爆発を起こす。爆発こそは小規模だが、その子蜘蛛たちの量は軽く百を超え、超連続の爆発が大蝦蟇を襲う。爆発で起きた煙が晴れ、土蜘蛛は大蝦蟇を見るが、大蝦蟇の体には傷一つ無い代わりに体全体が少しだけ光沢していた。


「その程度か?」


「ちっ、毒の粘液で防御しやがったか。」


「少しでも触れてみい、その瞬間から皮膚は溶け、激痛が走るがのお」


「相変わらず面倒な能力だぜ。」


「そりゃあんさんもやろ?廃棄予定の人造人間(ホムンクルス)に子を仕込み傀儡とする。しかもそいつら全員に孔雀真白(くじゃくましろ)が開発したA-Z:Bombが搭載されとるとか、そっちのほうがよっぽど面倒や。人の心とか無いんか?」


「兄弟には言われたくないな!」


 二人の口喧嘩と攻防が続く一方、餓者髑髏の増殖は続いていた。指数関数的に増加し続けた餓者髑髏は、増殖し増えた自分を今度は壊すと自らに取り込み始めた。そうすると餓者髑髏のひびまみれだった骨はみるみるうちに修復されると共に大きさを増していく、その丈は有に10mは超え初め、巨人の骨を彷彿とさせるほどに巨大になっていく。


「大蝦蟇さん、お覚悟を!」


 振り上げられた巨大な拳。骨であろうと理解はすれど、それはあまりにも大きい。大蝦蟇は土蜘蛛との小競り合いをいったん中止し、空中に駆け上がって餓者髑髏の拳を真正面から右ストレートで応戦する。弾け飛ぶ衝撃(ノックバック)の性質を理解しきっていない土蜘蛛はそれを無謀だと判断し、蜘蛛の糸を伸ばしてその場から避難する。


「無謀だな兄弟。いくら力を付けたってこの質量を突破できないぜ!」


「ワシのZONEがまだ分かっとらんようやな……!」


 大蝦蟇の右ストレートが餓者髑髏の拳にぶち当たる。拳の質量だけでは餓者髑髏に分があった。しかし、大蝦蟇は弾け飛ぶ衝撃(ノックバック)を発動させ、餓者髑髏を体ごと吹き飛ばす。拳が当たった手の骨は粉々となり地面へと落ちていく。


「ワシが少し触れただけでも、「攻撃した」とワシが判断すればどんなものでも吹き飛ばせれる。空気であれ、この建物であれ、それは変わらへん。攻撃した対象のベクトルを強制的に変換させる。これが、ワシのZONE:大蝦蟇(オオガマ)の跳躍強化から派生進化したZONE:弾け飛ぶ衝撃(ノックバック)や。」


「……なるほど、でしたらこれならどうでしょう!」


 餓者髑髏は口を大きく開けると、そこに青い光が集まり始める。そしてギュピーン!という音と共にレーザーが発射される。直線上に迫り来るレーザーを大蝦蟇は槍を生成し、毒をエネルギーへと変換した斬撃を放ちレーザーを相殺する。


「真名を毒蛙魔槍(ドクガマソウ)周防(スオウ)っちゅうてな、あの名工本多に作ってもろたんや。さあ、体も温かくなってきたで。蹂躙開始や!」

無限増殖しながら迫りくる、巨大なスケルトンが口からレーザーを発射するとかいう骸骨キャラモリモリ設定。

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