第67話 モノノケの集い
もともと1話作ってたんですけど、つまらなすぎて削除して、また1話作って微妙で削除繰り返してたら時間だけが過ぎてました。
ボロボロの服を着替えて、ベッドに寝っ転がって寝ようとしていると、ちょうど帰ってきたであろうガマが部屋に入って来た。傷だらけの体を布団で咄嗟に隠して、寝たふりをする。
「起きとるか?」
「う、うーんまあ、起きてるけど。何のようだよ?というかノックぐらいしろ。思春期の男子高校生っていう同族ならマナーだろ。」
「家族にそんなマナーあるかい!」
「で、何か用か?」
「そうや、星谷はん。ワイは、明日まで家に帰らん。」
「はあ?どういうことだよ。」
「ワイは故郷の方に行こうと思うてな。キリエはんは、キリコたちに任せとるやけん今日中には帰るで、帰って来てたらキリエはんのこと頼むで。」
「故郷ってことは、三区の方か。」
「そうやねん。旧友のとこに遊びに行くんや。」
「なるほど、行ってらー。お土産とか頼むぜ。」
「わかっとるわ」
ワシは、星谷に向かって手を振り、部屋のドアを閉める。深く息を吸い、吐き出す。とうとう会う時が来た。九年と六ヶ月ぶりに会うんや、あいつらが、どれくらい成長しとるんか楽しみや。
家から出て、七区から離れるように自然界を歩く。七区はあのバカ共の襲撃事件が起きて以降より警備を強化しとる。七区内で下手な動きを見せればすぐに付近のハンターへと連絡が届きすぐに見つかる。だから、七区からほんの少しばかり離れる必要がある。
「お迎えに上がりましたよ、ムッシュオオガマ。まさか、本当にあの狩人高校に通っているとは驚きましたよ?」
「もう来よったか。相変わらずその空間転送は便利やなぁ。無駄話は後でええ、早よ財団の方に連れて行ってくれや。」
「ウィ。では、こちらに。」
志治矢の横に立つと、一瞬にして目の前の風景が、樹林から白い壁へと変わる。
「相も変わらず無機質な空間やな。」
徹底的に洗浄された空気が妙に鼻につく。深夜の病院のように静かで、足音でさえ心地いいと感じるのも気に食わへん。
「もう後は覚えとる。タクシーありがとさん。」
「では、私もこれで。我がマジェスティのご機嫌取りのため、七区の方に向かいます。アデュー。」
そう言って志治矢はその場から姿を消した。何がマジェスティやくだらん。そう思いながら廊下を歩いていると、見知った顔を見た。
「久しぶりやな大蛇。」
声をかけられた大蛇は驚いたようにビクッとするも、その顔色は返ず、冷静に返した。
「あんたは確か、大蝦蟇だったか。まさか、本当に来るとは思わなかった。」
「そりゃ、十年も連絡つけなかったしな。それにしても、前に比べて結構デカくなったな。順調にZONEの方も成長してらしいな。今後が楽しみや。」
「なあ、兄は元気そうだったか……?」
「狩人高校で元気にやっとる。妹のほうもな。」
「そうか、よかった……話ができて嬉しかった。俺は任務があるのでこれで。」
「ほーん、そうか。じゃあ気張れや。」
大蛇は横を通り抜けようとする大蝦蟇を静止させるように話しかける。
「……大蝦蟇さん。一つ忠告をしておきます。あそこは、もう大蝦蟇さんが知ってるモノノケは消えかかってる。」
その言葉に大蝦蟇は立ち止まり、振り向く
「そんくらい知っとるわ。だから来たんや。」
大蝦蟇は、ドスの効いた声で返答した。その返答を聞いた大蛇は、静かにその場を去って行った。そして、大蝦蟇は再び歩き出し、モノノケが集うEDEN財団研究棟の地下の一室へと辿り着く。ドアを開けた先の部屋にいたのは4人。各々趣味が溢れかえった室内は、散乱としていた。大蝦蟇が扉を開けて入ってきたのを目撃した一人が声を上げた。
「おかえり、久しぶりだな兄弟?」
「土蜘蛛かいな、久しいのお。」
「元気そうで何よりだよ大蝦蟇。いや、蟇野錯牢って言った方がいいか?」
「大蝦蟇でええ。名前も持たんような、あんさんらに呼ばれる名前や無い。」
「そりゃ無いぜ兄弟。まるで自分が人間みたいな発言は控えた方がいい。俺らは兵器だ。人間臭いのは無しにしようぜ?な?」
土蜘蛛は大蝦蟇の肩に手を乗せる。ガマはその手を振り解き、土蜘蛛を一瞥する。土蜘蛛は腰の刀に手を添え、大蝦蟇は手に毒を纏わせ構える。一触即発の雰囲気が流れる室内の空気をバッサリと切り裂くようにピンク髪のオカマが間に割って入る。
「喧嘩はダメって言ってるでしょ?ここは一応アジト何だから、やるなら外でやって頂戴。また、ここで暴れられたらアタシたち、消されるかもよ?」
その言葉に土蜘蛛は頭を冷やし、刀から手を離す。
「天狗……そうだったな。ここでまた暴れられたらそれこそ厄介なことになる。ここは穏便にだぜ兄弟。」
大蝦蟇は毒を体内に戻し、両者を睨みつけ
「呆れたのお。殴る気にもなりゃせんわ。客が来てやったんや、茶の一つくらい出せや。」
乱雑に置かれたソファに身を投げ、近くに置いてあったチョコレート菓子を手に取ってむしゃむしゃと食べ始める。
「はいはい。緑茶でいい?」
「それでええ。」
大蝦蟇は、緑茶が入れられるのを待っていると、部屋の角で寝ていた猫又が目を覚ます。
「んにゃぁぁんムニャムニャ……あれ、大蝦蟇来てたニャンか?」
「相変わらず寝坊助やな。」
「しょうがないニャ。磑亜アーマーとかいうのの性能テストに散々付き合わされて疲れてるんだニャ。もう少し寝かせ欲しいニャン。」
「好きにせえ、ワシが止めることやあらへん。」
「そうニャンよね。俺っちはまた寝るニャンよー。」
大きなあくびをして再び目を閉じスヤスヤと眠りについた猫又をよそ目に受けっとった緑茶を啜り、大蝦蟇は一息つく。
「単刀直入に聞くで。モノノケに、EDEN財団に何があった何が起きた?」
向かいの席に座る土蜘蛛は淡々と話し始めた。
「財団のプロジェクト、主に人間派によるプロジェクトが進行したんだ。」
「人間派?どういうことや、EDEN財団はEDEN財団やろ。そこに何の違いもあらへんはずや。」
「それが、違うんだ。今のEDEN財団は三つの派閥に分かれてる。人間のための楽園を築くために研究を行う派閥の人間派。自然のありのままの姿、本来の楽園を取り戻すための自然派。そしてどちらにも属さない自らの研究のみに没頭する中立派の三派閥だ。」
「待てや、本来なら人間の楽園を作るために設立されたんがEDEN財団やろ。せやのに何でそんな派閥に分かれる必要がある?」
「それほどにまで強い影響力を持つものが現れたとしたら?」
「ワシにはわからへん……いや、志治矢が言っとった「マジェスティ」のことか?」
「その通りだ。マジェスティの持つ思想が研究者たちの思想に影響を与え、自然派ができた。そして本来の思想の者たち人間派ともめ事が起きて、研究したいだけの中立派が抑えて今のEDEN財団ができた。これがお前が任務に行ってる間に起きたことだ。俺が独自に調べたことだが、俺らが生まれるよりも前から「マジェスティ」はいたらしい。知らないのも無理はないさ、そもそもの話この話はつい最近まで秘匿されてたからな。」
「ワシら末端には知らされんどっても不思議やないか……さすがは副業で情報屋をやってるだけあるのお。」
「そりゃな、さっきだってああは言ったが、俺らも最近になって明確にやりたいことが纏まってきたところなんだ。名前とか付け合ったりしてな。今までの忠実な部隊じゃなく、独立した集団になった。その分個人プレーが増えて、俺たち兄弟が集まる機会は少なくなったけどな。」
「他に今日来とるやつはおらんのか?餓者髑髏、海法師、大嶽丸、九尾は何をしとるんや?」
「海法師は、お前が来るの遅いから任務に戻ったし、餓者髑髏と大嶽丸は食堂で飯食べてるな。九尾はそもそも今日来ないって連絡が来てた。」
「なるほどな……じゃあ、閻魔とか言う若造を連れてこいや。」
大蝦蟇は、普段よりいっそう低い声で土蜘蛛を睨みつけていった。土蜘蛛はその声色を聞いて、大蝦蟇が怒っているということを瞬時に理解する。だが、その動機を土蜘蛛は理解することが出来なかった。人間の真似事をしている自分たちが獲得しえなかったものを持っているということだけは、その迸る怒りから感じ取ることが出来た。予感を感じ取った猫又、天狗は二人から距離を置く。再び肌を刺すようなヒリついた冷たい空気が流る。だが、その重苦しくなった部屋をこじ開けるようにして大嶽丸と餓者髑髏が部屋へと入ってくる。
「みなさーん、戻りましたよ……」
「ぶははは!聞いたぞ、大蝦蟇が戻ったんだってなあ!久しぶりタイマン張りに来たぜ……どうやら笑えねえ空気みてえだな。」
「二人とも丁度いいところに来たな。大蝦蟇が閻魔を呼べってさ。」
「呼ぶにしても、虚淵業さんの研究室で検査を受けてるはずです。数十分はかかるでしょうね。憂さ晴らしが目的なら大嶽丸さんが相手をしてあげてもいいんじゃないですかね。拙僧一人では相手にならないでしょうし……」
「……構わへん」
「今何と……?」
「構わへんというとるんや、一度で理解せんかいアホンダラ。ここにいる奴ら全員でかかって来いや。そうしなけりゃ、ここの座標を狩人育成機構にリークしても構わへんで?さあ、選べや。」
緊迫した空気の中、モノノケたちの決断はシンプルなものだった。
「表に出ようか、兄弟。俺たちの昔ながらのやり方で決めようぜ。」
「「負けたやつが、勝ったやつの下につく」」
もうどうにでもなれ