第66話 裁定者で恐戦士
投げ飛ばされた武者鎧蠍は、その固くその身を包んだ鎧を捨て去り、足軽のように自らの速度を上げ、星谷へと向かう。
星谷は、飛ばされた機械剣を回収し鞘に収める、向かってるサソリを見つめると腕に力を込め始める。
そして、サソリのハサミが星谷の体を捉えようとした時、星谷はそのハサミに対して右ストレートを放った。その拳は、まるで板チョコを割るような勢いでサソリのハサミを粉々に粉砕する。
「その力ハ、器の力……実に荒々しク、恐ろしイ。裁定者のあなた様にハ、とても似合わなイ。」
アド=ネトラムは地面に手をかざすと、巨大な木の根を幾重にも地面から露出すると、それらは丸みを帯びた形状から槍のような円錐形へと変わるとそれぞれが星谷を目指して突き進む。
「人間ハ、多くの進化を果たしタ。そしテ、それらの背景でハ、多くの自然が破壊されタ!人間がこの世に生まれてかラ、この星は狂っていっタ!環境は人間の都合のいいように破壊さレ、多くの生物が絶滅しタ!」
アド=ネトラムは攻撃を行いながら裁定者へと訴えかけた。
「だかラ、僕ハ自然の大反乱を起こしタ!なのニ、なゼ、人間たちは生き延びていル!?」
「それが、人の可能性というものだ。」
飛び、避け、走り、根っこの槍を潜り抜けた裁定者がアド=ネトラムの首元まで迫る。
「裁定者のあなた様ガ、人間の方を持つのカ!?」
「スタートラインは一緒だ。星のためになる方を最終的に選ぶそれだけだ。」
「……やはリ、あなた様ハ、人間たち毒されていル!」
機械剣が首を落とす直前にアド=ネトラムの伸ばしたツルがそれを防ぐ。そして、その一瞬で裁定者の体にツルを巻き付けて身動きを封じる。
「僕ガ、この星を救いまス。ですかラ、今すぐにでも人間たちヲ!」
「それは、聞き捨てならない。この体も疼く、しばしの間変わってやろう。」
「何を言っテ……」
裁定者の体の力が抜ける。そしてまた別の何かが顔を出した。
「さっきからゴチャゴチャうるせぇんだよ!あぁあ!?」
「……貴様は器カッ!?」
星谷の目の色は、今までの赤色とは違い、目の色が青緑に変化していた。
「さぁな。だが、お前を今すぐにでもぶっ潰してやることに変わりはねえ!!!」
恐戦士は、体に巻き付けられていたツルをその強靭な肉体を使いパワーで引きちぎる。拘束が解けた恐戦士が機械剣を持つと、その姿は竜のような鱗を持ち、機械的な見た目から原始的ファンタジー要素をふんだんに取り込んだ姿へと変わっていった。
「荒れるぜ?止めてみやがれぇ!!!」
荒々しく雄たけびを上げる恐戦士は、機械剣を斧モードへと変形させ、獲物を喰らおうとする野獣のような眼光でアド=ネトラムを睨み、襲い掛かる。
「器風情ガ、出しゃばるナ。」
アド=ネトラムはその攻撃を左手で受け止める。しかし、受け止めた手からは青い稲妻のようなものが迸るとアド=ネトラムの手は腕ごと真っ二つに切断された。
「なぜ器風情がこれほどの力ヲ……!?」
「知らねえのか?俺は昔、キングとか呼ばれたんだぜ?」
「知ったことカ!」
引き裂かれた腕を蛇に変え、恐戦士へと嗾ける。しかし、恐戦士はそれを見て避けるどころか、一方を斧で軽く切断し、顔に飛びついてきたもう一方の蛇を大きく口を開けて齧り付き、飲み込んだ。
「うーん、あんまり美味くねえな。ゲテモノは美味いのが付き物だと思ってたが、そうでもねえみたいだな。」
恐戦士は蛇の頭を口から吐き出し、アド=ネトラムを一瞥する。その顔は狂気に包まれており、正気ではないことはアド=ネトラムでも容易に理解する。
「このままでハ、こちらがやられかねなイ。悔しいガ、あとは子供たちに任せるヨ。」
そう言ってアド=ネトラムは、地面に吸い込まれるようにしてその場から逃げ出していった。それを見た恐戦士は、逃がすまいと地面に向かって握りこぶしを撃ち込んだ。地面は抉れ、隕石でも落ちたかのようなクレーターだけができ、アド=ネトラムを取り逃す。
「ちぇっ、逃げやがったか...…お!?まだ、息があったのか!」
そこには、鎧を脱ぎ捨てた武者鎧蠍と超連射針鼠、そしてアド=ネトラムが新たに嗾けたのだろう巨大なミミズが地面から顔を出した。
「嬉しいぜ、まだまだ遊び足りなかったんだ。お前らは一体何発持つのか楽しみだぜ!なあ!?」
狂気的、猟奇的なまでの笑みを浮かべる恐戦士に2匹は互いのハサミと手で視線を逸らし後退りするのに対し、目の見えないミミズはその光景による恐怖など感じず、主人の命令のままに恐戦士へと体を唸らせ、巨大な口を開けて襲いかかる。
「血が沸るぜ。まずは、お前から掻っ捌いて蒲焼きにしてやらぁ!!!」
恐戦士は、自ら巨大ミミズの口の中へと入ると、腹の中で機械剣を振り回し、内側から肉を捌いていく。
「ヒャッハァー!!!!」
肉壁を突き破り、外へと出た恐戦士は握り拳を作るとそこへ力を貯め始める。そうすると、拳に稲妻のようにエネルギーが迸り、そして恐戦士はその拳を巨大ミミズにぶちかます。
「オラァァァ!!!」
巨大ミミズの体は、文字通りの木っ端微塵となり辺りに巨大ミミズの肉塊が飛び散る。2匹は自分より強いであろう1匹が惨殺されるのを直視し恐怖から逃げ出す。
「逃がさねぇよ?」
「あーあ、終わっちまったか。」
積み上げられた肉塊の上で、恐戦士は残念そうに呟いた。その目は、先まで暴れていた猛獣のそれとは違い、死を悟った小動物のような途方もなく遠くを見る目をしていた。
「もうそろそろ自由時間も終わりか。裁定者?とか言われてたやつと、星谷には感謝しとくぜ。おかげで、また暴れられたからな。次がある時にはきっと俺はほぼ消えてるんだろうが、そん時はそん時だ。あるかも分からねえ天国とかやらで静かに見守るとするぜ。」
友に勇気づけをするように恐戦士は器の胸を叩く。そして、遺言を残す。
「あいつは、自分の感情を表に出せない性格だ。それにあの時からずっと後悔してる。だからできればサポートしてやってくれ。後のことは頼むぜ。使いこなせよ。」
恐戦士は目を瞑り、そして体全身から力を抜く。力が抜けた器は肉塊の山から地面へと向かって転がり落ちた。
目が覚める。体中が、筋肉痛で動かしづらい。視界に映るのは山積みにされたサソリとネズミ、そしてミミズっぽい肉塊だった。悲惨な光景、これをあのオーバーゾーン状態で行ったかと思うと今後使うのが躊躇われる。獣臭が混じった血生臭いにおいに鼻を詰まらせ、這いずってリュックの中にしまっていたほぼ砂糖でできた飴玉を顎で割りながら食す。
「生きててよかった……」
心からの叫びが樹海に木霊する。体を起こして再度肉塊の山を眺める。斬撃の跡と共に撃ち込まれたであろう打撃痕が肉塊に色濃く残っていた。素手でぶっ倒したのかと戦慄しながら拳を見る。そこには擦り切れた跡もなければ腫れたりしている様子すらなかった。胸に残る懐かしくも知らない温かさに疑問を持ちながら俺はメールを送って帰路に着いた。
狂戦士ではないです。狂っているのは変わりませんが。こんなにも情報を開示してよかったのだろうか?
遊戯王の二次創作を1万字書いたのにこっちは書かずに情報開示を戸惑ってるとかこいつホンマ