第65話 自然界よ吐け口と成れ
塾バイトがキツすぎて鬱になりかけました。どうも
一人家に帰り、気持ちを落ち着かせる。あの神楽坂の放った言葉を思い返そうとするたびに半ば強引にストッパーがかけられたように激しい頭痛と吐き気が体を襲う。便器に何度も嘔吐し、パフェの残骸と胃液で中が汚れ、それを見て引き金となり、また嘔吐を繰り返す。
「はあ…はあ……」
あの言葉は俺のトラウマに認定にする。たぶん文字列を見るだけでも吐き気が来る。生理的嫌悪だとかそういった類じゃないのはわかってる。もっと奥底からの恐怖というか、体に刻まれた畏怖の遺伝子に近いのだと思う。いやいや、こんなことを考えてはまた…うっぷ……い、今は無理でも体を動かして忘れよう。そうでもしないと嘔吐の無限地獄に突入することぐらい容易に想像が付く。財布の中身は既に空だから、久々に自然界の奥の方でお宝探しにでも行くか。
リュックと武器、糖分補給用のキャンディーを用意し、メールで帰りが遅くなるか帰ってこないかもとだけ送り、家を出る。
「すぅーーはあーーー」
ひたすら歩きながら目的地を探し、自然界の森の中で深く深呼吸をする。吐き気の後に良い空気を吸えば気分は自然と落ち着いた。ある本で読んだのだが、人間は森に入ると、血圧の低下やストレスホルモンの低下、脳活動の沈静化、さらには免疫細胞の活性といった効果があるそうだ。落ち着くといえば落ち着くが、それ以前に森というのは弱肉強食が掟の自然界だ。命のやり取りが行われるこの場で落ち着くということは、自然界ではそれだけ冷静でいることがメリットであるということを遺伝子が教えてくれる。
夕焼けが森林を包む黄昏時。歩いて歩いてはや二時間したところにたいそう立派な建築物があった。この時代まで残ってるのが不思議なぐらいには原形を留めている。
「安城城跡、何ともご立派ァ!」
確か、永享12年に、三河国碧海郡周辺を支配していた和田氏の和田親平が築城したんだったか。築城当初は居館として使われてたらしいが、これもう安城城跡々だろ。だが、状態がいいということは、何かしらお宝は残ってるはず。
「早速、探索開始ィ!」
1時間後
「な、何も無がっだ!!!!」
チクショウ!こんなに状態が良ければ何か残ってるかと希望を抱きたくもなるだろ!あるのは何かもわからない朽ちた木製の道具やらばっかで、売り物になりそうな物なんてこれっぽっちもなかった。諦めて帰って、帰り道にある本屋に状態が良さそうな人気漫画が無いかチェックするか。結構良い値で売れるんだよなあ。
安城城跡々を出て、近くの本屋を漁る。小説、小説、小説、雑誌、雑誌、小説、雑誌、漫画、お!あったあった。ジャンプとかマガジン、コロコロだとかは結構高値で売れる。その理由はよくわからないが、まあ、200年も昔の作品が紙媒体で残っていること自体が奇跡的だ。だからアンティーク品として希少価値があるのだろう。変態的なマニアがいたもんだ。安値だろうが、高値だろうが問答無用で買いに来てくれる客がいるって「ナンデモート」の店長が言っていた。何でも、第一区の富裕層が買い取ってるとか……
リュックにできる限りの漫画をぶち込む。リュックが重さですごいダラーンとしている。歩くたびに尻が叩かれて鬱陶しい。そう思いながら本屋の外を出ると声をかけられた。
「また会ったネ。」
「アド=ネトラム……!」
そこいたのはアド=ネトラムだった。
「会いに来たの間違いだろ?それで、何をしに来た?勧誘でもしに来たのか?だったら、やめとけ。ぶっ飛ばされないうちに消えろ……な、何だよ?」
アド=ネトラムは、ジロジロと狩る者が獲物を見定め、舐め回すように俺の体を見る。
「うーム、器の方が育っちゃったカ。僕としてハ、そっちの成長は望まなイ。」
何をゴタゴタと…いや、器の成長だと!?器、あのEDEN財団のやつらも似たようなこと言ってやがった。俺の体に何かあるのか?
「早いうちに器を壊しテ、新しい器に馴染ませるカ?いヤ、そうしよウ。」
そう言った次の瞬間、奴の腕がまるでツルのように伸びると鞭を打つように攻撃を仕掛けて来た。俺は咄嗟に避けてリュックを放り投げ、機械剣を構えて、アド=ネトラムを睨みつける。
「とうとう、ラスボス様が直々に手を下さってか?」
「これモ、全テ、星谷様のためですヨ。」
「そうかよ、なら粗挽き肉団子、いや、野菜ペーストにしてやるぜ!」
左手に構えた機械剣を一度鞘に収めて高速で引き抜く。
「第一刃!炎描く居合軌道!」
弧を描いた炎を纏う飛ぶ斬撃が、アド=ネトラムに直撃する。奴の体は草でできているのか、すぐに炎は体中へと燃え広がる。草タイプに炎技は抜群のはずだが、やつは微笑みを見せるとその炎を一瞬にして鎮火させる。そして、焼けた体の表面から黒い皮膚のようなものが焼け落ちた場所の雑草が凄まじい速度で成長したかと思うと、まるでミサイルのように一つに纏まり、俺に向かって発射される。
「森デ、火器は厳禁ダ。」
「お前が使ってんだろうが!!!」
自動追尾でも付いてんのか!?逃げても逃げても発射されたミサイルはどこまで俺を追いかけてくる。このまま走り続ければ直撃は免れないことは容易に想像が付く……なら!
建物と木々の間を縫いながら、アド=ネトラムの方へと走る。近づいて来た俺を捕らえようと伸ばしたツルを機械剣とマンティスガントレットのブレードで切り刻み、股下をスライディングで駆け抜け、ミサイルがアド=ネトラムの体に直撃し、爆発したのを確認する。
「ッシャオラ!直撃くらいやがれ!」
だが、自ら放った攻撃にやられもしないだろうことは承知済みだ。今の爆発で出た煙幕を使って奇襲を仕掛けるにも、一度この場を離れて…ええ!?
煙の中から二つの巨大な影が見えた。侍甲冑のような外骨格を持った和風な蠍が飛び出し、その後ろから針の代わりに銃口がびっしりと背中を覆った針鼠が針の弾幕を張って援護射撃を行う。俺は木の影に隠れながら弾幕を避け、蠍を撒こうと街中を走り回る。
「武者鎧蠍と超連射針鼠ダ。あのカマキリを倒せたのだかラ、これくらい余裕だろウ?」
あれは一人で倒したわけじゃねえっての!というか、何だこのクリーチャー共は!?サムライ風の蠍にガトリング背負ったハリネズミ!?人間嫌いな割には人間らしい容姿の武装をしてやがるな。
飛び出した蠍の繰り出したハサミが、まるで日本刀で竹でも切る感覚で針の弾幕から身を隠す遮蔽として使った大木を切断しながら接近してくる。
だあーもう全然近づけねえぞ!ワンブイスリーで戦っていい相手じゃない。何とかして引き剥がさない限りはジリ貧になってこっちが負けて死ぬ。糖分補給の飴で手持ちは2個。戦えてあと20分ってところか……あれ?これ詰みでは?
「だが……とにかくぶっ飛ばす!」
足を止めて体を蠍の方に向ける。蠍は。足を止めた俺を、まるで戦の前に名乗りを上げるサムライのようにハサミを挙げて威嚇する。
「日本男児の意地ってもんを見せたらァ!!!」
蠍へと接近、そして互いの刀がぶつかり合う。性能だけで言ったら俺の方が上なのだろうが、蠍のパワーが桁違い過ぎる。足を踏ん張るも、だんだんと後ろへと押され始める。そして蠍の背後から連射ハリネズミの針が俺の左腕を射抜く。幸いにもガントレットを装備していたから貫通には至らなかったが、当たった衝撃で反射的に左手から力が抜ける。
「マズっ……!?」
次の瞬間には、左手から機械剣は離れ、蠍のハサミが俺の左腹を斬る。強烈な痛みが襲うと同時に斬られた個所から血が流れる。俺は一気に跳躍して建物の二回へと駆け上がるも、痛みが俺の思考を阻害し、冷静さを欠かせる。
どうするどうする馬鹿でもないのに遮蔽物もない上になんか向かって馬鹿じゃねえの!?もっと冷静になれ、この状況で冷静になる方法なんて、方法なんて……あ、ある。だが、この状況であれを切ってどうする?ここは自然界。人間界ならまだしも、ここは自然界だぞ、アフターサービスなんか期待もできないような場所だ。ここで倒れればやつらは当然俺の事を殺すだろう。この状況下で勝てる自信も無い。
「なら……」
星谷の目の色が変わり始める。
「ここで、使う!」
瞳は赤く染まり、星谷は自分を手放した。頭がまるでショートしたかのよう下を向き、再び顔を上げる。再び上げたその顔は、一言で言えば真顔、常人であれば何を考えているのか理解が及ばない顔であった。だが、瞳を赤く染めた星谷の姿を視認したアド=ネトラムは歓喜した。
「お目覚めになられましたカ。さア、今こそ我らに神託ヲ...…!」
両手を広げ、まるで神を直にでも見ているかのように嬉々とした笑みを浮かべるアド=ネトラムだったが、それは次の言葉に打ち壊された。
「まだ、早い。」
「ハ…?」
そう目の前の者が口にした時には、アド=ネトラムの創り出したネオクリーチャーたちは、星谷へと襲い掛かっていた。アド=ネトラムは、それを制止させようとネオクリーチャーたちに向けて四方八方からツルを伸ばし捕えようとするも、それらはいとも容易くブーメランのように投げられた機械剣が切り裂き、超連射針鼠の体を穿ち貫いた後に星谷の手元に戻る。
「やめなさイ!」
声をもって武者鎧蠍を呼び止めるも、星谷は蠍の左前足を掴み振り回して地面へと叩きつけていた。
「仕方がありませン。あなた様がその気であるのなラ、相手になりまス。」
俺の作品を二週しようとしてる同志さんがいるので、張り切りたいと思います。伏線なんてなんぼでもあってもええですからね。
追記:満足編が面白すぎる。
追記:キリエのZONE:魅かれ合う二極が引かれ合う二極になってることが判明見つけ次第修正
追記:設定開示をどこまでするか悩みすぎて時間が過ぎる




