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第60話 体が疼く甘い恋

奏章4おもしれ―!!!!

 火野さんとの模擬戦の終了に起きたEDEN財団上級職員による襲撃事件を機に、俺たちの学校の警備は一段と強化されることになった。そのため、学校が一週間ほど休校になった。逆に一週間で工事が終わるかと言いたくなるが、狩人育成機構の敵対組織の上層部が何の宣言も無しに乗り込めるほどに甘いセキュリティーなのが問題なのだろう。わざわざ複数人の職人たちを呼び寄せているとかのうわさも立っている。


「火野さん、今日も職員会議で遅くなるって。」


 リビングのソファーで、ぐてーっと体を伸ばしているキリエが俺たちに向けてスマホを見せた。


「そりゃ、あんなこと起こったらな。PTAとか、狩人育成機構が黙ってないだろうよ。」


「せやけど、一週間は長すぎるわ。それに、安全が確保されるまで、生徒は外出禁止とか、窮屈でたまらへん。まあ、自然界で身体を動かす分には火野はんも許してくれとるけど……」


 ガマは、机の上に広げた大量の課題に頭を突っ伏せる。


 俺たちは、あの後に家に強制送還された。まあ、あんな事があったんだ。妥当な判断だと思うが、何せ課題が多い。半分切る事ができなかった罰ゲームと、学校が再開するまでの課題が山積みだ。答えも配布しやがったから丸つけで使っているボールペンの残量が尽きる。


「そういや、今日の飯当番はワイか?」


「指が痛いからたこ焼きでも作って。」


「タコパか、材料あったっけ?金渡してくれるなら買ってくるが。ボールペンとかも買いたいし。」


「おおきにやで星谷はん!ほな、頼むわ。」


 ガマは食費用の共用財布を手渡す。入っている額は約10万円、できるだけ安く買い物を済ませることを目標に俺は七区へと向かった。


 七区に着き、俺がまず向かったのは北部にある、とある文房具屋。その名を「レックスペンズ」そこで目当てのブツを探す。それは5色の多機能ペン。それもただの多機能ペンではなく、白を基調とした青の筋が入った恐竜がデザインされた首振り機能がついたペン。一目見た時から欲しいと思っていた代物だ。何でも10年前にこの店の社長さんがそのデザインの恐竜に助けられたことをきっかけに自らデザインを施した逸品だそうだ。


 小さな店内を巡回し、目的のものを見つけて商品棚へと手を伸ばす。そのペンを取ろうとした時、突然手に電流が流れたかのようなピリッとした指と指が重なる感覚が指先から走る。


「「あっ」」


 驚きから気の抜けたような声を上げる。そしてふと横を見ると、そこには青髪の美男子がいた。 容姿は、透き通った水のような水色のネオウルフカットに、整った顔立ち。サファイヤのように輝く青い瞳。身長は俺より少し小さいか、同じくらい。服装は、清潔感がある青いレギュラーカラーシャツと白のスウェットパンツにブラウンのシューズだ。そいつは、俺と同様に一瞬驚いた顔をしていたが、俺の顔を見るなり状況を察したのか、商品棚から手を引いた。


「お先にどうぞ。」


 紳士的かつ和らげな口調の優しい声色で、そいつは俺を促した。俺はこの状況に微かな違和感と懐かしさを体が感じていたが、頭で理解ができなかった。なぜだか体が内からジンワリと温まり、気持ちが落ち着くと同時にこっぱずかしい。矛盾しているのはわかっているのだが、そうとしか説明が付かない。


「どうしたんだい?」


 不安げながらも笑顔で覗き込むように話しかけるそいつの顔を直視して緊張が加速する。俺はサッとペンを取り会釈して逃げるように自動会計を済ませて店を出た。


「あーあ、行っちゃった……」


 そうボソリと独り言を呟く姿が目に浮かぶ。なぜここまで鮮明にその姿を想像できる?なぜ、ここまで胸が熱くなる?なぜ、こんなにも心の底からトキメイている?疑問が疑問を呼び、加速させる。


「この俺が、一目惚れ……?」


 人として当たり前のことだろう。何を驚く必要がある?いや、ある!相手は男だぞ!?アンディーじゃあるまいし、俺にそんな趣味があるわけでも無い。なのに、頭の中からあの美男子の顔が離れない。覗き込む動作に、作り笑顔、容姿に、人柄に、その全てが愛おしいと体が言っている。体は正直と言うが、俺の思考と体は、完全に分かれてる。だからこそ、混乱する。


 買ったペンを握りしめて、近くの公園の背もたれとかが無いベンチに座って息を整える。スマホのインカメに映る自分の顔を覗き込んで顔色を見た。


「赤くなってらあ…」


 俺の耳とほっぺたくらいの場所が桃色かかっている。体が興奮している証拠だ。


「大丈夫かい?」


 スマホに夢中になっている声がかけられる。思わず声をかけてきた方を見てしまった。


「ああ…ちょっ!?」


 その声には聞き覚えしかない。あいつだ。驚きのあまりベンチから転がり落ちそうになった時、そいつの手が俺の腕を掴んで、落ちるのを防いだ。緊張と恥ずかしさから頬が熱くなる。


「改めて、大丈夫かい?」


 態勢を整え終わると手が離れる。一瞬、だが掴まれた俺の腕に残る手の感触が消えない。


「ああ、サンキュー。」


 返答を聞いたそいつは、俺の隣に腰かけて聞いてきた。


「君、名前は何ていうんだい?」


「え、えっと…星谷世一だ。」


 何か、もの悲しい表情を浮かべた後、再び笑顔に戻ると、再び話しかける。


「そのシリーズ好きなのかい?」


 手に握りしめていたペンを指す。


「前から欲しいとは思ってた。恐竜ってかっこいいだろ?」


「ふふ、そうだね。恐竜はかっこいい。強くて、勇敢で、荒々しくて、でも、ちょっと抜けてるとこが可愛らしくて、僕も好きだな。」


 意外と気が合うなこいつ。名前でも聞いてみるか。


「お前、名前は?」


「僕の名前は、神楽坂音色(かぐらざかねいろ)。友達からは、カグラって呼ばれてるんだ。よろしくね、星谷君。」






 課題をサボってスマホをいじりながら帰りを待っていると、扉の開く音が聞こえた。玄関の方を覗くとそこには買い物から戻って来た星谷が立っていた。時刻はとうに19時になっていた。星谷が家を出て行ったのは10時、約9時間も経っている。


「ただいま……」


「おかえりー」


「おお、お帰りやで。早速準備するわ。」


 星谷は、ガマに袋を渡して何も言わずに階段を上がって自室の方へと向かっていった。その時の表情は、いつもの星谷らしくない顔だった。何かひどく深刻そうに悩んでいるような、そんな顔をしていた。


「ねえ、ガマ。星谷って、何か悩んでるよね?」


「まあ、いつもの顔とちょっと違ったな。疲れとるんやろ。知らんけど。」


「ふーん」


 ソファーから立ち上がり、階段へと向かう。星谷の部屋の前に立ちノックする。


「あ、おい!それトイレノックだろ!!」


 鋭いツッコミが入る。どうやら、ツッコミをするくらいの元気はあるっぽいことに胸を撫で下ろす。


「入ってもいい?」


「どうぞー」


 さっきのツッコミとは打って変わって気の抜けたような声で返答が返ってくる。情緒が不安定になる程のショッキングなことが起きたのかと少しだけ緊張が走る。もう、ほんと何やってるんだか。扉をそっと開けて中を確認する。そこには、うつ伏せ状態で肩の真下に肘を置き、両肘とつま先だけを地面につけて身体を浮かせ、頭から足まで真っすぐに体を伸ばした状態をキープしている星谷の姿があった。


「えっと……何やってるの?」


「プランク」


「見ればわかるわよ。」


「何で聞いたんだよ!?」


 呆れた。落ち込んでいるところに何を悩んでるの?話聞こうか?と入るつもりが、元気に筋トレやってるとか想像つくわけない。元気そうで何よりだが、違うそうじゃないとこの状況にツッコミたくなる。


「で、えーっと。要件は?」


「腰浮いてるわよ。もっと下げなさい。」


「バカ止めろ!足で腰を押すな!」


 癖になる前に止め、本題を切り出す。


「あんた、なんか悩んでたりしない?」


「へ?うーん、悩みと言うか、悩みだよなこれって……ガマとかにも相談載ってもらいたいから、飯の時でいいか?今は、ちょっと気持ちを落ち着かせたいって言うか。」


「打ち明けれるような悩みならよかった。」


「二人ともータコパの準備できたでー!はよ()いや!」


「準備ができたらしいわね。」


「おう、さーて食うぞ!」


 星谷は、勢いよくクラウチングスタートで部屋を飛び出して行った。






 机に並ぶ材料を見て、再びよく揃えられたと自分を褒めたくなる。あの後……


「神楽坂って、あの青薔薇の麗人……!?」


 ベンチから立ち、咄嗟に神楽坂との距離を離す。


「ひどいな…そんなに、僕が近くにいるのが嫌なの?」


 神楽坂は、上目遣いでこちらを覗く。不覚にも可愛いと思いつつ、そのことに恐怖する。


「そうじゃねえ。一緒に居て悪い気はしなかった。だからこそ恐ろしいと思った。こんな簡単に人との物理的、心理的な距離を近づけられることにな。」


「え……?」


「え……?」


「ふふふ。それは、僕のZONEは関係してないよ。それは、ただ単に星谷君が、僕のことを外敵と判断してなかっただけだよ?もしかして、僕のこと、好きになっちゃった?」


 神楽坂が口に手を当て、笑いながら話す。精神とかに作用するZONEじゃないのか。てっきり、気付かないうちに負けてるってそういうことだと思ってたんだが。


「僕は別にそれでもかまわない。ほら、僕って完璧だから。」


 胸に手を置き自信満々に語るその姿に噓偽りは無いように感じた。本当に完璧なんだろう。少し前に狩北のことを調べたが、他の区にある狩人育成機構の学校とは比べ物にならないほどにずば抜けて成績が優秀。偏差値は70を超え、狩人認定試験の合格率は脅威の約90%。そこで最強と謳われる神楽坂がいかに優秀かどうかなんて、考える必要もないし、疑う必要もない。


「お前、今年の球技大会出るんだよな?どれに出るんだ?」


「えーっと、今年はサッカーに出ようと思ってるんだ。」


「なるほど、ライバルってことか。」


「もしかして、星谷君も出るの?」


「ああ、狩高舐めんなよ?」


「なら、知っといた方がいいよ。」


 神楽坂は徐にベンチを立ったと思った次の瞬間。


「僕の強さをね…」


 と背後から耳打ちされる。


「は……!?」


 咄嗟に振り返って、姿を見ようとしても、そこには、メールアドレスが書かれた紙がゆらゆらと落ちていくだけだった。


「星谷はん、食わへんのか?」


「えい。」


「熱っ!?」


 突如として頰に押し付けられるたこ焼きの熱さで現実へと引き戻される。どうやら、思い出?というか、過去を振り返っていたからか、ぼーっとしてたような感覚だ。


「星谷はん、浮かない顔しとるな。どしたん、話聞こか?」


「それ、結局聞かないやつのセリフよ。それで、星谷、あんた今日なんかあったの?」


「えっと、今日レア物のボールペンを買いに初めて北部に足を踏み入れたのですが……会っちゃったんです。神楽坂音色(かぐらざかねいろ)と……」


「ホンマかいな!?あの青薔薇の麗人と会ったんか!?」


「その感じだと何かされたのよね?何されたの?」


「何されたって感じじゃなくて……俺、神楽坂に恋しちゃったかもしれない」


「「はぁぁぁぁ!?!?!?」」

突如、星谷の下に現れた神楽坂によって引き起こされた星谷世一争奪戦。我が国は、キリエ、神楽坂、etc…に別れ、混沌を極めていた。このまま歩き続けてく、今夜も真っすぐ、一人足跡辿って♪

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